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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/25(日)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(7)
 行く先などわからない。どこまで逃げればいいのかも。あるいはどこまでという終わりなどはなく、永遠に逃げ続けなければならないのかもしれない。この地獄を。化け物たちから。
 脚が重かった。もう腿が上がらなくなってきている。自然に歩幅が狭くなり、速度も遅くなった。しかし走らなくてはならない。走り続けなければならない。未来は命を擦り減らすかのように、力を振り絞って前に進んだ。
 隣では弘之が呼吸を荒くしながらも走っていた。右脚からは血が流れている。それでも彼は脚を動かすのをやめない。もしかすればこの極限状態で脳内麻薬が大量放出されているのかもしれない。そう、2人には痛みを感じている余裕もなかった。脚を止めることは出来ない。進まなければあるのは死だった。
 後方から巨大な蚊の大群が近付いてきている。距離は確実に縮んでいた。もっと速く走らなければ。未来は前方を見た。誰かが視界に入ってきた。男だ。男も未来たちに気付いた様子で両手をあげて振っている。あの蚊の群れに気付いていないのだろうか? そう思った次の瞬間、数匹の蚊が未来の上空を通り過ぎて男を襲った。最初の1匹が男の喉元に、その怖気の奔るような長い口吻を突き刺した。ずぶり。続いて数匹も男の体に口吻を突き立てる。ずぶりずぶり。男は何がおきたかわからないというような、そんな驚いた表情を見せて、崩れるように倒れた。おそらく死んだ。未来は改めて思う。――死にたくない。
 このまま走り続けてもいずれ体力が尽きることはわかっていた。もう走る速度もだいぶ落ちている。さっきはたまたま未来たちを越えて見知らぬ男が襲われたというだけで、それはやつらの気紛れというだけで、次は自分かもしれないと未来は不安に襲われる。そして、全ては化け物どもの気分次第なのかもしれないという事実が悔しかった。もし言語が通じるならば、気持ちを伝えられるならば、何でもするということを示しそうな自分が嫌で仕方なかった。それでも、生きたいと思った。まだ死にたくない。
 バタン、という音を耳が捉えた。とっさに音の方を見遣る。そこには鉄の扉があった。デパートの、業務用出入口。――いま誰かが入った? もしかして、という思いが彼女に湧き上がる。もし違えば確実に死が待っているだろう。だが、賭けてみる価値はあるのではないだろうか? そして彼女は決心する。「弘之、こっち!」
 そのドアはすんなりと開いた。建物の中に入るのは容易く、鍵はかかっていなかった。急いで閉めたドアに何かがぶつかる音が聴こえたが、ドアは依然として閉まっている。あの巨大な蚊たちも鉄のドアは破れないようだった。安堵で力が抜ける。もしドアが施錠されていれば生き延びてはいなかったと思うと、涙が溢れた。その場に座り込み、未来は泣いた。
 2人はまだ死んではいない。



<作者のことば>
思ったより文章量が少なくて「あれ?」という感じ。
毎回思うのは、実際にこっちに載せると量が少ないということ。もう少し長くてもいいのかもしれない。

ただ、あまり長いと読むのだるいと思われるかもしれないし(俺だったらだるい)、こういうカタチで公開している以上は細かくせざるを得ないので流れを変に止めないように区切らなきゃな~って思うと長さが一定してくれない。むむむ。

え? 骸はまだかって?
そんなこと俺が訊きたいよ、まったく。


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