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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/19(月)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(4)
 2人が全力で逃げ込んだのは弘之の家だった。そもそも彼が近所を歩いているところに未来が走って現われたのである。佐々木家は地震の被害をほとんど受けていなかったので、この逃避先は当然のものだろう。
 玄関のドアをきっちりと施錠して弘之は未来とともにキッチンに進んだ。2人とも全力で走ったのでクタクタであったし、何より喉が渇いていた。冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをゴクゴクと喉を鳴らして一気飲みする。
「あれはなんなんだ?」
 誰に問うでもなく弘之が言った。
 それに関して未来は何も答えるようなことはせず、ただ沈黙する。
 家の中は静かだった。
 弘之は辺りに漂う空気の違和を感じ取った。
 どうも静か過ぎるのだ。
 彼はゆっくりとキッチンを抜けて両親を呼ぶ。――反応はない。
 ミシ、と軋むような音が2階から聴こえた。2階にいるのだろうか? 彼は階段を昇った。ひとりになりたくなかった未来もそれについていく。
 残り数段となったところで弘之は足を止めた。何か、臭う。生臭いような臭気が漂っている。これは一体……?
 そのとき視界にはツーと流れてくる液体が見えた。階段を伝って、自分たちに近付いてくるそれ。それは、赤く独特の臭気を放っていた。それは、血だった。
 うわっ。そう声をあげて思わず数歩退いた弘之はそれが一体誰の血なのかということを考えるまでに数秒かかった。そして数秒後には、慌てて階段を駆け上る。未来もそれに同様に急いだ。
 そこは小さな地獄だった。赤く染められた、血腥(ちなまぐさ)い空間。一面に広がっている血溜まりの中に腕が落ちていた。見覚えのある、手。
 あまりの惨状に未来は卒倒しそうになったが、どうにか踏み止まる。両脚に力を込めて、しっかりと意識を保った。あれはたぶん、おばさんの腕だろうと彼女は思う。
 そんな血に彩られた悪夢の中で弘之を襲ったのは母を喪失(うしな)った悲しみよりも衝撃だった。そして深い恐怖。この先どうすればいいのか――、一瞬で脳内がパニックになる。混乱。血臭が鼻腔を突く。わけがわからない。おれは。彼は思う。おれはおれは。感情が処理できるキャパシティをオーバして涙が溢れそうになる。おれは――…
 だらり、と天井から降ってくるものがあった。
 それを未来は視界に捉えた。なんだろう? そう思う間もなく、ジュッという音が聞こえた。そして弘之の絶叫。
「大丈夫!?」
 弘之の右脚が溶けていた。太腿の筋繊維が曝け出され、嘔吐を引き起こしかねない悪臭が鼻腔を突いた。肉が溶かされていた。――しかし一体なにに?
 叫び、うずくまりながら弘之は自身に何が起きたのかを把握しようとする。激しい痛みに顔を歪め、あたりを見回す。天井に、何かがいる。
 醜悪な姿だった。表面がぬめぬめとしていた。そして体は恐ろしく長い。口は大きく開いていて四方八方に牙のようなものが向いている。
 巨大なムカデが天井を這っていた。
 どろり。体長何十メートルもありそうな大ムカデのグロテスクな口元から液が滴(したた)った。ジュッ。音をあげて床に落ちる。溶解液だ。
「未来、逃げろ!」弘之はそう叫んで未来を押しやった。「早く!」
 体長数十メートル。幅は60センチほどある巨大な体。「百足」というにはあまりに体が長すぎる。その脚は百本では到底足りないだろう。その化け物が素早い動きで2人を追った。ぞぞぞぞ、と無限とも思われる脚が動いた。ぞぞぞぞぞ。
 再び全力で駆ける2人は佐々木家を飛び出した。空は曇天に変わっている。世界が一転して暗黒に包まれたかのようである。道路には人が倒れていた。その体の肉は食い破られており、内臓が引きずり出されていた。自分たちは誤って魔界に踏み入れてしまったのだろうか? そんな思いが2人の脳裏を過ぎった。




<作者のことば>
骸だけではどうにも話が出来上がらないと思って、てきとうにキャラクターを作って登場させたのはいいものの、骸不在でストーリーは進行していく。
おかしいな、確か骸を活躍させるのが目的で外伝を書こうと思ったのではなかったっけ?

完全に骸を出すタイミングを見失っているなんて、ここだけの秘密です。


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COMMENT

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浅葱 | URL | 2010/07/20(火) 08:49 [EDIT]
適当に作ったキャラクターが ここまでの緊張感をワタシに与えてくれるのですが(笑)
いやぁっっ イタイっっ!!切られるとか潰されるのはまだ「うぅっ」と思うだけなんですが溶かされるのは痛いーっ!!
しかも百足orz 長い生物ってなんであんなに不気味なんだろう(ノДT)
知っている生物が怪物のモチーフになってるから逆に想像しやすいというのか恐いっす(>_<)
MUKUROさん活躍な外伝!!…なんですよね(笑)?
このシリーズ好きとしては読めるだけで嬉しいですがv

匡介 | URL | 2010/07/20(火) 16:59 [EDIT]
>浅葱さん
おっ 緊張感与えられてますか?(笑)
最近はキャラクターの造形を最初からきちんと決めなくても、案外あとからついてくるものだな~なんて思います。何を重視するかによりますが、MUKUROはキャラクターにあまり依存していないので即興キャラで充分話を展開出来てますね~。
こういうポジションのキャラが必要だなって思ったときに、その場で名前を与えて物語に加えちゃう程度の作業なので、キャラ作りに時間を割かなくて非常に助かってます(笑)

……あれ? ムカデ苦手でしたか?(笑)
自分はそこまで苦手な生物ではないのですが、今回よりリアルに描写したいと思いムカデの外見や生態を調べるべく色々見てみたのですが、ムカデって結構飼ってる人が多いんですよね!!
個人的には大量のムカデが卵から孵化して蠢いている図が結構おぞましかったです。虫の怖さの一つに、大量で蠢くっていうのはあるな~って思いました。生まれて間もない白い体もまた気色悪くてゾゾゾ~><;

> MUKUROさん活躍な外伝!!…なんですよね(笑)?

ええ、そうあって欲しいものですが(笑)、どうもシャイなのかまだ登場しそうにありません!!
それほど長くするつもりがない外伝なだけに、早く登場して欲しい気持ちでいっぱいなのですが、それはいつになるやら~。気長~~にお待ち頂ければ助かりますっっ(汗)

この作品を好きだと言ってくれている浅葱さんの期待を裏切らないようにしたいと思うので、ゼヒゼヒ最後までお付き合いくださいませ~!!

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