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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/15(木)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(2)
 両親の寝室から飛び出すように駆けて、高儀 未来はトイレに隠れた。ドアを閉めて、施錠する。
 さっき穴から飛び出してきたアレは何なのか、彼女にはまったくわからなかった。ちらりと見た限り、形状は魚に似ていたがとてもグロテスクであった。化け物染みた外観。カジキマグロのように、突出した鑓(やり)のようなものが付いていた。角なのだろうか。あんな魚が本当にいるものなのかと疑ってしまいたくなる。――そして、その魚は宙を泳いでいた。つまりは自然と宙に浮いていたのだ。
 両脚の震えが止まらなかった。正確には、全身が震えていた。しかし彼女は自覚していないだろう。それほどまでに恐怖で何も考えられなくなっていた。思考が働かない。何も感じない。
 ドス、という音が鼓膜に届いた。なんだろうと未来は顔を上げると、木製のドアから鑓のようなものが突き出ていた。あの怪魚の鋭い突起だ。
 気付けば叫び声をあげていた。ドアを開けようとして何度もドアノブを回したが動かない。ガチャガチャガチャガチャ。どうして? 早くしないと殺されてしまう! 未来の手のひらが汗で滑る。そこで彼女はドアが施錠していたままだということに気が付いた。慌てて鍵を開け、トイレから飛び出す。脇目も振らずに全力疾走した。振り返ることもしないので、背後からあの怪魚が追ってきているのかどうかもわからない。とにかく脚を止めたくはなかった。矢のように飛んでくる怪魚のイメージが頭から離れない。逃げなきゃ、逃げなきゃ……!!
 玄関を乱暴に開けて、外に出る。地震の影響か、周りの家も無事ではなかった。崩れかけた建物がいくつか見える。だが彼女は今それどころではない。止まることなく走り続けた。
「未来!」
 走っている途中で自分を呼ぶ声がした。そちらを見遣ると未来の幼馴染みである佐々木 弘之の姿がそこにあった。彼は必死の形相で駆け抜けていく未来に何事かと目を丸くしていた。「一体どうしたんだよ」
 確かに事態は只事ではなかった。震度7近いかもしれない激震のあとなのだ。しかし、それでも未来の行動に弘之は驚いていた。まるで化け物か何かから逃れようとしているようだ。
「お前のとこ、大丈夫か?」
 未来はいま自分が走ってきた道を確認した。何も追ってきてはいない。それがわかると安堵のあまり力が抜けて、その場に座り込んでしまった。息があがって声も出ない。
「お、おい。大丈夫なのかよ」
 弘之が心配そうに未来に駆け寄り、彼女の肩に手をかけた。「どうした?」
「……あの、魚が………」
 ゼエゼエとした荒い呼吸の合間に、やっとのことでそれだけを口に出した。
「は? さかな?」
 その言葉の意図がわからない弘之は困惑した表情で周りを見た。未来の様子に近くにいた人たちが何人か近付いてきていた。
「未来、おじさんとおばさんは?」
 弘之の言葉に、未来は初めて母の死を実感した。瓦礫に押し潰され、頭から血を流していた母。ぴくりとも動いていなかった……。
「えっ、おい……」
 未来の頬にぼろぼろと大粒の涙が伝っていく。大声で泣きたかった。が、それは小さな嗚咽に必死に留めた。下唇を力強く噛み、押し殺すように彼女は泣いた。
 その姿を見て、弘之は未来の両親がもう生きてはいないことを悟った。それでこの取り乱しようなのか――自分の家族は全員無事で、人の死があまりに非現実的に感じていた。しかし、地震は容赦なく命を奪っていく。災害の悲惨さを彼は急に理解した。今は人の死が、一気に身近に感じられる。
「大丈夫かい?」
 2人のことを見ていた男が声をかけてきた。弘之はなんて言ったらいいのかわからず、ただ縋るような目つきで男を見る。男は2人に何かあったのだと気付いたのか、表情に深刻さが増した。「とりあえずこっ――…」
 男の言葉が途中で途切れたことを不思議に思って弘之は男を見つめた。
 よく見ると、男の胸に拳より一回り小さい程度の穴が開いていたことに気付いた。




<作者のことば>
化け物の話。
前回述べたようにテキストを媒体としている限り、自分は既存の生物をアレンジする。
本当にその全てを1からクリエイトすることはほとんどない。

それとは別に自然界(という言葉はあまり好きではないのだが)の脅威。あるいは生物の生命力の強さを描きたいという欲求もあったりする。人間以外の生物ってすごい。特に昆虫はやばい。なんだやつらは。
その独創的な進化は我々が想像もつかないような永き時を経て到達した、いわば生存という目的のために洗練された造りにほかならない。もちろん人間もそうなのだが、彼ら昆虫のクリエイティヴさには負けそうだ。
しかも虫というのは強靭で、哺乳類より遥かに過酷な環境にも適応できるのだろうと思う。実際どこにだってやつらはいる。そういう意味でも虫は生存という目的の中で自身のカスタマイズに成功しているのだと思う。おお、おそろしい。

それと同時に、「魔界」という言葉を聞いて連想するのは「海」だ。
特に深海なんていうのは魔界と呼ぶにふさわしい。光も届かぬ闇の底。浅瀬では見もしないようなグロテスクな異形が棲む世界。多くの器官(もの)が退化して、しかしその代償の対価として魔界に棲むことが許された種族。それが俗にいう深海魚のような気がしてならない。だが彼らは昆虫族とは間逆に、その環境の変化には滅法弱い。わずかな水温、水圧、水質、それらによってその生命が左右されてしまう。つまり魔界は変化を嫌う。変化しないということは死んでいるに等しい。死の世界。やはり深海というのは魔界と呼ぶにふさわしい気がする。

このMUKUROに出てくる化け物に昆虫が多い理由がそれであり、
また魚(を始めとした海洋生物)が多い理由はそれなのだ。

玖堂流の魔界観を最後まで楽しんで頂けたら幸いです。


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