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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/13(火)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(1)
 彼はその意識を自覚したときにはすでにそのように存在していた。それ以前の記憶はない。それは、記憶を喪失(うしな)ったということなのか、あるいは今この時に自分は誕生したのか、彼自身にもわからなかった。しかし彼はすでにそのように存在していた。

 ***

 静かな朝だった。小鳥のさえずりさえも聴こえない、静かな朝だった。
 布団を被ったまま時計を手に取る。そこには6:02とデジタルで表示されていた。それはいつもより30分以上早い目覚めだった。
 喉の渇きを覚え、彼女は自室を抜け出し階段を下った。キッチンまで辿り着くと冷蔵庫の中に入っていたお茶を取り出す。それをコップに注いで、一気に飲んだ。
 父も母も見当たらない。父はともかく、もう母は起きている時間だったはずだ。彼女はトイレのドアを開けた。誰もいない。そのまま便座に腰を下ろす。――まだ寝ているのだろうか?
 用を足してトイレを出た。両親の寝室を覗いてみようと思った。寝室のドアが見えたところで声をかけてみる。「お母さん?」
 何の返答もない。
 彼女はドアノブを掴んだ。――彼女が微震を感じたのはそのときである。
 わずかな震動を体は素早く感じ取った結果、彼女はその違和感に動きをぴたりと止めた。
「地震?」
 その言葉を発し終えるか否かの瞬間だった。
 今度は確実に体感できる震動が彼女を襲った。震度はかなり大きい。おそらくマグニチュードも。それは彼女が経験したことのないような揺れだった。轟音が耳に届いた。
 揺れが続いたのは3分ほどであろうか。――しかし彼女の体感としてはもっと長い。終わらないのではないかと何度も思ったほど、それは長く感じられた。もうこれが最期なのではと覚悟もしていた。それでも揺れはぴたりと止んだ。あたりが、しん、としていた。
 彼女は目の前のドアを開け、両親の寝室に入った。
 天井が崩れている。どういう力が働けばこのように天井が崩れるのだろうか――無意識に彼女はそう考える。そして、次の瞬間には目の前にある塊に気付くのだ。親だったものの、肉塊。崩れた天井はその重みで母親の頭を潰していた。血が臭う。何にも気付かずに死んだのかもしれない。そう思えるほど、母親の体勢は眠っているときと変わらない。ただ頭が潰れているだけだった。
 ――お父さんは?
 寝室には彼女の父親の姿は見えなかった。どこに行ったのだろうか? 地震があったときにはすでにこの部屋にはいなかった……?
 あまりの衝撃に、彼女の感覚は壊れてしまっていた。情報を上手く処理できていない。母親の死体を目の前にしても、涙は流していなかった。ただ、抑えようもない恐怖感だけが心を支配する。いま自分は何をすればいいのか、わからない。ただ、どうしようという想い、それだけである。
 ベッドの脇に目が留まった。大きな穴がある。地下に続いているらしき、大きな穴。
「……なにこれ」
 先ほど潤したばかりの喉がもうカラカラだった。口内がぱさつく。速まる脈拍、その動悸で息苦しさを感じた。
 ひょううううう――…
 風の音だろうか。穴の中から響いてくる。
 ひょううううう――…
 なんだろう……、なぜかはわからない。彼女の感覚は危険信号を発している。今すぐ逃げなくては――という思いに駆られる。しかし体は強張ってしまっていて、逃げることはできなかった。まるで金縛りにでもあったかのように動いてはくれない。
「なに? なんなの…?」
 もはや涙声だ。
 そして彼女の視界に何かが飛び込んできた。物凄い勢いで接近してくる。
「きゃあああああああ!!」
 彼女は叫び、ついにその場を逃げ出した。と同時に、穴からヒュンヒュンと複数の影が飛び出す。――それは魚に似ている。
 高儀 未来の顔は蒼白になり、思わず恐怖で引き攣った。




<作者のことば>
ついにMUKUROの外伝を書いた。有言実行。
基本的には地獄篇で活躍しきれなかったのではないかという骸を活躍させようというのがこの企画。

それと同時に本編をわずかながらでも補完できればと思う。世界観やらなんやら。
あとは地獄篇の続篇の伏線的なものもあれば、外伝を書く意味はあるのではないだろうか。そう思っている。思っているだけで、そのように書くとは決めていない。全ては未定である。どうにでもなれ!と突っ走るのが俺にとってのMUKUROなのだ。

しかし続篇のためにネタを残しつつ、化け物たちを描くのはとても大変だとわかった。
もしや化け物のバリエーションもMUKUROの大事な要素の一つなのでは? などと思ってしまって、もう完全に出し惜しみするカタチになっている。
皆さん、僕は出し惜しみしますよ!! 出し惜しみなく書いていけるほど豊かなイマジネーションを持っていない。そんな想像力ない。デザインを1から創ってしまえば、文章での表現が難しくなってしまうし(力量不足…)、既存の生物をベースにすると知っていて、尚且つ使えそうな生物の数に限りが……。それに、人面蜂のようにグロテスクな化け物にアレンジするにしても、やっぱ想像力が乏しいためにあまり浮かばない。。

基本的に全部に人面つければ気持ち悪くなると思うんだけどね(笑)

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COMMENT

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Belphegor | URL | 2010/07/13(火) 11:29 [EDIT]
匡介さんは一言で表すと「継続」だと思います。

自分も一時…新鬼武者と恋姫のクロスを書いていました。しかし、それは3~4話で執筆を断念しました。

匡介さんは執筆し続けているのがすごいと思います。これからも自分の書きたいものを書いてください。

微力ながら応援しています。

匡介 | URL | 2010/07/13(火) 14:07 [EDIT]
>Belphegorさん
こんにちは。
そんな「継続」だなんて! 自分よりもっと長く続けている人はいっぱいいるはずですよ!(汗)

自分も挫折して書くのをやめた作品がいくつかあります。
個人的な意見を言えば、最初は短いものから始めるのがいいような気がしますね。
自分も短いやつばっかり書いてきて、最近やっと少し長いものを書けるようになった程度ですから。

これからも書きたいものを書いていくつもりではあります。
でも、その書きたいものがいつまであるのかなって気持ちはあるんですよね。
こうして何年か書いてきて、そろそろ今のレベルでは満足いかないというか、物語自身が要求しているレベルの実力に自分が追いついていけていない感覚があります。

ただ、書くものがあるうちは書いていきたいと思うし、こうして読んでくださる方がいるうちは今のように続けていこうとは思っています。
あとどれだけ書き続けることが出来るかわかりませんが、出来るだけ長くお付き合い願えると幸いです。

ありがとうございました。
やれるだけのことはやってみようという気になりました。今後も面白いと思ってもらえるよう、頑張りたいと思います。

浅葱 | URL | 2010/07/14(水) 09:56 [EDIT]
おはようございます!!

んーーー 待ってましたーーっっ!!
布団中で携帯から読んでたんですが、このMUKUROは本当に好きです!
この”何か”が始まる前の緊張感というのか…今回はどんな風に展開していくのかな~とかもうすでに想像がかき立てられてます!

前に本の虫フジコちゃん(ワタシの友達です)が言ってたのは短編を多く書いてる人は上手い人だって言ってました
書く事に関してワタシはよくわかりませんが 確かに短編って難しいと思います
だからこれだけの作品を書いてる匡介殿はやっぱり凄いんだと改めて実感!そして長編も強弱があって面白いです
唯一の物書きさん友達なので無理せず、でもこれからも匡介殿の作品は読んでいきたいと 切に願う浅葱です

匡介 | URL | 2010/07/14(水) 19:26 [EDIT]
>浅葱さん
お待たせしましたー!!
予定では先月中に外伝の連載を開始したかったのですが、ちょっと遅くなってしまいました!!
でも、どうにか外伝を始められることが正直出来てホッとしてます(笑)

――ってか布団の中って!!(笑)
それは、どうもとても楽しみにされていた感がさりげなく伝わってくるのですが、嬉しいようなプレッシャーのような!
個人的には短編(あるいは掌編)は書けても、あまり長編は書けないないので長編書ける人ってすごいな~って思ってます。どうして長編が書けないのか、その理由はおそらく自分でわかってると思うのですが、自覚していてもなかなか思うように出来なく、日々己の力量のなさを痛感しています。いずれ長編も難なく書けるようになりたいものです。

浅葱さんは普段活字を全然読まない!と公言されているので、そんな中で自分の拙い作品を面白いと読んでもらえるのはとても嬉しくて、だけどハードル上げられているようで大変です(笑)

MUKURO外伝も是非楽しんでもらえたらな~という気持ちでいっぱいです!
浅葱さんの期待を裏切らないように、全力で書いていきたいと思うのでよろしくお願いしますね♪

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