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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/07/17(木)   CATEGORY: 雨の日のうた
雨の日のうた(8)
 俺と可南子が出会ってから1ヵ月が過ぎた。それでも1ヵ月とは思えないほど濃密で充実した時間だったと思う。この1ヵ月の間に俺は新しいバンドを組んだ。そのバンドを組むにあたってバイトも始めた。バンドはむやみやたらと金を喰う。
 その日、俺と可南子が初めて出会った日のように、外は大雨に見舞われていた。俺はそんな天気を見て可南子との日々を思い出していた。すごく楽しい日々だったと思う。俺はいつの間にかに、可南子のことが本気で好きになっていた。こんなに本気なのはいつ以来だろう? この心に芽生えた新たな恋を俺は祝福するべき? ハッピーバースデイ! 俺の恋! なんて言って新たな恋の誕生を祝うのは俺の中でささやかに行うとする。まあ、誰かに言って祝ってもらうほどのことでもないだろう。

 ヴヴヴヴヴヴヴ…

 俺のケータイのヴァイブレーションが作動して振動音が鳴った。俺はケータイを手に取り、開いてディスプレイをのぞいた。
 可南子のメールだった。内容は…ない。まったくの空白。空のメール。どうかしたんだろうか? 俺はどうしたのかとメールを打って返信をした。部屋の窓から外を見た。道に人通りはない。雨が窓を打っていた。

 俺はギターを手に取り作曲に取り掛かった。実を言うとFIRE-HEADで俺は不本意なヴォーカルだけではなく作詞作曲まで頼まれてしまっていた。作詞作曲はLucyのときにすこしだけやっていたとはいえ、バンド名をFIRE-HEADにして本当によかったと思う。
 ジャララン、と意味もなくギターを鳴らしてみた。何のアイディアも浮かばない。このままだとライヴはできないかもしれないな。なんてやる気のない俺。

 作曲に取り掛かってから2時間が経った。何か進展があったかというとそうでもない。2時間前と大して変わらなかった。俺は作ろうと思って作るタイプじゃなくて、ある日浮かんだのをそのまま楽譜に起こすタイプだった。だから作ってと言われてもすぐに出来る保証はない。だって出来るのは10年後や30年後かもしれないんだから。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴ…

 またケータイがヴァイブレーションした。その振動でテーブルがガガガガガと打ちつけられる。俺はケータイを開いた。今度はメールではなく電話だった。俺は通話ボタンを押した。
「もしもし…」
 聞こえてきたのは弱弱しい可南子の声だった。
「どうかした?」
 可南子は泣いているように聞こえた。でもそれは雨音のせいかもしれない。
「今どこ?」
可南子は答えなかった。そして沈黙。ケータイからは雨音だけが聴こえてきた。
 俺は窓から外を見た。相変わらず雨は強く降り続いている。可南子は家だろうか? 今から行けるか? この雨だと自慢のヨンフォア役に立たない。
 そのとき家の前に人影があるのが見えた。よく見るとそれは可南子だった。可南子は傘すらも持っておらず、この大雨に思うがままに打たれていた。俺は急いで部屋を出て玄関へと向う。玄関のドアを開けて、可南子へと駆け寄った。
「どうしたんだよ!」
 可南子は泣いていた。本当は大雨で流れているのが涙かどうかわからないほどだったけれど、俺には泣いているように見えた。
「大丈夫か?」
 可南子は大声をあげて泣きだした。何があったのかはわからない。俺は可南子を抱きしめた。
「とりあえず、家に入ろう」
 俺は可南子を連れて家の中へと入った。傘を差さなかったせいで、俺まで雨に濡れてしまっていた。


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