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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/07/16(水)   CATEGORY: 雨の日のうた
雨の日のうた(7)
 この日、FIRE-HEADのメンバーの初めての顔合わせがあった。
 どこかで聞いたことにあるヨシキとは、去年の夏に運悪く俺とファイトになって、またも運悪く俺にノックダウンされた松田良樹クンだった。
「こんなやつとは組めねえよ!!」と良樹は言った。
 その意見、俺も賛成。
「そんなこと言うなよ。ルーシー君、いや、龍次君と組めるなんてめったなことじゃないぞ」西条は良樹をなだめた。
「去年、俺がこいつにどうされたのか知ってるだろ!?」
 ああ、思い出される去年の事件。あれは俺の組んでたバンドLucyのリーダーであるシンがリンチされたことで始まった。俺も何度かボコボコにされて倒された。その事件がきっかけで俺は街で一気に有名になった。それは俺が事件の中心になって動いていたからで、そのせいで俺は街で「ルーシー君」と呼ばれるようになった。Lucyの中で特に目立っていたのは俺だからもあるかもしれないけれど、最初は「あの事件のLucyの人」みたいな感じで始まって、いつの間にかに「ルーシー君」と呼ばれるようになってしまったという具合だ。まあ、あだ名なんてそういうものかも知れないけれど。俗にルーシー事件とまで呼ばれたあの事件。今思えば、この良樹ってやつは直接は事件に関わってなかったと思う。これまた運悪く巻き添えを食った良樹クン。本当に不運なやつだ。
「わかった。とりあえずはこのメンバーでやってやる」
 どうやら話は着いたようだ。俺が思い出に浸っているうちに西条は説得を終えたらしい。
「とりあえずバンド名はFIRE-HEADで」と俺は言った。
 このバンド名の意味を良樹は一瞬で理解したらしかった。
「なんだとコノヤロー!!」
 再び暴れ出した良樹を必死に押さえ込む西条。このメンバーでやっていけるだろうか? うーん、難しいところだ。でもまあ気楽にやっていくさ。どうせ久しぶりのバンド生活だ。退屈しのぎにはちょうどいい。

+++

 俺は可南子を後ろに乗せ、自慢のヨンフォアを走らせていた。可南子が突然に「ラーメンが食べたい!!」とわめいたから行きつけのラーメン屋まで足を運ぶ。
 ちっとも客足の来なさそうな人通りの少ないせまい通りにたたずむ小さく汚れたラーメン屋があった。入口にあるのれんには「やがみ」と書いてある。ラーメン屋「やがみ」を仲間うちでは有名なラーメン屋だった。うまいし、それに安いのが売りだ。
 俺は可南子を連れて「やがみ」ののれんをくぐった。店内は相変わらず薄汚れた雰囲気でとてもせまい。客は俺らの他にふたりだけのようだ。
「あれ? 龍次じゃん」
 声をかけられて、よく見たら店の中にいる客とは義之だった。義之は俺の高校の友達だ。そのとなりには今はなきエクスタシーの美人べーシスト、レイコがいた。
「おう、義之!」
 義之はラーメンを食べるための箸を置いてこっちに向かった。となりにいるレイコはそれに気にせずラーメンを食べることを続けた。相変わらず愛想のないやつ。
「こんにちは」と可南子が言った。
「あ、どうも。龍次の彼女さんですか?」
 義之はみょうにかしこまってしまっている。何をやってるんだか。
「初めまして。松本可南子です」
「あ、僕は加藤義之っていいます」
 ふたりが自己紹介を終えると、可南子の視線はレイコに向いた。レイコは相変わらずに調子でラーメンを食べ続けている。こちらに関わる気がないみたいだ。
「あっちはレイコです。綾瀬怜子っていいます」義之は慌てて紹介した。
「こんにちは。可南子です」
 レイコはそれを無視した。と思ったら短い間をおいてからレイコがこちらを向いてから言った。
「こんにちは。レイコです。よろしく」
 レイコは無愛想に言った。それでも可南子は嬉しかったらしく顔には笑みが浮かんでいる。
「こちらこそよろしくお願いします!」
 そこで俺は「やがみ」の店主の視線に気がついた。お前らアイサツが終わったんなら早く注文しろ、と言いたげな顔だった。
「醤油」とだけ俺は言った。店主は、あいよ、と聞こえるかどうかの声で呟き可南子に瀬線を移した。
「あ、わたしはえーっと…わたしも醤油で!」
可南子が慌ててそう言うと「やがみ」の無愛想に店主はまた小さく、あいよ、と呟き作業に入った。この店主、実をいうと普段は気さくな人なのだけれど、今日のこの無愛想ぶりを見るとどうやらまた奥さんとケンカでもしたようだ。奥さんとケンカした次に日にはこの店主は口数の少ない無愛想な店主となる。とてもわかりやすい。
 俺はラーメンが出来上がるまでに新しくバンドを組んだことを義之に知らせた。義之は「ライヴは観に行くよ」と言って麺をすすった。そういえば去年の事件でなくなったバンドは俺らLucyだけではなかった。レイコがいたエクスタシーもヴォーカルの逮捕でなくなってしまっていた。エクスタシーのヴォーカルも去年の事件の被害者だといってもいい。彼がやったことは理解できる。俺が同じ立場だったのなら同じことをしたかもしれない。ただ彼は限度の過ぎたことをしてしまい、そのうえ逃げることもしなかった。いや、実際は目撃者が多すぎて逃げることもできなかったかもしれないけれど。
「醤油、2丁あがり」
「やがみ」の店主は無愛想にそう言ってラーメンの入った器をふたつ俺と可南子の前に置いた。うまそうな匂いが香る。俺は割り箸を手に取ってふたつに割った。
「おいしーい!」
 俺より一足早くラーメンを口へと運んだ可南子が言った。それを聞いて俺も急いで醤油味のスープに浸かっている麺をすすった。


<作者のことば>
義之やらレイコやら、かなり脇役の良樹やら、作者的には懐かしいキャラ達です。

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