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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/04/22(木)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐37 (決着)
 地に倒れた巨獣の皮膚を突き破り、赤黒い触手がその体躯から這い出てきた。
 その太い触手の先端には、顔のようなものが付いている。――それは三貴彦のものだ。
 奇怪なろくろ首のような化け物の出現に、詩帆は思わずたじろいだ。馴染みの顔が、今はこれほどまでに恐ろしい。
「アア……アア……」
 かすれた声で呻く三貴彦の顔。
 充血した眼が詩帆の姿を捉えた。赤黒い触手の首を伸ばし、彼女に近付く。
 口が耳元まで裂けた。大口がガパッと音を立てるように開き、中から長い舌が這い出す。その赤々とした舌はべろりと詩帆の頬を舐めた。彼女にぞわりした怖気が襲ったが、あまりの恐怖に体が固まり身震いすらできないでいる。
 巨躯から這い出していたもう一本の触手が詩帆に近付いた。こちらには石平の顔がある。
「コワ、イカ……?」
 石平が何かを言った。
「……怖いか?」
 今度は先ほどより明瞭に、言葉を発した。
 にやりといやらしく笑っている。
「おい、怖いか?」
 石平の頭が付いた触手から腕のようなものが生えた。触手の一部が変化し、石平の体が形成されていく。その姿はまるで半人半蛇の化け物だ。
「もっと恐怖させてやろう」
 巨獣の体からさらに数本の太い触手が生え、それが地面に突き刺さった。そして巨獣の体躯が浮かび上がり、数本の触手は脚のように見える。それは異形の蜘蛛。
 規格外の化け物の登場に詩帆は動けずにいた。想像を絶する怪物。倒したと思えばより異質な存在になって蘇る。これを倒す方法などあるのだろうか? 際限のない闘いに、もはや彼女の戦意は削がれてしまっている。
「なにやってんだよ!」
 いつまでも化け物の眼前に立ったままでいる詩帆の腕を、駆けつけた舘岡が強い力で引っ張った。「早く逃げねえと! こんなやつと闘っても勝てねえっすよ!」
 詩帆は強引に化け物の前から引き離されたが、だからといって安全地帯に逃れられたわけではない。ここに安全地帯などなかった。世界はすでに地獄と化したのだ。そしてこの地獄には幾千という化け物が蔓延っている。その中でも最も醜悪で禍々しさを帯びた魔獣が眼前にいる事実はもはや救いなど存在する余地もないといえた。
 しかし――しかし彼らを天はまだ見放してはいなかった。今、この場にある唯一の希望が立ち上がった。
 骸は満身創痍の体に構うことなく立ち上がり、新たな骨刀――それの生成は確実に彼のエネルギーを消費させた――を口に銜えた。血に塗れた彼だが、その双眸には鬼気が宿っている。
 未だ右腕を失っているが、それでも骸は構わない。
 彼は疾駆した。風を切り裂き、地を這う雷の如き俊敏さで化け物までの距離を詰めた。まさに疾風迅雷、電光石火の速度で化け物の頭に昇り、巨獣の額に刺さったもう1本の骨刀を左腕で引き抜いた。
 魔人――今の骸は魔人だ。
 命のエネルギーを消費して、彼は動いている。死の直前のエネルギーの瞬き、超新星の爆発力だ。
 数本の触手が骸に向かう。それを薙ぎ払い、彼は三貴彦の頭の前に飛び込んだ。左腕の骨刀が一閃する。三貴彦の頭は地に転がった。
 それを見て、詩帆は思わず両目を覆う。
 骸の勢いは止まらず、彼は宙に浮く巨獣の背に飛び乗った。触手が彼を払い落とそうとする。しかし骨刀がそれを阻止し、触手との攻防が続いた。
「邪魔スルナ」
 憤怒の表情を浮かべた石平が骸に接近する。
 石平の両腕が大きな黒い鉤爪に変化し、骸の腹部を抉った。
「お前の邪魔をするのが俺の役目だ」
 骨刀が石平の右眼を貫いた。
 痛みを感じるのかはわからないが、石平はもがき、再び鉤爪が骸を襲う。残っていた左腕が切り裂かれ、もはや使い物にはなりそうもない。
 骸は口に銜えた骨刀で石平の首を狙った。
 血が迸(ほとばし)る。
 石平の頭は地に落ち、首を失った半身はぐったりと力をなくした。
 巨獣の触手が粘土細工のように崩れ出し、化け物は地上に倒れた。
 骸の美しい貌が、わずかに笑みを浮かべた。




<作者のことば>
タイトルにその名を冠した骸だが、ようやくそれに相応しい活躍ができたのではないかと思う(やっと)。
作中で最も禍々しく、最も醜悪で、最もしぶとい、そんな最凶の敵をついに倒し、物語は一段落を迎えることになるだろう。

しかし安生 三貴彦も石平 好盛もまさかこんなカタチで主人公たちの前に立ち塞がるとは思いもよらず(笑)
正直、書きながらも次の展開が見えず、自分自身もストーリーを楽しみながらここまで来た気がします。

もう次回でアレだけど、最後まで楽しめて頂けたら幸いです。


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