MUKURO・地獄篇‐36 (生への執着)
べヒモスの太い角が柳瀬の肩を抉った。
彼は唸ると同時に強い力で振り払われ、離れた地面に転がる。
骨刀は巨獣の額に突き刺さったままで、まるで3本角のようにも見えた。
低い、腹に響くような獣の咆哮。
血が溢れ、べヒモスの視界を塞いでいた。
背の触手はビュルンビュルンと暴れ、辺りの地面を無差別に抉る。その姿は破壊そのものと呼べなくもない。災厄がカタチを成したようでもあった。
詩帆は震える両脚に力を込め、持てる気力を振り絞って地面を踏みしめた。
――覚悟を決めるしかない。
強い意志が彼女を支える。それは、彼女の生きる意志。生への執着である。
彼女は自分の存在がどういうものなのか知ってなお、今こうして生きようとしていた。生に夢中にしがみつこうとしている。
恐れを紛らわすために唇を噛み締めた。血が滲む。
今なら、自分でもあの巨大な破壊者を止めることができるかもしれない。あの災厄そのものを打ち倒すことができるかもしれない。
そのようにして彼女に勝機を見出させたのは、他ならざる額の骨刀の存在である。
彼女は、巨獣の額に突き刺さった骨刀をさらに奥深くへと押し込んでやろうと考えていた。もちろん成功するかはわからない。しかし、それに望みを賭けるしか勝算はないように思えた。
――どうせ死ぬなら、あがいて死んでやる!!
それはかつての安生 三貴彦の覚悟と同じものだった。
彼女は、これまで自分を守ってくれた者のため、今、自分が守れる者のため、そして何より自分自身のために、命を賭けようとしている。
多くの想いが、彼女を強くした。
強い意志で、地面を踏みしめている。
檜山 詩帆は全力で疾走した。
その走りは力強く、執念の炎が燃えている。
双眸が巨獣を睨みつけた。
狙うは額の骨刀それのみ。
ビュルン。背の触手が彼女の頬をかすめた。その圧力は凄まじく、それだけで皮膚を裂き、血が溢れる。
しかし彼女は構わない。ただ突き進む。
右腕がグッと伸びて骨刀に向かった。暴れる触手が地面を抉り、抉れた部分が詩帆を襲う。彼女は脇腹に硬いものを受け止め、わずかに呻いた。しかし止まらない。
骨刀の柄(つか)と呼べるあたりに詩帆の腕が絡みついた。
彼女は顔を歪めながら、力強くそれを押し込む。
苦痛ゆえの咆哮が辺りに轟いた。
べヒモスは血を吐き散らしながら体を暴れさせ、頭を左右に激しく振るう。
そして、最後に小さくグゥと鳴くと大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
それを見下ろす詩帆の姿がそこにあった。
彼は唸ると同時に強い力で振り払われ、離れた地面に転がる。
骨刀は巨獣の額に突き刺さったままで、まるで3本角のようにも見えた。
低い、腹に響くような獣の咆哮。
血が溢れ、べヒモスの視界を塞いでいた。
背の触手はビュルンビュルンと暴れ、辺りの地面を無差別に抉る。その姿は破壊そのものと呼べなくもない。災厄がカタチを成したようでもあった。
詩帆は震える両脚に力を込め、持てる気力を振り絞って地面を踏みしめた。
――覚悟を決めるしかない。
強い意志が彼女を支える。それは、彼女の生きる意志。生への執着である。
彼女は自分の存在がどういうものなのか知ってなお、今こうして生きようとしていた。生に夢中にしがみつこうとしている。
恐れを紛らわすために唇を噛み締めた。血が滲む。
今なら、自分でもあの巨大な破壊者を止めることができるかもしれない。あの災厄そのものを打ち倒すことができるかもしれない。
そのようにして彼女に勝機を見出させたのは、他ならざる額の骨刀の存在である。
彼女は、巨獣の額に突き刺さった骨刀をさらに奥深くへと押し込んでやろうと考えていた。もちろん成功するかはわからない。しかし、それに望みを賭けるしか勝算はないように思えた。
――どうせ死ぬなら、あがいて死んでやる!!
それはかつての安生 三貴彦の覚悟と同じものだった。
彼女は、これまで自分を守ってくれた者のため、今、自分が守れる者のため、そして何より自分自身のために、命を賭けようとしている。
多くの想いが、彼女を強くした。
強い意志で、地面を踏みしめている。
檜山 詩帆は全力で疾走した。
その走りは力強く、執念の炎が燃えている。
双眸が巨獣を睨みつけた。
狙うは額の骨刀それのみ。
ビュルン。背の触手が彼女の頬をかすめた。その圧力は凄まじく、それだけで皮膚を裂き、血が溢れる。
しかし彼女は構わない。ただ突き進む。
右腕がグッと伸びて骨刀に向かった。暴れる触手が地面を抉り、抉れた部分が詩帆を襲う。彼女は脇腹に硬いものを受け止め、わずかに呻いた。しかし止まらない。
骨刀の柄(つか)と呼べるあたりに詩帆の腕が絡みついた。
彼女は顔を歪めながら、力強くそれを押し込む。
苦痛ゆえの咆哮が辺りに轟いた。
べヒモスは血を吐き散らしながら体を暴れさせ、頭を左右に激しく振るう。
そして、最後に小さくグゥと鳴くと大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
それを見下ろす詩帆の姿がそこにあった。
<作者のことば>
文章量的にもう少し書いたつもりだったんだけど、案外こんなものなのか。
その代わり、内容は濃密なものであればいいのだが。
一瞬のシーンであるほど言葉を用いる必要性に迫られるときが――たぶん物を書く方にはわかってもらえると思うのだが――物語を書いている上で往々にしてあると思う。
そういうときに限って書いていて力が入る。そのシーンに、のめり込む。
今回はそんな感じだった。
詩帆のこれでもかッ!ってくらいの気迫のようなものを感じて頂けたら幸い。
それが伝わらなければ、自分もまだまだ精進していかなければならないなぁ。
もう何度目かになるかもしれないけど、この物語は終わりに向かって突き進んでいます。
だからあと少し、もうしばしの間だけ、お付き合い願えればこれに勝る喜びというのはありません。

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