MUKURO・地獄篇‐35 (べヒモス)
全身を隆起させながら、巨大なヒグマは凄まじい咆哮を上げた。隆起した部位の皮膚は突き破られ、樹木の根のような太くゴツゴツとした触手が肉の下から這い出す。そして蛸(タコ)の足にも見えるその触手はうねうねと踊り出した。
「なんすかアレ……」
左の眼球も突き破られた。うねる触手。残った右眼は充血して赤々とギョロついている。
「早めに片した方がよさそうだな――」
骸が一瞬で間を詰め、右手に持った骨刀を異形と化したヒグマの頭に向かって縦一文字に振り下ろした。会心の一撃。
しかしヒグマにはほとんどダメージの様子は見られず、多少血が流れてはいるが硬度のある頭蓋骨が脳を守ったようだった。背中の触手が骸を薙ぎ払う。
体勢を整える間も与えず連続して触手が骸を襲った。素早く骨刀で応じるが複数の触手の全てを払い除けるのは無理のようだ。触手の先端が肩をかすり、わずかに肉を抉った。
「離れてろ!!」
その叫びに、舘岡はびくりとして慌てて飯沼を連れて出来るだけ骸とヒグマの闘いから距離を置こうとする。
ヒグマの右腕が骸の体を捉えた。彼は勢いよく弾き飛ばされ、硬く鋭い爪によって脇腹の肉が抉れ、骨が垣間見える。ダメージは大きかったらしい。骸はのっそりと起き上がった。
「ガルルァァァアアア!!」
野太い咆哮とともに再び爪が彼を襲う。骨刀で防ごうととっさに構えたが、ヒグマの破壊力は凄まじく、骸の腕もろとも骨刀を吹き飛ばしてしまった。骸は右腕の半分を失った。
骸の左手首が突起して、骨のようなものが飛び出す。新たな骨刀のようだった。それまでのものと比べやや短い骨刀だ。
「さて、どうしたものか――」
恐るべき跳躍力で骸は宙に舞った。
ヒグマの真上から垂直に降下を始める。骨刀の切っ先がヒグマの脳天に向けられた。骸の体に落下の速度が加わり、凄まじい衝撃がヒグマを襲った。今度こそ骨刀は頭蓋骨を穿ち、確実にダメージを与えている。
再び咆哮が轟いた。
触手が骸を払い飛ばす。骨刀があと少しのところで脳を破壊するほど深く貫けなかったようだ。せっかくのチャンスだったがヒグマを倒す決定打にはなることは出来なかった。
「グォォォォォォォオオオオ――!!」
ヒグマの頭部にバッファローのような太い角が生え始めた。
もはやその生き物はヒグマではない。体中から蛸足のように触手を這わせ、額には2本の猛々しい角。その姿は神の傑作とまで謂れた陸の怪物、べヒモスを連想させた。しかしこちらのべヒモスは禍々しく凶暴なオーラを纏っている。目の前にあるもの全てを滅ぼさんという遺志すら垣間見えるようだった。
魔を体現したかのようなべヒモスが恐るべき瞬発力で疾駆する。その速度は100メートルを3、4秒で走りきってしまうほどだろう。隆々とした角が骸を捉え、べヒモスは勢いよく突進した。骸の両脚が宙に浮く。巨大な角が彼の体を貫いている。
「俺だって不死身ではないんだがな……」
べヒモスは頭を大きく振り乱して骸の体を払い落とす。彼は強く体を打って地面に転がった。内臓はズタズタに裂かれ、胴は紙一重で繋がっていた。
望美は恐ろしさのあまり震えが止まらなかった。せめて耕太だけでも守ろうと抱きかかえていたのだが、その姿は何かに縋ろうとしているようにも見えた。
そんな望美の視界に一つの影は入り込んできた。柳瀬だ。彼は骸の落とした骨刀を拾い上げ手にしている。
柳瀬が疾走した。べヒモスの額にある傷――骸が穿った頭蓋骨の穴を的確に狙えば勝機はあるかもしれない。そのような思いが柳瀬にはあった。
べヒモスは憤怒を身に纏い、その独眼が柳瀬を睨めつける。
柳瀬の手に力が籠もった。骨刀が鋭く空気を切り裂きべヒモスに向かっていく。その切っ先がべヒモスの額に刺さる。
しかしそれと同時に、柳瀬を阻むように太い角の尖った先が柳瀬の肩を突き刺していた。
柳瀬の腕から血が滴った。
「なんすかアレ……」
左の眼球も突き破られた。うねる触手。残った右眼は充血して赤々とギョロついている。
「早めに片した方がよさそうだな――」
骸が一瞬で間を詰め、右手に持った骨刀を異形と化したヒグマの頭に向かって縦一文字に振り下ろした。会心の一撃。
しかしヒグマにはほとんどダメージの様子は見られず、多少血が流れてはいるが硬度のある頭蓋骨が脳を守ったようだった。背中の触手が骸を薙ぎ払う。
体勢を整える間も与えず連続して触手が骸を襲った。素早く骨刀で応じるが複数の触手の全てを払い除けるのは無理のようだ。触手の先端が肩をかすり、わずかに肉を抉った。
「離れてろ!!」
その叫びに、舘岡はびくりとして慌てて飯沼を連れて出来るだけ骸とヒグマの闘いから距離を置こうとする。
ヒグマの右腕が骸の体を捉えた。彼は勢いよく弾き飛ばされ、硬く鋭い爪によって脇腹の肉が抉れ、骨が垣間見える。ダメージは大きかったらしい。骸はのっそりと起き上がった。
「ガルルァァァアアア!!」
野太い咆哮とともに再び爪が彼を襲う。骨刀で防ごうととっさに構えたが、ヒグマの破壊力は凄まじく、骸の腕もろとも骨刀を吹き飛ばしてしまった。骸は右腕の半分を失った。
骸の左手首が突起して、骨のようなものが飛び出す。新たな骨刀のようだった。それまでのものと比べやや短い骨刀だ。
「さて、どうしたものか――」
恐るべき跳躍力で骸は宙に舞った。
ヒグマの真上から垂直に降下を始める。骨刀の切っ先がヒグマの脳天に向けられた。骸の体に落下の速度が加わり、凄まじい衝撃がヒグマを襲った。今度こそ骨刀は頭蓋骨を穿ち、確実にダメージを与えている。
再び咆哮が轟いた。
触手が骸を払い飛ばす。骨刀があと少しのところで脳を破壊するほど深く貫けなかったようだ。せっかくのチャンスだったがヒグマを倒す決定打にはなることは出来なかった。
「グォォォォォォォオオオオ――!!」
ヒグマの頭部にバッファローのような太い角が生え始めた。
もはやその生き物はヒグマではない。体中から蛸足のように触手を這わせ、額には2本の猛々しい角。その姿は神の傑作とまで謂れた陸の怪物、べヒモスを連想させた。しかしこちらのべヒモスは禍々しく凶暴なオーラを纏っている。目の前にあるもの全てを滅ぼさんという遺志すら垣間見えるようだった。
魔を体現したかのようなべヒモスが恐るべき瞬発力で疾駆する。その速度は100メートルを3、4秒で走りきってしまうほどだろう。隆々とした角が骸を捉え、べヒモスは勢いよく突進した。骸の両脚が宙に浮く。巨大な角が彼の体を貫いている。
「俺だって不死身ではないんだがな……」
べヒモスは頭を大きく振り乱して骸の体を払い落とす。彼は強く体を打って地面に転がった。内臓はズタズタに裂かれ、胴は紙一重で繋がっていた。
望美は恐ろしさのあまり震えが止まらなかった。せめて耕太だけでも守ろうと抱きかかえていたのだが、その姿は何かに縋ろうとしているようにも見えた。
そんな望美の視界に一つの影は入り込んできた。柳瀬だ。彼は骸の落とした骨刀を拾い上げ手にしている。
柳瀬が疾走した。べヒモスの額にある傷――骸が穿った頭蓋骨の穴を的確に狙えば勝機はあるかもしれない。そのような思いが柳瀬にはあった。
べヒモスは憤怒を身に纏い、その独眼が柳瀬を睨めつける。
柳瀬の手に力が籠もった。骨刀が鋭く空気を切り裂きべヒモスに向かっていく。その切っ先がべヒモスの額に刺さる。
しかしそれと同時に、柳瀬を阻むように太い角の尖った先が柳瀬の肩を突き刺していた。
柳瀬の腕から血が滴った。
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