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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/04/16(金)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐34 (再来)
「すまない。今までこうして人に説明したことはないし、言葉にしようと思ったこともない。ただ俺は感覚的にそれを理解し、知っていただけだ。上手く言葉に出来たかどうかもわからないし、そもそも自分ですら全てを知っているわけでもない。そこのところは理解して欲しい」
 骸の言葉に全員が黙った。何の言葉も浮かんではこなかったのだ。
 ただ、それぞれに今の話を整理しようと躍起になっている自分がいるに違いない。
 ふと詩帆はあることに気が付いた。「それで、結局あなたは何なの?」
「正直なところ、それは俺にもわからない。化け物が自分の生まれを知らないように、君たち人間が自分がどういう存在を知らなかったように、俺自身が一体何者で何のために存在しているかというのはわからない。ただ、自分が魂のない言わば精神だけの存在で、本能がやつらに対抗し人間を救うべきだと告げている。
 おそらく、そういう存在なのだろう。
 化け物どもが人間を襲うのは人間の持つ魂が欲しいからだ。化け物どもには俺と同じように魂がない。無いものを手に入れようという本能がやつらにはある。俺はそれを防ぎたい。正があれば負がある。同じくして負があれば正もあるように、俺は化け物どもと同時に生まれた、やつらと対極の存在なのだと思っている」
 わかったようなわからないような気持ちが湧き起こるが、それでも詩帆は自分たちにとって骸は敵ではないと思った。彼の言葉を信じるならば彼は人間たちの守護者なのだ。
「これからどうするの?」
 詩帆の言葉に骸が答えようとしたとき、大きな揺れが彼らを襲った。――地震だ。
「うおっ! これまたでけえな」
 館岡が地面に転がった。
 みな両脚に力を込め、踏ん張るようにして地震が過ぎるのを待った。
 凄まじい轟音が鳴り響き、天地が逆さになるのではないかと思うほどの揺れが続いた。
 しばらくして揺れは収まったが、そのとき詩帆はあるものを見た。――それは塔だった。
 天を貫くほど高く聳えた巨大な塔が、いつの間にかに姿を現していた。石造りの塔だ。
 あまりの高さに天辺は見えず、途中で雲に隠れている。
「あれは一体……」
 思わずそう呟かずにはいられないような謎の塔。
 それには骸が声を発した。
「メビウスの塔だ。俺はそう呼んでいる」
「メビウスの塔?」
「世界と世界を繋ぐ塔だ。あの塔はもう一つの世界、肉体ある世界へと繋がっているはずだ」
 そう言い終えるや否や、巨大な影が空を飛んで行った。黒い翼を羽ばたかせた、大きな化け物。
「あれ……なに………?」
 街中の魑魅魍魎妖魔の類いがその姿を見せ、メビウスの塔に向かっているのが見えた。その光景は砂糖菓子に群がる蟻のようだと詩帆は思った。巨大な空飛ぶ影が塔と伝うように天空に駆け上っていく。
「どうやら時間がないようだ。――俺はあの塔を目指す。このあとお前たちがどうするかは自由だ。おそらくやつらのほとんどこの世界を去るだろう。そういう意味ではここは安全になりつつある」
 正直なところ、そう言われてしまったら誰もが戸惑うだろう。今まで生き延びるために必死にやってきたが、化け物どもが去ったからもう大丈夫ですと言われてもどうしていいかわからなかった。全てが崩壊したこの世界でどう生きていけばいいのか。――それともこの記憶もいずれ失われ、何事もなかったように世界は再開されるのだろうか?
 詩帆はある覚悟を決めていた。
「わたしも行く」
「それも構わない。この世界の秩序は失われてしまった。法則は乱され、このあと世界がどうなるのかは俺にもわからない。そしてあの塔の先に行ってどうなるかもだ。――そういう意味ではどちらを選ぶのも大した変わりはないのかもしれない」
 他に一緒に行きたい者は?という意味で、骸が顔を見回した。
「俺もいいっすか?」館岡は手を上げた。
「構わない。他にもいれば――その前に客のようだ」
 彼らの目の前に、巨大な黒い塊が現れた。
 それは、あの3メートルを超えたヒグマだった。
 ヒグマの肩が異様に盛り上がっており、筋肉が皮膚を破いているのが見える。全身の筋肉が急激に膨張しているようで、背中も同様に皮膚が破けピンクの筋繊維が目に付く。
 獣の咆哮が大気を震わせた。
 目にも留まらぬおそるべき速度で大きな爪が飯沼の右腕を抉り、彼はその圧力で吹き飛ばされた。館岡が駆け寄る。「飯沼さん!」
 傷口からは血がドクドクと流れ出ていた。精神と魂で出来た存在でも大量出血で死ぬのだろうか、と館岡は思った。しかし傷を負えば痛い。血を失えば死ぬ。そのようなことは当然のものとして意識に刷り込まれている。先程の話によれば思い込みによる死が待っているのかもしれない。――だが、すでに既成概念は崩れかかっている。骸はバラバラだった体から元に戻ったが、それは自分たちにも可能なのだろうか?
 またもヒグマの腕が唸りを上げて飯沼に襲いかかる。横から影が飛び込んできたのが舘岡には見えた。骸だ。骸は自身の体を盾にして飯沼を守ろうとしたが、まるで糸屑のように軽々と吹き飛ばされた。凄まじい膂力だ。
「飯沼さん、立ってください! 逃げないとやばいっすよ!」
 ヒグマの赤く光る双眸が飯沼を睨めつけた。
 咆哮。舘岡が後ずさる。ヒグマが体を起こして立ち上がり、舘岡たちを見下ろした。
「化け物、こっちだ!!」
 礫(つぶて)がヒグマの顔に当たった。柳瀬は抉れたアスファルトの欠片を拾い、再びヒグマに投げつける。憤怒の咆哮が上がった。牙を剥き出し、涎(よだれ)を撒き散らしながらヒグマは柳瀬に詰め寄っていく。
「それ以上は行かせない!」
 ヒグマの肩に白いものが突き刺さった。骸の骨刀は肉に喰い込み、深々と刺さっている。ヒグマは体を振るわせ、骸を体から引き離した。
 そのとき、ヒグマの体に変化が起こった。



<作者のことば>
良くも悪くも人間はパワフルな生き物だと思う。
自分の欲求を満たすためのエネルギーは計り知れない。

欲求を満たそうとすることは悪いことではないし、生きるということはアバウトに言えば大小様々な欲求を満たそうとする行為でもあるだろう。そのときに生じるエネルギーによって我々は活動しているのだと思う。

この作品に登場するキャラクターも同じように欲求によるエネルギーを持っている。
そのエネルギーによって物語は突き動かされている。そんなエネルギーとエネルギーのぶつかり合いが、この物語の核であるような気もしないでもない。

骸たちの、その存在の懸けた闘いに、もうしばらくお付き合い願いたいです。

より自分の欲に執着したものが、この闘いを制するのではないか。
そんな気がしてなりません。



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