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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/04/08(木)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐30 (陸の王)
 三貴彦――正確には三貴彦だったもの――の両手の指から細い触手がうにゅうにょと伸びていた。それは爪の隙間から無数這い出ていて、獲物を求めるように蠢いている。
 顔はばっくりと十字に花弁のように割れ、グロテスクにぬらぬらと艶めいていた。その姿に舘岡は思わず後ずさる。
化け物の喉の奥から口のある蚯蚓(みみず)のような触手が数本這い出した。うねうねうねうね。その場にいた全員が怖気に震え、全身が固まった。
「悪夢以外の何物でもないな……」
 呟いて、柳瀬は自分の喉の渇きに気付いた。もはや口内も唇もカラカラに渇いていて、呼吸のたびに空気の通りがざらつく。
 このままではどうしようもなかったが、だからといって彼らに何かが出来るわけでもなく、唯一の希望であるデリカD:5の中では石平だった化け物が蠢いている。それは口や目から樹木の根のような太くゴツゴツとした触手が生えていたのだが、その触手は皮膚を突き破り全身から生えてきていた。もはや完全に根っこのお化けの様相である。
「どうしますか?」
 飯沼 真二が言った。彼の腕には放心状態の詩帆が抱かれていたのだが、正気を取り戻した彼女は小さい声で「もう立てそうです」と彼に言った。
「大丈夫?」
「はい。すみません」
 飯沼はそっと詩帆を地面に降ろす。彼女は一瞬ふらつきながらもしっかりと地を踏みしめ、力強く立った。この化け物たち相手に何かが出来るとは思わなかったが、それでも最後まで希望は捨てたくない。強く気を持ち、死ぬそのときまで諦めずに闘おう。それが安生 三貴彦から教わったことであり、今こうしてあられもない姿へと変わり果ててしまってはいるが、それが彼女が三貴彦から受け継いだことなのだった。
 ――わたしは最後まであがき抜く!!
 詩帆は拳に力を込め、覚悟を決めた。「どうにか走って逃げましょう」
「それは、あまり利口な考えとは思えないが、それでも今できることはそれしかないようだ」気が乗らないながら柳瀬も同意した。「それぞれが違う方向に散らばって逃げるしかないと思う」
「確かに、それしかなさそうっすね。一斉に全力疾走して逃げられる人が逃げるしか」
 他の人間もそれに同意した。現状で講じられる策はそれしかなさそうだった。――それは策と言えるものですらない。
 すうっと息を吸って飯沼が声をかける。「いち、にの、さん、でいきましょうか」
「いち、にの、さん!!」
 ゴゴゴゴゴゴゴ……、それは大きな地響きと同時に訪れた。
 誰もが立っていられないほどの激震。世界が悲鳴をあげているかのように揺れる。
「きゃっ!」
 望美が耐えきれず地面に倒れた。
 舘岡もしゃがみ込んだ。
 柳瀬は耕太を抱き寄せるようにしゃがみ、二人で小さく丸まった。
 揺れは大きく、震度5か6はありそうで、近くの建物が崩れるような音を立てているのが耳に届いた。
 アスファルトが避け始める。地割れだ。
 望美は悲鳴をあげた。
 しばらくして轟音はやみ、徐々に揺れは収まった。
「みんな、大丈夫か?」
 柳瀬の声に、それぞれ頷いた。大したケガもなく、望美も擦り傷程度のようだ。
 三貴彦だった化け物も地震の揺れで倒れたようで地面を這っている。それがぬっと立ち上がり、詩帆たちに向かって のっそりと歩み始めた。
「お、おい……あれ……」
 驚きのあまり舘岡の口は塞がらず、自分の目に映るものが信じられなかった。
 そこには、大きな黒い塊がいた。
 それは巨大な岩のように見えた。
 今までのような魑魅魍魎の類いには見えない。本物だろうか。
 それは紛れもない熊の姿だった。
「あれ、やばくないっすか…?」
 のっそりのっそりと歩み寄る熊。
 ツキノワグマだろうかと柳瀬は思った。その特徴である三日月状の斑紋は認められないが、彼の知識として最初に出てきたのがツキノワグマだった。
 しかし彼らの前に突如として現われた熊はツキノワグマなどではない。それはヒグマだった。ヒグマはツキノワグマより遥かに大きい。そもそも日本に生息している陸棲動物の中で最も大きな生き物がヒグマなのだ。
 ヒグマは興奮しているようだった。
 三貴彦――だったもの――がヒグマの存在に気付き、それに近寄った。
 ヒグマは日本の足で立ち上がった。大きい。2メートルは優に超えている。3メートル近くあるかもしれない。
 次の瞬間には、三貴彦だった化け物の上半身は消えた。
 ヒグマの太い腕に付いた鉤爪から血が滴った。
 柳瀬は一瞬で硬直した。彼だけではない。その場にいた全員がそうだった。
 がっしりとした骨格。筋肉は隆々としており、体重も300キロはありそうだった。ヒグマの中でもかなり大きい部類だろう。興奮しているのか、息が荒い。
 デリカから石平だった化け物が這い出てきた。耕太は悲鳴をあげて逃げ出そうとしたが、その化け物の腕から生えた太い触手に絡め取られてしまった。強い力だ。これでは逃げようがない。耕太は足をばたつかせ必死に抵抗したが、それらは何の効力もないように見えた。
 腹まで響くような、野太い咆哮がその場を襲った。
 ヒグマは一瞬で化け物である石平の体を吹き飛ばし、それに乗りかかった。鋭い爪が太い触手を切り裂き、力強い顎で首を噛み千切る。頑丈な牙が皮膚を破り、肉をすり潰した。そのまま石平の体を喰い千切ろうとしているようで牙を立て、噛み付いた。
 ――これは好機かもしれない。
「みんな車に乗るんだ!」
 柳瀬が叫び、耕太を抱き上げてデリカの後部座席に飛び込む。
 他の者もハッとして彼を倣った。あっという間に全員が乗り込み、舘岡が思いっきりアクセルを踏みつけた。
「このまま逃げろ!!」
 前方には深い断層が出来ており、逃げるには来た道を戻るほかなかった。しかし別の方法を採っている暇はない。舘岡は迷わず車をユーターンさせて走った。




<作者のことば>
ついに30話を超えて、未知の領域に突入。
…いや、20話台もかなり未知だったんだけど、それでも30話って結構続いてるなって思うわけです。

それから今回出てきたヒグマの存在は「シャトゥーン」というヒグマを扱ったパニック小説の影響。
かなり蛇足なのだけど、「シャトゥーン」のヒグマは物凄い怪物で、それはもう半端じゃなくて、ヒグマこえー!ってなったわけで、それで自分でもヒグマ書いてみたいなぁ、と。というかヒグマが暴れまわるシーン書いてみたいなぁ、と。
その動機だけで、結構自由に書いてることがわかってしまうだろうけど、この「MUKURO」は本当に自由に書いてるのだから仕方ない。あとさき考えずに(笑)

そんな理由があるせいか、このヒグマさんは他の化け物とは違って、本物のヒグマというイメージで書いています。
別にそんな認識要らないんだけど、ヒグマってのはすげえんだぜ!ってことです(笑)

このようにかなり自由にやりながら、何度も書いてきているけど、物語は着実にラストに向かって進んでいて、もうゴールはそこまで見えている。
あと少し。本当にあと少しなので、最後までお付き合い頂けたら幸いです。


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COMMENT

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ライム | URL | 2010/04/08(木) 19:01 [EDIT]
モチロン!!
50話でも100話でも1000話でも……ついて行きますともっ(笑)

匡介 | URL | 2010/04/09(金) 05:26 [EDIT]
>ライムさん
あのライムさんがまたコメントを!!(笑)
しかもテンション高めでいらして、一体何があったのでしょう? まるでキャラ違いますが(笑)

まさかそんなに長くはならないので、ご安心くださいませ~。
ていうか1000話って!! この話で1000話って鬼ですか!? ここからどれだけ膨らませばそれほどまで長くできるのか逆に尋ねたいのですが(笑)

本当にあと一歩なので、ぜひぜひ最後までお付き合いくださいませ♪
……ライムさんに読まれていると考えると、なかなかプレッシャーも感じますけどね(笑)

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