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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/04/06(火)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐29 (最悪)
 イナゴの大群は見る見るうちに彼らに迫り、そして襲いかかった。
 村田は辺りの様子がおかしいことに気付いたが、何も見えていない。彼の指に、40センチもの大きなイナゴが喰らいついた。「ぐあああああああああああああああ!!」
 それをきっかけに無数のイナゴが村田に飛びつき、彼はその肉を、臓物を、そして骨に至るまで全てを喰らい尽くされた。それはほんの一瞬の出来事であった。
「おい、早く乗れ!」
 舘岡が運転するデリカが柳瀬たちの前に停まった。「急げ! これはマジにやばい!」
 最初に耕太が飛び乗り、望美、詩帆、石平と続いた。柳瀬も骸を抱きかかえて乗ろうとしたが、何かが引っかかる。見てみると骸の脚が早くもイナゴ数匹に喰われ始めていた。たちまち波のようにイナゴが押し寄せ、骸をさらっていく。柳瀬も腕の一部を喰いちぎられた。
「出してくれ!」
 どうにか柳瀬は飛び乗ることが出来たが、骸は今や完全にイナゴの海の中だ。おそらくすでにもう原型を留めていないだろう。
 車はすでに走り出していた。後方では地上に降り立った巨大トンボがイナゴの群れに貪り喰われているのが見える。まさに見境もなく、あるもの全てを食い尽くしているらしい。
「骸さん、助かりませんよね……」
「おそらくは。きっと助からない」
 柳瀬も残念そうに言った。
 ほとんど骸のことは何も知らないが、それでも彼が柳瀬の命を救ったことには代わりはなかった。今度は自分が骸を助ける番だったのに……。
「タスカラナイ!タスカラナイ!――ッテナンダ?」
 突然、詩帆には聞き馴染みのある甲高い声が響いた。
「おおっ! なんだこの鳥? 黒い、オウム?」
「ナンダコノトリ!ナンダコノトリ!――ッテナンダ?」
 舘岡の言葉も繰り返し、オウムは叫んだ。
「まだ付いて来てたの…?」
 詩帆が呟く。
 舘岡や柳瀬も驚いていた。耕太は恐ろしさを感じると同時に、今までの凶悪な容姿の生物とは違う漆黒のオウムに若干の興奮も覚えていた。
「ちょっと待て。誰か見えるぞ」
 運転をしていた舘岡の視界に、二人の男が入ってきた。――ひとりは、見覚えのある後姿だ。
「飯沼さーーん!!」
 運転席の窓を全開にして、乗り出すように舘岡は声をあげた。
 舘岡の声が聴こえたのか二人のうちのひとりが振り返る。おそらく彼が飯沼なのだろう。
 飯沼は爽やかさすら感じる青年だった。一目で好青年だと理解できる。どうもまともそうな人間だとわかると詩帆は安堵の息を吐いた。
「――え?」
 詩帆は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
 飯沼という男と一緒にいるのは、彼女がはぐれてしまっていた安生 三貴彦なのである。
「安生さん!!」
 二人の横にデリカが停車すると、詩帆は三貴彦のもとへと駆けて行った。
「無事だったんですね!」
「詩帆ちゃん…?」満身創痍の三貴彦は驚きの声をあげた。「詩帆ちゃんこそ、無事だったんだね」
「また会えて嬉しいです。……実はもう、安生さんのこと諦めてたんです」
「まあ、仕方ないよね。僕も詩帆ちゃんはあいつらにやられちゃったんじゃないかと思ってたよ」
「偶然っていうか、運良く生き延びることが……」
 詩帆の瞳が涙で揺らめいた。まさか――またこうして三貴彦と生きて会うことが出来るとは思ってもいなかった。
「こんにちは」
 三貴彦と一緒にいた、飯沼という男が詩帆に声をかけてきた。
「飯沼です。安生さんとはさっき出会ったばかりの仲なんですが、どうやら安生さんとはお知り合いみたいですね。よろしく」
 飯沼はこんな状況なのに笑顔で手を差し伸べてきた。なかなか出来ることではない。「あ、よろしくお願いします」
「飯沼さん、無事だったんすね」舘岡も車から降りてきたようだ。「もうマジで死んじゃったかと思いましたよ」
「一応、この通り生きてるよ」
「実は他のみんな、化け物にやられちゃって。生き残ってんの、俺と坊主だけなんすよ。……あ、ちなみにこの人たちとはさっき会ったばっかんすけどね。急にバッタみてえなやつが大量に襲ってきて一緒に逃げてきた、みたいな」
 舘岡がいつもの調子で簡単に説明した。
 その様子に飯沼は呆れたように苦笑したが、彼の喋り方はその内容に対して空気が重くなり過ぎないという利点があるようだ。ただでさえ事態は深刻だった。必要以上に場の雰囲気を重くしても何のプラスにならない。そういう面では、彼は良いムードメーカーのようだ。
「詩帆さん! 舘岡さん! その男から離れて!!」
 柳瀬が鋭く叫ぶ。
 詩帆も舘岡も驚いて彼を見たが、その視線の先にいるのは三貴彦だった。
「その男は人間じゃない。やつらの仲間だ。化け物なんだ!」
「柳瀬さん、一体何を言って――」
「いいから離れて!」
「三貴彦さんは人間です。わたしの知り合いなんです」
「そいつは人間に擬態した化け物だよ。僕と三浦さんはそいつに襲われたんだ!」
 ――そんな。詩帆は柳瀬の言葉が信じられなかった。三貴彦が化け物の仲間? そんなことは信じられないし、有り得なかった。彼は詩帆にとって命の恩人であるし、一緒に生きるため闘ってきた仲間なのだ。
「そんなバカなこと――」
 ポン、と詩帆の肩に手が乗った。
 ゆっくりと彼女は振り向き、三貴彦を見る。
 そこには異形と化した、男の姿があった。
「――まさか、そんなこと」
 三貴彦の顔に十字に亀裂が入り、顔が四つに割れた。それはまるで花のような、大きな口だった。
「きゃあああああああああああ――!!」
 詩帆は怖気に震えた。親しい人間が化け物に変貌する瞬間を目の当たりにした衝撃は大きく、体中から力が抜け、彼女はその場に座り込んでしまった。
「なにやってんだよ! 早く逃げろ!」
 その様子を見て、素早く舘岡が詩帆の腕を掴んだ。しかしいくら引っ張っても彼女は動かなかった。否、動けなかった。
「早く車に!」
 飯沼が詩帆の体を抱き上げて走った。それに舘岡も続く。
「うわああああああああああ!!」
 今度は耕太の悲鳴だ。
 望美は自分の目が信じられなかった。
 耕太の横に、化け物がいる。
 石平の口や目から樹木の根のような太くゴツゴツとした触手が這い出してきていたのだ。
 恐ろしさのあまり、耕太も望美も慌ててデリカを降りた。
「これは……!!」
 柳瀬も石平の異変に気付いたようで、思わず後ずさる。
 状況は最悪だった。車内にはいられず、外にも化け物だ。詩帆たちには逃げ場はなく、まさに絶体絶命。化け物に対抗する術は見当たらない。
「これは、マジでやべえな……」
 楽観主義の舘岡も、さすがに今回はお手上げのようだ。彼の背には嫌な汗が流れ、血の気が引いていくのがわかった。




<作者のことば>
今回でその正体があらわになった石平だが、本当はもっと活躍させることが出来たらよかったと思う。
登場からの存在感が薄いおかげで、「えー!!」っていうインパクトが薄まったんじゃないかなー?

ちょうど同じ時期に、急にキャラクターが増えたこともあり、なかなか焦点を当てることが出来なかった。
小畑耕太という子供の追加はある程度イメージとしてあったのだが(これも今のところ影が薄い)、舘岡 洋がこうしてメンバーに加わることは想定外だったし(あ、舘岡の下の名は洋(ひろし)ということになっています。作中では名字だけしか出ていなかった(笑))、そもそも耕太の参加の時点ですでにキャラクターそれぞれに焦点を当てることが難しくなっていたのだから半ば仕方ない。実力不足。んー、大勢のキャラクターを効率よく動かす方法が知りたいなぁ。

さらには飯沼という青年も増え、より今後は難しくなりそうです(苦笑)


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COMMENT

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ポール・ブリッツ | URL | 2010/04/07(水) 18:50 [EDIT]
忘れないうちにやっておこうと思うのですが、

相互リンクしませんか?

よかったらですけど。

匡介 | URL | 2010/04/09(金) 05:21 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
忘れないうちに(笑)
自分は全然構いませんので、ぜひよろしくお願いします。

先にリンクさせて頂きますね。

ポール・ブリッツ | URL | 2010/04/09(金) 22:02 [EDIT]
わたしのところはすでにリンクが終わったのですが、匡介さんのリンクを見てもうちのブログの名前が書いてありませんしくしく。

もしかしたらそちらの見落としかもしれませんのでチェックをお願いするであります。

こっちのミスだったらごめんなさいであります。

匡介 | URL | 2010/04/09(金) 22:37 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
いつもの手順でリンクしたつもりなのですが、何の不具合かリンクに追加されてなかったみたいです。本当に申し訳ありません。

今度はリンクしたことを確認したので大丈夫です。

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