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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/04/04(日)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐28 (飛蝗)
 化け物の蛾とウツボカズラを擦り抜け、舘岡たちは外に出た。
 車のエンジン音が聞こえ、舘岡は慌てて叫んだ。「あっ、あのおっさん! まさか一人で逃げる気じゃあ!」
 三菱のデリカD:5が走り出すのが見える。
 舘岡は全力疾走で追いかけた。「待ちやがれ、この野郎!」
 デリカの運転席に座った伊能は、車のアクセルを踏んでからあることに気が付いた。眼鏡がない!
 あまりのパニックで、いつの間にかに落としてしまったらしい。実は彼は眼鏡がなければろくに前も見えはしない。それでも運転席に乗り込んで、発車させることが出来たのは火事場の馬鹿力というやつだろうか。あるいはそれに似た力が作用したのかもしれない。
 しかし眼鏡がないことに気が付いた伊能はもはや運転など出来る状態ではなく、彼は慌てて車を降り、眼鏡を探し出した。ずっと気付かないなんてことはまずないだろうから、きっと近くに落ちているに違いない。
「うおーーーい! 伊能さーーーん!!」
 伊能の耳に舘岡の声が届いた。
 きっと一人で逃げようとしたことがバレたのだ。早く眼鏡を見つけなければ。
「伊能さーーーん!! 早く逃げて!!」
 うるさい、黙ってろ。伊能は焦りで苛立っていた。――ん? 逃げろ?
 逃げた自分を責めるのはわかるが、逃げろとはどういうことだろう? 不思議に思って伊能は顔を上げた。
 次の瞬間、彼の頭は胴体から切り離されてしまった。
 そのとき舘岡たちの目に映っていたのは巨大トンボの姿だ。今その巨大トンボは伊能の頭部を強靭な顎(あご)で銜え、自由気ままに空を飛んでいる。
 グチャリ。嫌な音が舘岡の耳に届いた。
 伊能の頭部が潰され、脳漿が辺りに飛び散った。巨大トンボはクチャクチャと潰れた伊能の頭部を貪る。
「うえ。最悪だ」
 舘岡は顔をしかめた。
「とりあえず車に乗ろう」柳瀬が一歩足を踏み出した。「待って、あれは――」
 詩帆は柳瀬の視線を追った。そしてその先には満身創痍の骸の姿があった。
「骸さん……」
 現われた骸の手には巨大な鎌。なんだか死神のようにも見える。
「どうやら、また逃げなければならないようだな」
 骸の声は、か細かった。
 もう立っていることもやっとなのかもしれない。
「俺、車回してきます」
 舘岡がデリカに駆けていった。
 体を引きずっている骸に柳瀬が手を貸した。「大丈夫か?」
「おおおおおいぃ。誰かああああぁぁ」
 背後から声がした。
 驚いて望美が振り返ると、そこには顔を焼いた村田の姿があった。
「村田さん……」
 村田は皮膚が溶けて、筋肉が半ば見えていた。
 目も潰れているようで、何も見えていないらしい。
「誰かああああああぁぁぁ」
 村田は手探りで進んでいた。その姿はまるでゾンビを思わせる。
 バタバタバタッ!!
 突如、羽音が辺りに響いた。
 バタバタバタバタバタッッ!!
 音の方を見遣ると、空が黒く染まっていた。
「あれは……」
 彼にはイナゴのような生き物が見えた。まさか空を覆い尽くすほどのイナゴの大群なのか?――無数のバッタ類が群れを成して飛来する現象を飛蝗と呼ぶ。それは通りにあるあらゆる植物を食い尽くして移動する悪魔に等しい。実際のところ、飛蝗をするのはイナゴではなく、トノサマバッタやサバクトビバッタなのだが、今の柳瀬にとってはどうでもよかった。
「悪夢のようだ……」
 今までも充分に悪夢だったが、柳瀬にとってあの空も覆い尽くされるほどのイナゴの大群はまさに悪夢以外の何物でもなかった。一体誰があれを見て、生き延びる希望を今だ確かに持ち続けることができようか。
 彼は旧約聖書に現われる、災厄としてのイナゴの大群を思い出していた。


 ――地は彼らの前におののき、天はふるい、
 ――日も月も暗くなり、星はその光を失う。
(ヨエルの書 第2章10節)


 今、この世は黒く染まろうとしていた。



<作者のことば>
マンガで描いたら迫力ありそうなシーンだけど、残念ながら俺には言葉しかない。
ちなみに聖書の引用は単なる思い付き。別に聖書に深い理解があるとかは全くないので。

なんとなく、こんな話なかったっけ? と思って部屋にある聖書を探し出し(ホント探した!)、適当な箇所を引用して使ってみた。なんとなくカッコイイと思ってもらえれば幸い。
聖書もちゃんと読めばそれなりに面白いんだけど、よくわからない部分も多くて困る。



あ、それとは別に前回(27話)に拍手がいつもより多くて嬉しかったです。
やはりどんなカタチであれ反応があると嬉しいですね。ありがとうございました。

おいら、がんばるよ!!


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COMMENT

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ライム | URL | 2010/04/04(日) 13:09 [EDIT]
すみません、コメントご無沙汰していました。
こんな気味の悪い化物、次々よく創り出すな~とか、こんな悲惨な死に方よくーーという感じで、固唾を飲んで見守っていたような調子です(笑)
長編になりつつあるテンションを保って書き続けられているのもすごい!
イケメン評論家(←は?)の私としては、骸の活躍シーンがさらに増えればいうことないです(笑)
では、引き続き楽しみに読ませていただいております!!

匡介 | URL | 2010/04/04(日) 23:57 [EDIT]
>ライムさん
久し振りのコメントありがとうございます(笑)
でも、お構いなく! 気が向いたときにだけコメントしてくださっても充分に嬉しいですよ♪

グロテスクなクリーチャーに力を入れている今作ですが、書きながら「もし今後またグロいモンスターみたいなやつ出てくる話書くときどうしよう…」と表現やアイデアを使い切らないか今後の心配をしている自分がいます(笑)
死に方に関しては、容赦ない表現を追求したいところなんですが、ストーリーの進行を意識しているためか結構あっさり書いてしまっている部分がありますね。本当はもっと残酷に、痛々しく、つい嫌な想像しちゃうような文章表現をしたいんですけどね~(…え? 迷惑?)。

テンションがある程度維持されていることは自分でも驚き。
何度か長篇に挑戦(あ、韻踏んだ)したいと思ったことはあるんですが、どうも維持できずに挫折してました。ストーリーがあってないような(笑)、そんなシンプルさが奏功したんでしょうか? とりあえず、現段階では見えているラストシーンまで書き切れる気がしています。

……あと骸は、うーん、そうだなぁ、期待されるほど活躍するかなぁ?(汗) イケメン評論家さんには悪いですが(笑)

書いているうちに、当初の方向性とだいぶ違ってしまっていることが原因なんですけど、それしにしても骸はキャラクター固定されてないくせにそれなりに人気あって困るなぁ(笑)
んー、そのうち、どうにか活躍の場を設けたいと思います!!

いつもコメントさせて頂いていますが、たまにこちらでコメントされるとなんか恥ずかしいですね。ああ、読まれてるんだなぁ…的な(笑)
でも、楽しみにして頂ける限り俺は限界目指して突っ走ります!! 今後も乞うご期待!!

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