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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/07/13(日)   CATEGORY: 雨の日のうた
雨の日のうた(4)
「可南子ちゃん、かわいいねー」
 そう言っているのはケン。Lucyのドラマーだったやつ。俺の後輩で1つ年下。
「ありがとう。嬉しいなぁ」
 ケンのせりふに浮かれちゃった可南子を横目に、俺はカップを手にとりコーヒーを啜(すす)った。投入した砂糖は底に溜まっているらしく、コーヒーは思ったより苦かった。
「あのなぁ、ケン」
「なに?」
「可南子はお前より年上だぞ。ちゃん付けはないだろ」
 可南子が俺より1つ年上なんて信じがたい事実だし、見ようによってはケンより幼くも見えるのだから仕方ないといえばそのような気もするんだけれど。
「あ、そうか。可南子さんだねっ」なんだか可南子に「さん」は似合わないような気がする。
「ちゃんでいいよ」と可南子。
「ううん。可南子さんって呼ぶね」
 可南子は俺を睨むまねをした。あんたが余計なことを言わなければ、わたしはちゃん付けで呼ばれていたのよ。ちゃん付けの方がよかったのか。
「俺、これからバイトなんだ。だからもう行くね」
 ケンは席を立った。
「そうなの? 残念」
 可南子は本当に残念そうな顔をしている。
「ごめんね。じゃあね!」
 最近、ケンが必死になってバイトをして稼いでいるのは彼女が上京するからだそうだ。ケンの彼女は俺とタメ。もう卒業までのカウントダウンが始まっている。ケンの彼女は来年の春には上京して新たな生活を始めるだろう。だからケンは自分も一緒に上京する為に資金を貯めている。ところで高校はどうするんだ? ケンは高校を辞めるのか? まあ、辞めたら辞めたでいいけれど。ただ一緒にバンドは組めなくなるな。

+++

 ヴヴヴヴヴヴヴ…

 俺は枕もとに置いてあるケータイを手に取った。
「もしもし」
「あ、龍次?」
 この声、誰だっけ? とりあえずは女。
「そう、龍次」
「今起きたところだった?」
「今起こされたところ」
「ごめん! 起こしちゃった?」
 えっと、この声はヨウコだったか(漢字までは思い出せない)。
「ヨウコ?」
「なあに?」
 やっぱりヨウコのようだった。
「朝早くから何の用?」
 時計を見ると午前10時だった。どうやら朝早くではないみたい。
「今日会えないかなーって」
「無理。じゃあね」
 そのまま通話終了のボタンをプッシュした。
 すこし前まではひまでひまで女遊びに励んでいた俺だけれども、今はそれほどひまでもなくなった。休日は可南子と一緒に過ごしているからだ。でも恋人って関係でもない。今のところキスもしてないピュアでプラトニックな関係。
「もしもし」
 再びケータイが震えだしたので俺は電話に出た。
「龍次? あたし」
 あたし? この声は真理子か。
「真理子、どうかした?」
「今日ちょっと時間ある?」
 Why?
「会ってほしい人がいるの」
 このセリフ、どっかで聞いたことがあるな。そう、ドラマとかで。娘がお父さんに彼氏を紹介しようとするときのセリフだ。もしかして俺がお父さん役か? だとしたら何て言えばいい? 娘はやらんぞ。俺はそんなバカな想像を張り巡らせながらベッドを脱け出した。


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