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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/03/14(日)   CATEGORY: 短篇小説
眠れぬ夜のひとりごと。
 深夜2時、部屋はシンと静まり返っていた。それは闇が音を吸収しているかのようだった。何の音もない、深夜2時。
 その時間というのは、携帯電話のディスプレイを見てわかったことだ。この部屋に時計らしい時計はない。時刻を示しているものといえば、携帯か、パソコンか、DVDプレーヤーくらいだった。それほど不便ではないが、便利でもない。実用性とは別に掛け時計が欲しいと思うのだが、場所がアパートの一室では壁に穴を開けることも迂闊にはできない。
 風が窓を叩き、この世界に音があることを思い出した。もしアナログの掛け時計が部屋にあったとしたならば、こうして眠れぬ夜にはチックタックチックタックという秒針が刻む音を嫌でも耳にしなくてはならず、それでは余計眠れそうもないし精神的に参りそうなのでそんなものはなくてよかった気もする。
 不眠症というほどでもないが、眠れない夜がある。
 それは今日みたいに悩みに頭を抱えている夜だったり、眠れぬ理由など何も見当たらない夜だったりする。原因は様々だろう。
 おれはベッドから起き上がり、冷蔵庫を開けた。ペットボトルに入った烏龍茶を手に取って、コップに注ぐ。それをぐいっと飲み干した。
 テレビの電源を入れ、リモコンで適当にチャンネルを回すが特に観たいものもなかった。しかし今は何も考えたくなかったので、初めて観るかもしれないバラエティ番組にチャンネルを定める。ふと思い立ってもう一度冷蔵庫のドアを開け、中から缶ビールを取り出した。プシュ、という音とともにプルトップは引き起こされ、ビールに口をつけた。子どもの頃は理解できなかったこの苦味を美味いと感じるのは何なのだろう。少しばかり空腹を感じたのでついでにソーセージを焼いた。それを頬張りながらビールを呷り、くだらない深夜のバラエティ番組を眺めた。
 いつからこうなってしまったのだろうか? 夜眠れないことではない。人付き合いというものが苦手になってしまったことだ。小学生の頃は誰彼構わず一緒に遊んでいたような気もするが、いつからかそんなこともできなくなってしまっていた。友人と呼べる人間もいないことはないが、地元を離れた今は会える時間が限られている。最後に会ったのは半年前くらいだろうか。
 一人暮らしを始めてから友人と呼べるような人間ができないまま1年近くが経とうとしていた。これほどまでに自分が人付き合いを苦手だったなんて知らなかった。確かに高校でも友達は少なかったが、それでもいないわけではなかったから。
 ビールを飲み干す頃にはバラエティ番組もエンドロールを迎えていた。
 アルコールを入れれば多少眠気も襲ってくるだろうと思っていたのだが、今のところは何の効果も感じられず、仕方なくテレビを消してベッドに戻った。いつの間にかに外では雨が降っているようで、窓を打つ音が聞こえた。
 自分は何をしたいのだろうか、と思う。
 一応ながらに高校を卒業して、やりたいことがわからないままに大学へ入った。最初はやりたいことを探す時間があってもいいだろうとそれくらいに考えて大学に行くことを決めたのだが(いわゆる自分探しってやつかもしれない)、それから1年も過ぎてみれば、中身は何もないのと同じだった。大学に入ったのだからという理由で講義を受け、終わればアパートに帰る。自炊はしているから、たまに買い物に出掛けるが、外に出るのはそれくらいだ。大学の授業は適度に興味があるが、自分に大きな影響を与えるというほどでもなかった。卒業してしまえば忘れてしまう、それくらいのものだろうと思う。そして友人はいない。
 なんて淋しい毎日なんだろうか。
 人であれなんであれ、もっと大きな出会いを期待していた。人生の指針になるような何かを。しかしそれは見つかっておらず、むしろ今後の方向性を見失い、こうして夜な夜な人生を彷徨っている。
 自分は何をしたいのだろうか。
 何に対しても情熱は湧いてこない。もっと熱意があれば、同じ毎日でも違ったものになるんだろうなという予感はあった。しかし実際にはそんなもの存在していない。
 読みかけの本でも読もうかと思って、テーブルに放ってあった一冊を手に取り、頁(ページ)をめくった。だが、数分もしないうちに本は閉じた。何も頭に入ってこない。
 彼女のことを考える。
 こんなおれにも恋人がいる。人付き合いが苦手なくせにこうして付き合っている恋人がいるのはなんとも不思議だ。
 彼女とは大学に入る以前から付き合っていて、向こうは今も地元に残っていた。なので頻繁には会えず、たまに帰省して会いに行っている。そしてたまに彼女がこちらに遊びにきていた。
 寂しいか、と問われたら寂しいときもあるが、しかしこの距離感は案外大事なのではないかと思っていたりもしていた。
 離れていることでお互いを気遣うことができるし(本来は当たり前のことかもしれないが、これが案外難しいことなので、世の大半の人々は人生に何度か別れを経験するはずだ)、一緒にいる時間の大切さをわかることもできる。それに毎日でも会えるような環境にいれば、きっとお互いに依存してしまうような関係になってしまうに違いなかった。それはそれでいいのかもしれないけれど、できればもっと別のカタチの、発展的な関係を築きたいと思っている。
 そして、お互いのスペースを充分に確保できることも大きいのかもしれない。
 おれはパーソナルスペースに対する意識が強い。これは育ってきた環境(特に家族のことだが)が大きな影響を与えていると思うのだが、自分のテリトリーに対して気軽に踏み入って欲しくないと思ってしまう。自分の物に勝手に触られるのも嫌だし(それが少し寄せるだけにしても)、そもそも自分が定めた位置にその物がないことが我慢ならない。それを乱されたくないからテリトリーへの侵入に過敏に反応してしまうのだ。
 こんな自分が誰かと一緒に生活することができるのか心配だ。家族と離れてみて、今のところ困ったことは何もない。簡単なものだが料理は自分でするし、食器洗いや洗濯も嫌いじゃない。唯一、掃除だけは気乗りがしないが、それでも自分の物に触れられたくないおれにとっては誰かにやられるよりは随分とましだった。つまり、家事の面で母親に感謝したことはなかった。同じく地元を離れている友人が「離れてみて母親のありがたみがわかった」と言っていたが、今のところそのような感情は湧いてはこなかった。家族全員分を一人でこなしていたことについては大変だったろうとは思うけれど。
 そんなことを考えていると徐々に不安が込み上げてきた。何がしたいのかわからず、孤独で、しかし誰かと一緒に暮らすイメージができない自分。なんというか、将来に不安を感じる。大体にして、おれのどこが好くて彼女は自分と付き合っているのだろうか? こんな、将来性のない、人生の路頭に迷っているような男のどこが。
 大学は辞めようかという気持ちが強かった。このまま籍を置いていても何も得るものがない気がした。それよりだったら、もっと違う時間の使い方をしたかった。しかしどんな? それがわからない。
 こうして留まっているのはもう嫌だった。何か、前進したいと思っていた。
 言いようのない焦り、不安。込み上げる焦燥感に、おれは落ち着くことはできなかった。

 ――ああ、おれはどこに向かっていくのだろう?

 気付けば、窓の外はもうだいぶ明るく、朝がすぐそこまで迫ってきていた。
 そのうち、彼女も目覚めるだろう。
 どうしてか、彼女が起きたら今の自分の気持ちをそのまま伝えてみようと思った。きっときちんと聞いて、そして受け止めてくれるだろう。それで何かが解決するとは思えなかったが、あるいは何かが前進するかもしれない。
 布団の中で目を瞑る。彼女が目覚めるそのときまで、しばらくこうしていよう。何をどう話せばいいか、もう少し自分の中で整理しようと思った。




<作者のことば>
なんかホラー・ファンタジーみたいなのに飽きてしまったので、違うテイストのものを。
本当は暇潰しに書いたやつを載せようかと思ったのだけれども、載せるつもりで書いたわけではなかったので、改行やら何やらここの載せるとバランス悪かった。

で、代わりに書いてみた。

何日か振りに書いてみた感想は、書くって面白い(笑)


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