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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/03/18(木)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐20 (遭遇Ⅱ)
 階段を2階分昇り、耕太の言う「おじさん」という人がいる部屋の前に二人は辿り着いた。
 柳瀬は望美に目配せをして、お互いに頷いた。もしもここが化け物の巣窟だったら――という了承。そして覚悟を決め、部屋に入る。
「おじさん! 人を見つけたよ!」
 30代後半から40代前半といった男が、腰をかけていたベッドから立ち上がった。
「おお、まだ生きている人がいたのか!」驚き、そして喜びを含んだ声があがった。「会えて嬉しいです」
 望美は、平凡な印象の男だと思った。いわゆる一般人。街を歩くサラリーマン。知れば個性はあるのだろうが、その他大勢という無個性さを何となく感じさせる。よく生き延びたものだと彼女は思った。
 ――それは自分も同じだ。凡庸過ぎるほど凡庸な自分が、よくぞここまで生き延びたと心底思う。
「私は類家といいます」
「柳瀬です」
「あ、三浦です」
「柳瀬さんに、三浦さんですね。――実は私たち、これから仲間のところに戻るところなんですが、一緒に来ませんか?」
「仲間?」
「はい。生き延びた人たちで集まってるんです。私たちは食糧を探しに出てきたんですけど、これから仲間のところに戻るつもりで」
 まさに二人が探していた人間だった。やはり生き延びた人たちで集まっていたのだ。柳瀬の両目に思わず涙が浮かんだ。
「よかったら、一緒に行かせてください…」
 必死にあがき、生き延びてきた甲斐があった。どんなに辛くとも、生きる望みを捨てずにいてよかった。これまでの想いが報われて、今、目の前に希望の光が差し込んできたのだ。
「お願いします」
 色々な想いが込み上げて、声が震えていた。
 柳瀬の初めて見る姿に、望美は苦しかったのは自分だけではなかったことに気付いた。どんなときでも余裕を持っていて、自分を支えてきてくれていたと思っていた。しかし、実際は彼も誰かに支えて欲しかったのだ。どうしてそれに気付けなかったのか。この状況で、冷静でいられる人間がどれだけいることだろう? 彼も、必死に冷静に徹していたのだ。そうしなければ生き延びることは出来ないとわかっていたのだ。
 自分が情けなかった。彼に頼りっ放しだった自分が許せなかった。
 ――柳瀬さん、ごめんなさい。
 望美の頬に涙が撫でた。それを誰にも気付かれぬように拭って、強く食い縛った。――もっと強くなろう。誰かの支えになれるくらい、強くなりたい。
「じゃあ、これから行こうか。移動するのに早いは越したことはないからね。――きみたちはもう出れるのかい?」
 特に手荷物がなかった二人だったので、そのまま出発することにした。しかしその前に教えておかなくてはいけないと思い、柳瀬は車が蜘蛛のような化け物に変わったこと、それがホテルの中まで入ってきていたことを伝えた。もしかするとまだ建物の中にいるのかもしれない。無防備に階を降りるのは危険だった。
「やつらを相手に闘うことを考えちゃダメだ。見つかったら、とにかく逃げる! それのみだよ。誰かが遅れてても気にしちゃいけない。そうでもしなきゃ、すぐに全滅だよ。それだけは覚えておいて欲しい」
 類家の言葉は最もであった。
 いくら助け合うと言っても、その根本は自ら力で生き延びなくてはならない。誰しもがギリギリのところを必死であがき、生きようとしているのだ。助け合えるところは助け合う、しかし全てに力を貸すことは出来ないということは忘れてはいけなかった。全員が死んでしまっては、元も子もない。
「わかりました。肝に銘じておきます」
 柳瀬の返事に類家は頷き、部屋のドアを開けた。

<作者のことば>
この辺のシーンは結構前から書こうと思っていた。
ストーリーラインも何もなく、本当に思いつきだけで書き出したのが、書いているうちにアバウトながらストーリーが決まってくる。この(今勝手に名付けたが)ホテル編はそのうちの一部。

そろそろストーリー的に変化がないと面白みに欠ける頃合だし、以前から欲しいと感じていた役どころ(この作品の登場人物は最初キャラクターをほとんど持っていない。必要だと思っていた役どころに書きながら適当に名前を与えて、ストーリーの進行とともにキャラクター(性格)を付けていくといった要領で書かれている)に当たる人物を登場させた。
ストーリーの変化には登場人物の追加が最も手っ取り早い気がする。←あ、これ重要かも。当たり前だからこそ、改めて考えたことはなかった。

全くストーリーを考えずに書き始めた作品が、途中で思いついたストーリーに乗り出したということは、実は作品がラストに向かって進み始めているということで、この作品の向かう先が見えてきたということだ。

つまり、もう少しの辛抱なので、最後までお付き合い願えると幸いに思います。

気付けば早20話。今まで短い話が多かったので、びっくりしています。
今後は長期的な物語も書いていきたいと思っていたので、徐々に長く書くことに慣れていければいいなぁ。


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