FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/05/29(木)   CATEGORY: 短篇小説
ボーイズ・ラン(後編)
 部活を辞めることシュンに言った。シュンは何も言わなかった。
 放課後になり、ぼくは退部届けを持って職員室へと足を運ぶ。職員室が見えてきたあたりでぼくは名前を呼ばれた。
「タカハシ!」
 振り向くとシュンがいた。
「こっち来いよ」
 ぼくは連れられるがままにシュンについていった。階段をのぼって屋上へとつながるドアのノブにシュンが手をかける。屋上に続くドアのカギは開いてるのかなとぼくは心配したけれど、そんな心配は必要ないほどにすんなりドアは開いた。そうしてぼくらは屋上に出た。
「なんで辞めるの?」
 シュンの問いにすこしとまどいながら答えた。
「ぼくは大会に出てもいつも下位だ」
「そんなの頑張って練習すりゃいいじゃん」
「いくら頑張ってもだめなこともあるよ」
「でも頑張ってみなきゃわからないだろ」
「才能がないんだよ」
 シュンが何かを言いかけたが、ぼくの言葉がそれをさえぎった。
「ぼくはシュンみたいに才能があるわけじゃない」
 きっとぼくには走る才能がない。それは練習をしていてわかる。周りにどんどん追い抜かれていく感覚。ぼくはシュンと違った。
 でもぼくは知っていた。シュンは才能だけで走っているんじゃないことを。部の練習はみんなよりきつい特別メニューだし、部活がないときも自分なりに速く走るためにひとり練習していたことも。シュンが速いのは才能だけじゃない。その努力が実を結んでのことだった。
「おれは楽しいよ」
 シュンは続けた。
「おまえがさ、おれのこと陸上部に誘ってくれたじゃん。でも最初はそんなに興味なんてなかったんだ。だけどそのうち走ることが楽しくなった。前より速く走れるようになると嬉しくてたまらないんだ。だからもっと速く、もっと速くって思いながら練習した」
 ぼくは何も言わなかった。
「つまりさ、おれに火を点けたのはおまえなんだ。おまえが点けた小さな火は徐々に勢いを増して今では大きな炎になってる」
「でも、頑張ったのはシュンだ。ぼくは何もしてない」
「おれはタカハシに感謝してる。走ることの楽しさを教えてくれたのはおまえだよ。だからおれはおまえにもそれを知ってほしい」
「ぼくにはわからないよ」
「大会だって近いじゃん。それに出てからじゃ遅いのか?」
 そんなことはなかった。
「今までタカハシが頑張って練習してきたのを知ってるよ。練習さぼってるやつだってたくさんいたけど、おまえは休まずに練習を続けてたじゃんか。おまえに才能ないなんてことはない。続けることだって、きっと才能なんだぜ?」
 続けることが才能。きっとシュンはその才能も持っているのだろう。それがぼくにもあるのだろうか。シュンの脚は先天性の才能だ。だけど努力という才能はぼくにも手に入れれるはずだ。
 結局、ぼくは退部届けを出さなかった。今までの練習の成果を見ないまま去るのも口惜しい気がしたから。

***

 それからのぼくは、いつもの倍は練習に励んだ。部活のないときも自主練をした。努力くらいはシュンに負けないようにと頑張った。そしてあっという間に大会の日を迎えた。
ぼくの出る競技は男子3000M。きっとぼくには上位入賞はむりだと思う。だけど練習の成果がどれほどなのか知りたかった。ぼくの相手は他の選手の誰でもない。ぼく自身だ。


 競技のトラックに立っていた。しばらくピストルが鳴る。選手たちは走り出す。ぼくも走り出した。
 トラックを2周するとぼくは先頭集団を追う第2集団の中にいた。そのまま3周目に入った。脚が軽快に動く。今日のぼくは調子がよかった。
 すこしペースが落ち始めてきた。5周目に入ってから他の選手にも疲労が見えてきた。ペースダウンして後方にまわってしまっている選手も少なくもない。ここでペースダウンしてしまっては先頭集団に追いつくことは不可能だ。気合いを入れた。すこしずつペースをあげる。前を走る2人を抜き、ぼくは第2集団のトップに出た。勝負はここからだ。
 6周目。脚が重い。それでもペースを落とすことはできない。スタンドではぼくを応援する陸上部の姿が見える。応援の声はトラックを走るぼくには届かなかった。だけどシュンが応援してくれていることはわかっている。ぼくは重い脚をあげてさらにペースをあげた。先頭集団まであと5メートル。必死の追い上げ。ぼくは力を振り絞った。
 
***

ぼくが先頭集団に追いついたときはもう7周目に入ってしまっていた。勝負は最終場面へと突入する。本当はもう脚が叫び声をあげている。だけどそれにかまわず走った。
後方から迫って来る感覚。そのまま誰かがぼくを追い抜いていった。もうラストスパートをかけているやつはかけている。ぼくは最後の力を振り絞り加速する。全身全霊をかけて走った。
 ぼくは2、3人と追い抜いた。息があがる。もうまともに呼吸ができていない。それでも走りを緩めることはできない。汗が目に入りそうになる。脚を振り上げて地面を蹴った。
 気付くと前を走るのは2人。ぼくは現在3位だった。初めての感覚。胸の奥が熱い。このままいけば入賞できるだろう。そう思っていたらあの息苦しさはなくなっていた。身体がみょうにスムーズに動く。いける。ぼくは1位を目指して走った。

***

 そのあとぼくは2位までのぼりつめた。1位との距離は1メートルもない。あとすこし頑張れば1位になれるところだった。そう思ったとき後続の選手に追い抜かれた。3位。残り100メートル。どの選手も最後の力を振り絞って走り出した。ぼくはペースアップしているつもりがペースダウンしていた。また1人追い抜かれていった。

***

 ゴールの越えるとぼくはトラックに倒れこんだ。もう走れない。ぜえぜえ、と乱れた息の音が聴こえる。心臓は破裂しそうなほど強く速く脈打っていた。
 結局、ぼくは5位だった。それでもぼくには大きい5位だった。もうすこし頑張れれば1位にだってなれたはずだ。ぼくは初めてもっと走りたいと思った。シュンが感じた感覚もこんなものだったのだろうか。

***

 シュンがぼくに言った。
「速いじゃん」
「シュンには負けるよ」
「でも、おれはあんな距離ずっと走ってられねえぜ。長距離だったらタカハシにかなわないよ」
 そう言ってシュンは笑った。ぼくも一緒になって笑った。胸の奥はまだ熱いままだった。

***

 100Mトラックに選手たちが並ぶ。アナウンスでひとりずつ選手が紹介される。シュンは自分の名が呼ばれると手をあげたあと一礼した。
「位置について」
 選手たちがキックスターターに脚をかけた。シュンも脚をかけた。
「よーい」
 息を呑む選手たち。短距離にとってのスタートはぼくたち長距離とは比べものにならないほど大切だ。神経を集中させてピストルが鳴るのを待つ。

 パァァァァン。

 ピストルが鳴ったのと同時に選手たちは走り出した。
 短距離は一瞬の勝負だ。シュンは他の選手をどんどん突き放していく。きっともう誰も追いつけない。シュンは風のように走った。そのままどこまでも駆けて行くようだった。


<作者のことば>
ボーイズ・ランの後編です。
物語を通して2人の少年の成長を描こうと思い…、なんて理由から書こうと思ったわけではありません(笑)

屋上でのタカハシとシュンの会話シーン。

何の理由もなく、ふとそのシーンが浮かんだんです。たしか、学校帰りに。
その会話に合わせて適当にストーリーを作って出来たのがこれです。
書き始めるキッカケの割には、結構気に入っている物語です。

いつか続編書きたいですね。萬紅堂でした。
[ TB*0 | CO*8 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する
● 拝読させていただきました
dejavuewords | URL | 2008/08/18(月) 16:05 [EDIT]
最近私も短編を書くようになりましたが、
ストーリー展開が長編と違って難しく感じています。
しかし、こちらのボーイズ・ランの展開は小気味がいいですね。

ご訪問、有難うございました。
BLだのファンタジーに負けず、切磋琢磨しましょう!

匡介 | URL | 2008/08/18(月) 18:41 [EDIT]
>dejavuewordsさん
どうもありがとうございます。
個人的には長編の方がどうも苦手です。やはり向き不向きがあるのでしょうか。しかし長編も書きたいので日々スキルアップを目指してます。
実は玖堂もファンタジーを書かないわけではないのですが(笑)、共に頑張っていきましょうね。

またのお越しをお待ちしております。
● はじめまして
ミズノ | URL | 2008/10/06(月) 00:40 [EDIT]
訪問者リストから見てきたのですが、
素敵な作品が多いですね!!
特にこのボーイズ・ラン、とても面白かったです^^
これからもがんばってください。



匡介 | URL | 2008/10/06(月) 16:25 [EDIT]
>ミズノさん
どうもありがとうございます。
最初期の作品なのに評判は良いんですよね。シンプルなところが良いのかもしれないなぁ。

またのお越しをお待ちしていますね。

神田夏美 | URL | 2009/06/21(日) 20:05 [EDIT]
はじめまして、神田夏美と申します。創作小説ブログ様を巡っていてこちらのブログに辿り着きました。たくさん小説があってどこから読もうか迷ったのですが、とりあえず上から読ませて頂きました。というかほんとにたくさん小説あってすごいですね。

二人の少年の友情と成長、感動しました。まさに少年時代の青春って感じで、自分より優れているような人を見て自分に自信がなくなってしまう気持ちとかも、共感できるところがありました。

しかしそんな悩みを乗り越え、ラストはとても爽やかで読後感がよかったです。短編でこれだけ詰め込めるのはすごいですね。

乱文失礼致しました。これからも頑張って下さい。

匡介 | URL | 2009/06/22(月) 17:16 [EDIT]
>神田夏美さん
こちらこそ初めまして。
楽しんで頂けたようで、嬉しいです。ありがとうございます。

前向きな力、希望に向かって前進しようとする意志を感じてもらえたでしょうか?
これはだいぶ昔に書いたものなのですが、今読んでも励まされるような気がします。これは自分自身へのエールであったし、読んでくださる方への応援になればいいなぁ、と今でも思いますね。

もし読まれましたら、是非、他の作品の感想も教えて欲しいです。
またのお越しをお待ちしていますね。

神瀬純裕 | URL | 2010/01/27(水) 02:39 [EDIT]
 どうも~。
 テストがほぼ終わったので、早速萬紅堂さんの小説を読みにw
 とりえあず、作品一覧の一番上にあったこの作品を読ませて頂きました。

 短編、ということだったのでちょっと気合を入れて読み始めたら……どっちかっていうと、掌編的な長さだったんですねw

 萬紅堂さんが批評を望んでいるのかは分からないので、とりあえず感想だけを。

 リズムが良くて読みやすかったです。
 とりあえず、瞬の足が凄く速いのが伝わってきましたw
 この後、タカハシと瞬が実力を上げて、共に全国大会へ……的な展開も読んでみたかった気がします。

 ではではw

匡介 | URL | 2010/01/27(水) 10:09 [EDIT]
>神瀬純祐さん
さっそくありがとうございます♪
なんか読んでくださったのが古い作品で恥ずかしいです(笑)

そうですね、掌編に近いかもしれません。
まあ、そこらへんはアバウトに受け取ってやってください。基本的には読みやすい短さにまとめているので、そこまで気合い入れられることはないと思います(笑)

全国大会編も面白そうですが、走っている描写って何書いたらいいかよくわかりません。
意外と短く済んでしまいそうで、まだまだ語彙やら何やら足りないんだと思います。

批評と言われると怖いですが(笑)、アドバイスならよろこんでお教え願いたいです。
そのときは出来るだけ優しく教えてやってくださいね~!

コメントありがとうございました♪

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ