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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/02/14(日)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐13 (MUKURO)
 キィィィイイーーー!!
 片腕を奪われた猿が怒りと痛みに叫んだ。牙を剥き出し、明らかな敵意を持って突如現れた男に対峙する。腕は血を撒き散らした。
「下がっていろ。遠くにも行くな」
 ぼそりとそう男が呟いた。あまりに小さく呟いたので、詩帆はそれが自分に言われていることだと気付くのに数秒かかった。
 ヴヴヴヴヴヴ――…
 周囲に集まっていた人面蜂が耳障りな羽音を上げ、素早い動きで、大きな毒針を男に向け、襲いかかった。
 男は手に持つ白い剣――のようなもの――で宙を薙ぐ。
 たちまち人面蜂はその体がバラバラになって地面に落ちた。そんな姿にも体は動いていて、詩帆は思わず後ずさる。
 風を切る音。剣が宙を薙いた。人面蜂の体が崩れる。見えない、速度。顔だけになった人面蜂が憎らしげに男を睨めつけた。
 次々と襲いかかる人面蜂を男は迎え撃ち、そのたびに人外の叫びが辺りに響き渡る。――救世主。彼が何者かはわからないが、その言葉が詩帆の脳裏に浮かんだ。
 その光景はまるで悪夢で、頭だけに、胴だけに、脚だけになった人面蜂だったものが地表で蠢めいている。その中心で、涼しい顔をしている男はまさに救世主。あるいは地獄の貴公子なのか。どちらにせよ、詩帆にとっては今現在唯一の希望であった。
 残る人面蜂の様子が変わった。その顔についている人間さながらの眼球がぐるぐると回転し始めた。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる――…
「な、なにあれ……」
 突如として人面蜂の顔に、縦一閃に、亀裂が生じた。
 バキバキバキィィィ――嫌な音を立てて顔が割れる。割れた顔はまるで大きな口のようで、内部からはピンクの触手はうねうねと這い出てきていた。
 思わず詩帆は怖気に震えた。
 より禍々しく変貌した人面蜂に、男は構わず向かって行く。手にした剣を振りかざし、人面蜂の割れた顔を捉えた。顔の割れ目に、抉るように剣を突き立てられる。人面蜂の悲鳴。人外の悲鳴。耳を劈(つんざ)く。鼓膜が破れそうだった。
 人面蜂は内部から赤黒い液体を垂れ流して、動きをやめた。
 残った人面蜂は目の前の男には勝てぬと思ったのか、逃げ帰るようにどこかへと飛んでいってしまった。
「キイイイイ――!!」隻腕の猿が怒号を上げた。「……キ、サ、マ」
 猿の頭部がメキメキと隆起し、その体毛の下から角らしきものが皮膚を突き破って現れた。猿の体は倍に膨れ上がり、背中には蝙蝠のような羽。その姿は――まさに悪魔!!
「イヅレ、オマエ、ヲ、コロス――」
 悪魔の成長した猿は、その大きな、漆黒の翼を広げ、宙に飛び立った。
 バサッバサッという翼が風を切る音が耳に届いた。
「ギョオオオオオオオオ――!!」
 野太い、悪魔の咆哮が辺りを包み込み、詩帆の全身にもビリビリと響いた。
 悪魔は詩帆と男を一瞥すると、空の向こうへと消えてしまった。詩帆はほっと胸を撫で下ろし、ゆっくりと男に近付く。「あの、あなたの名前は?」
「俺の名か? 俺の名は――骸」




<作者のことば>
ついに骸(ムクロ)登場!!
長かった! ホント長かったよ!!

これでやっと主要人物が揃った、というところでしょうか。

ここから一気にラストまで駆け抜けるぜ!!


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