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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/02/06(土)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐9 (脱出)
 気付いたときには遅かった。深い、濃い霧の中から、突如として現れた崖。
 それは断層だった。地震によってズレた地盤が、小さな崖を作り出していた。
 高さは約10メートル。落下後に助かる見込みは、微妙。
 ハンドル操作もアクセルもブレーキも意味をなさなかった。
 詩帆は絶望し、死を覚悟した。
 車が跳んで、宙を落下する。
 ハンドルを握る両手に力が籠もった。
 ――死にたくない!!
 感覚としては長く、実際としては短い時間ののち、激しい衝撃が車を襲った。
 二転三転のひっくり返り、横転し続け、やがて車は止まった。
 詩帆は生きていた。生きていることが信じられない。しかし生きていた。それは奇跡に等しい幸運だ。
「安生さん……?」
 ぐったりとして、体に力が入らない。
 それでも気力を振り絞って詩帆は三貴彦の安否を確かめようとした。
 視界が後部座席を捉えた。
 しかし、
 そこに安生 三貴彦の姿はなかった。


 ***


 もうどれだけの時間をここで過ごしただろう。もうどれだけの時間をここで過ごせばいいのだろう。三浦 望美の精神は極限まで磨り減っていた。
「もう、駄目。もう、無理。お願い、誰か、早く来て……」
 コンビニの外には何十という人の死体。そして忌むべき怪蟲、巨大なノミの化け物。
 そこはまさに地獄絵図と化していた。
 ピョンピョンと跳ねながら次の獲物を探すノミ。今のところ望美が彼らに見つかっていないのは、ノミが蚊や虻(アブ)などと同様に二酸化炭素を感知して獲物を探すからかもしれない。もしコンビニのドアが開けば、たちまち彼女の吐いた二酸化炭素を感知して、彼らは彼女に襲いかかるだろう。
 そういう意味では、彼女は無自覚に、自分を守る最善の策を取っていた。
 しかしそれは、あくまでコンビニ内が密室で、外界から隔離されていることを前提に、である。
 店の奥から物音がした。
 スタッフオンリーの扉の向こうからだろうか。望美はびくりと体は震わせ、恐るおそるそのドアを開けた。
「誰か、いる?」
 そんなはずはない、と思いながらも、彼女はそこにいるのが誰か人であることを心から望んだ。
「ねえ、誰かいるの?」
 その部屋の中には、蜘蛛の糸を張り巡らしたかのような状況だった。
 白い糸が部屋中を包み、その奥で、何かが胎動している。
 これは――繭?
 彼女は後ずさった。
「キャッ!」
 いつの間にかに背後にノミがいた。それは他のノミよりいくぶんか小さく――それでも50センチはあり、充分に巨大だった――まるで子供に見える。
 互いの視線が合致する。
 ごくり。望美は喉を鳴らして息を呑んだ。
 ゆっくりと移動して、そこを離れようと動くと、ノミがぴくりと動いた。
 心臓の鼓動が今まで感じたことがないほど速く、その音は大きかった。
 ノミの両脚に力が込められた。
 恐るべき脚力。体長の約60倍の高さ、100倍の距離を跳躍できるというノミ。
 それがもし彼女に全力でぶつかったらどれだけの威力になるだろう? まさに目にもとまらぬ速さではないだろうか。
 感覚的に、本能が、直感として、彼女にその危険を報せた。
 もう覚悟を決めるしかない。――彼女は駆け出した!!
 反射的にノミが跳躍する。
 まるで銃弾のように、直線にノミは跳んだ。
 恐るべき速度である。
 しかし、望美は間一髪でそれを避けた。見えたわけではない、強運が彼女に味方した。
 銃弾の速度で、威力で、跳躍したノミは、真っ直ぐに硝子を突き破り、その破砕音が店内に響いた。
 もはや結界は解かれた。これまでノミたちのセンサーから望美を隔離し、保護していた防壁は崩れ、店内に充満していた二酸化炭素が放たれた。すぐにそれを察知してノミどもが集まってくるだろう。
 もう無我夢中だった。望美はドアを蹴破って、店外に飛び出た。そして全力で走る走る走る!! 助かるにはそれしかないのだ!! 生きるには走るしかなかった!!
 ――生き延びてやる!!
 その想いが、生への執着心が、生命の欲求が望美を突き動かした。それが原動力で、エネルギーで、パワーになった。――生きる。わたしは生きる。
 後方では待ってましたとノミどもが追いかけてきていた。やつらが全力で跳躍してしまえば、望美との距離など簡単に無に帰してしまうだろう。しかし望美が全力で走っている間は照準が合わない。ピョンピョンと小さく跳んで、正確に望美を追っていた。
「ハアハア…」
 息が切れてきた。そんな苦しさになど――アドレナリンが放出されていたからだろう――望美は気付かなかった。しかし体は酸素を欲していた。乳酸が溜まり、いずれは肉体が限界を迎える。無限に走っていられる道理はなく、筋肉は悲鳴を上げていた。
 一匹のノミが素早い跳躍で、望美のすぐ背後にまで近付いた。
 それを彼女は視界の隅で捉え、自分の運命を悲観した。
 しかしそれは思いがけぬ救世主によって助けられる。車が彼女の背後に突っ込んできて、ノミは見事に弾き飛ばされた。「おい、早く乗れ!」
 運転席から男が叫びが聞こえ、望美は頷く間もなく慌てて助手席に乗り込んだ。
「よし、じゃあ出るぞ!」
 こうして三浦 望美は何時間も店内で粘った末、見事窮地から脱したのだった。



<作者のことば>
右往左往しながら書いています。何となく表現が最善ではない思いながら、書いています。
納得できないんだけど、他も浮かばない。これぞ実力不足!

というか最初の頃、「ウォーミングアップ」と言ってしまったのだけれど、にしても長いウォーミングアップだな!

このままでは(話数にして)過去最長の作品になりそうで怖い。……いや、別にいいんだけど。


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COMMENT

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● こんばんは。
鈴代まお | URL | 2010/02/07(日) 00:21 [EDIT]
こちらでは初めまして。
ここまで読ませていただきました。

ホラーっぽくて、この先がどうなっていくのか気になります。
個人的に安生さんがどうなったのかも、かなり気になってます。
それにしてもこんなに完成度が高いのに、ウォーミングアップなのですか??

では、また読みに伺います。

匡介 | URL | 2010/02/07(日) 14:13 [EDIT]
>鈴代まおさん
これはわざわざお越し頂き、本当にありがとうございます。

鈴代さんの作品とあまりに毛色が違うのにも関わらず、読んで頂けてとても嬉しいです♪
さて安生の行方については続きを待っていてもらえると助かりますが、ホラーやグロテスクが大丈夫なのでしたら、最後までお付き合い願えるとより嬉しいです。

個人的にはウォーミングアップのつもりなのですが、完成度高いと言ってくださると今後の励みになります。気合い入りますね!
でも、鈴代さんの書かれる丁寧な文章と比べたらとても粗くて、完成度なんてまだまだ低いです。今回は丁寧に書くことをあえて意識していないのですが、鈴代さんの丁寧さは参考になります!

是非、またのお越しをお待ちしていますね。
こちらも近いうちにまた伺おうと思いますので、そのときはよろしくお願いします。

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