MUKURO・地獄篇‐6 (知人)
エンジン音が消えたことをきっかけに檜山 詩帆は目を覚ました。どうやら目的地に着いたらしい。
「俺はちょっと中の方を見てくるけど、君はどうする?」
安生 三貴彦が指差す先には小さな雑居ビルがあった。そこに彼の知人がいるのだろうか?
「一緒に行きます」
「そうか。じゃあ、気をつけて降りて」
ランドクルーザーの高い車高に、詩帆の脚では降りるのに軽く飛び降りなければならなかった。しかし三貴彦が手を差し伸べてくれたので、難なく降りることができた。小さなことまで気が付いてくれて、やはり頼りになると彼女は思った。
ビルの中は当然のように荒れていた。地震で亡くなった人も多いのだろうな、そんなことを詩帆思った。しかし魑魅魍魎怪物化け物の類いは見当たらない。そういう意味では今のところ安全地帯であるようだった。
三貴彦が入った事務所のような一室には、誰かがいるような様子はなかった。「誰もいないか」と彼が呟くのが聞こえた。ところが詩帆は何かがいるような気がしてならない。
「誰か、いないか?」
三貴彦の問いは、虚空に消えた。
上の階から物音が聞こえた。「上に誰かいるのか?」
「気をつけてください。また化け物かもしれないですし」
「わかってる。もしやつらがいたら、すぐさま逃げよう。車に飛び乗って、この場を離れることにしよう」
「はい」
息を呑んで、ふたりは階段を昇った。
「誰かいないか?」
人が倒れている姿が目に入った。三貴彦が駆け寄る。「駄目みたいだ、もう死んでる」
彼は部屋に入った。そこもまた事務所として使われていたようで、書類らしきものが床に散らばっている。
――デスクの陰で何かが動いた。
三貴彦はとっさに身構え、ゆっくりとそれに近付いていった。
そこには――よく見知った後姿。
「大木、ここにいたのか?」
三貴彦が知人と言っていた大木という男が彼であるらしかった。詩帆はそのことにほっとして、三貴彦に駆け寄った。「見つかったんですね」
「おい、大木。大丈夫か?」
うずくまるようにしゃがんでいる大木の肩に、三貴彦が手をかけた。
大木が振り向く。
そこには、
――裂けたような巨大な口。
サメを思わせるギザギザな歯には、血。
三貴彦は後ずさった。
目の前にいるのは確かに自分が知っている大木だが、しかしこれは、もはや大木ではない。
「詩帆ちゃん、逃げろ!!」
その叫びに応じて、大木――だったもの――は人間とは思えぬ素早さで三貴彦に飛びかかった。
せめてもの護身用にと、三貴彦は手に持っていた十徳ナイフの刃を立てて、大木の首筋に思いっきり突き立てた。血が噴出する。
噴水のように溢れ出すおびただしい血に、三貴彦の手は真っ赤に染まった。
しかしそんな刺し傷など通用しないのか、大木は大きな口でにやりと笑った。
――ここで死ぬかもしれない。
初めて、三貴彦は限界を感じた。
「だったら死ぬ気で俺はあがく!!」
ナイフをグッと横に引いた。大木の首の3分の1ほどが切断され、だが、それが些細なことであるかのように大木は笑っていた。
三貴彦が全力で大木の体を蹴り飛ばし、駆け出した。おそらく自分では勝てない。だったらこの場から逃げ延びることに集中しなければ!
大木が笑いながら追いかけてきた。その姿は不気味で、異様で、ホラー映画の一幕のようだった。
「詩帆ちゃん!」雑居ビルを抜けて、車に乗っている詩帆に合図した。「これを!!」
三貴彦が手にしていたのは車のキーだった。それを詩帆に投げつける。詩帆は慌てて車のドアを開けてそれをキャッチしようとした。しかしそれは手元を滑り車内に転げ落ちた。
「早くエンジンを!!」
三貴彦がすぐそこまで来ていた。その後ろには大木も。
彼が車に乗ったらすぐ発進させなければならない。詩帆は焦った。
キーが目に入り、慌てて手に取る。そして運転席に移動して、それを差し込んだ。エンジンがかかる。
「安生さん、早く! もうすぐ後ろに!! 逃げて!!」
後部座席のドアを開けておいていた。三貴彦はそこを目がけてジャンプした。すぐ背後には大木の姿。
詩帆は三貴彦を信じて、彼が乗るのを見届けることなくアクセルを踏み込んだ。猛スピードで発進する。後部座席で三貴彦が着地する音がした。どうやら間に合ったようだ。
「ニゲルノカ? ニゲルノカ?――ニゲルッテナンダ?」
もういなくなっていたと思っていた黒オウムが車の屋根に止まっていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、一応」
全身血だらけの三貴彦だったが、それは返り血らしく、どうも本人は無事のようだった。
「ダイジョウブ! ダイジョウブ!――ッテナンダ?」
「俺はちょっと中の方を見てくるけど、君はどうする?」
安生 三貴彦が指差す先には小さな雑居ビルがあった。そこに彼の知人がいるのだろうか?
「一緒に行きます」
「そうか。じゃあ、気をつけて降りて」
ランドクルーザーの高い車高に、詩帆の脚では降りるのに軽く飛び降りなければならなかった。しかし三貴彦が手を差し伸べてくれたので、難なく降りることができた。小さなことまで気が付いてくれて、やはり頼りになると彼女は思った。
ビルの中は当然のように荒れていた。地震で亡くなった人も多いのだろうな、そんなことを詩帆思った。しかし魑魅魍魎怪物化け物の類いは見当たらない。そういう意味では今のところ安全地帯であるようだった。
三貴彦が入った事務所のような一室には、誰かがいるような様子はなかった。「誰もいないか」と彼が呟くのが聞こえた。ところが詩帆は何かがいるような気がしてならない。
「誰か、いないか?」
三貴彦の問いは、虚空に消えた。
上の階から物音が聞こえた。「上に誰かいるのか?」
「気をつけてください。また化け物かもしれないですし」
「わかってる。もしやつらがいたら、すぐさま逃げよう。車に飛び乗って、この場を離れることにしよう」
「はい」
息を呑んで、ふたりは階段を昇った。
「誰かいないか?」
人が倒れている姿が目に入った。三貴彦が駆け寄る。「駄目みたいだ、もう死んでる」
彼は部屋に入った。そこもまた事務所として使われていたようで、書類らしきものが床に散らばっている。
――デスクの陰で何かが動いた。
三貴彦はとっさに身構え、ゆっくりとそれに近付いていった。
そこには――よく見知った後姿。
「大木、ここにいたのか?」
三貴彦が知人と言っていた大木という男が彼であるらしかった。詩帆はそのことにほっとして、三貴彦に駆け寄った。「見つかったんですね」
「おい、大木。大丈夫か?」
うずくまるようにしゃがんでいる大木の肩に、三貴彦が手をかけた。
大木が振り向く。
そこには、
――裂けたような巨大な口。
サメを思わせるギザギザな歯には、血。
三貴彦は後ずさった。
目の前にいるのは確かに自分が知っている大木だが、しかしこれは、もはや大木ではない。
「詩帆ちゃん、逃げろ!!」
その叫びに応じて、大木――だったもの――は人間とは思えぬ素早さで三貴彦に飛びかかった。
せめてもの護身用にと、三貴彦は手に持っていた十徳ナイフの刃を立てて、大木の首筋に思いっきり突き立てた。血が噴出する。
噴水のように溢れ出すおびただしい血に、三貴彦の手は真っ赤に染まった。
しかしそんな刺し傷など通用しないのか、大木は大きな口でにやりと笑った。
――ここで死ぬかもしれない。
初めて、三貴彦は限界を感じた。
「だったら死ぬ気で俺はあがく!!」
ナイフをグッと横に引いた。大木の首の3分の1ほどが切断され、だが、それが些細なことであるかのように大木は笑っていた。
三貴彦が全力で大木の体を蹴り飛ばし、駆け出した。おそらく自分では勝てない。だったらこの場から逃げ延びることに集中しなければ!
大木が笑いながら追いかけてきた。その姿は不気味で、異様で、ホラー映画の一幕のようだった。
「詩帆ちゃん!」雑居ビルを抜けて、車に乗っている詩帆に合図した。「これを!!」
三貴彦が手にしていたのは車のキーだった。それを詩帆に投げつける。詩帆は慌てて車のドアを開けてそれをキャッチしようとした。しかしそれは手元を滑り車内に転げ落ちた。
「早くエンジンを!!」
三貴彦がすぐそこまで来ていた。その後ろには大木も。
彼が車に乗ったらすぐ発進させなければならない。詩帆は焦った。
キーが目に入り、慌てて手に取る。そして運転席に移動して、それを差し込んだ。エンジンがかかる。
「安生さん、早く! もうすぐ後ろに!! 逃げて!!」
後部座席のドアを開けておいていた。三貴彦はそこを目がけてジャンプした。すぐ背後には大木の姿。
詩帆は三貴彦を信じて、彼が乗るのを見届けることなくアクセルを踏み込んだ。猛スピードで発進する。後部座席で三貴彦が着地する音がした。どうやら間に合ったようだ。
「ニゲルノカ? ニゲルノカ?――ニゲルッテナンダ?」
もういなくなっていたと思っていた黒オウムが車の屋根に止まっていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、一応」
全身血だらけの三貴彦だったが、それは返り血らしく、どうも本人は無事のようだった。
「ダイジョウブ! ダイジョウブ!――ッテナンダ?」
COMMENT
出た! ゾンビ! ついて来た! オウム返しな鳥!
このまま一挙にホラーな感じなんだけどなぁ……でもホラーぢゃないっていうし……ブツブツブツ
このまま一挙にホラーな感じなんだけどなぁ……でもホラーぢゃないっていうし……ブツブツブツ
映画とかでも驚きポイントって予測できるのに…
頭ではわかってるのにビビるんですよね~
大木、まさにそんな感じです(゚Д゚;≡;゚Д゚)
あああ絶対それ大木じゃないから!!とか思いながら読んでたのに やっぱりビビった(笑
忘れた頃にやってくる黒オウムもやってくれますよねww
あ 余談ですが、関東明日夜は雪かもって(笑)
頭ではわかってるのにビビるんですよね~
大木、まさにそんな感じです(゚Д゚;≡;゚Д゚)
あああ絶対それ大木じゃないから!!とか思いながら読んでたのに やっぱりビビった(笑
忘れた頃にやってくる黒オウムもやってくれますよねww
あ 余談ですが、関東明日夜は雪かもって(笑)
>ライムさん
ゾンビのつもりではなかったんですけど、まあ、ゾンビですかね(笑)
てか、もうホラーでもいいですよ! ただ純ホラーじゃないってことで!
もうすぐ新たな展開が見えてくるはずなのでお待ちください(笑)
ゾンビのつもりではなかったんですけど、まあ、ゾンビですかね(笑)
てか、もうホラーでもいいですよ! ただ純ホラーじゃないってことで!
もうすぐ新たな展開が見えてくるはずなのでお待ちください(笑)
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