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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/01/27(水)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐4 (安生 三貴彦)
 目の前に現れたのはイソギンチャクのような形状をした半透明の化け物。
 それは毒々しい紫色をしていた。ボディが透けて、わずかに向こう側が見える。まるでゼリーみたいな体だ。
 イソギンチャクの化け物の体内には、人間とおぼしき物体が収められていた。一見して男だとわかるが、その顔まではよくわからない。
 それもそのはず、男の顔は半分溶けてしまっていたのだ。
 あのうねうねと動く触手で男を捕まえたのだろうか? と詩帆は思った。そしてあのゼリー状の体に吸収されてしまうのか。
 考えるだけで寒気がした。即刻この場を立ち去った方が賢明だ。
「気持ち悪い」
 ふと口から滑り出た言葉だった。紫のイソギンチャクの姿が、溶けかけの男の姿が、この場を包み込む何ともいえぬ臭気が、そのどれもが気持ち悪く、吐き気を催すほどだった。
「キモチワルイ」
 オウム返し。
「キモチワルイ!! キモチワルイ!!――ッテナンダ?」
 忘れていた存在。背後に付きまとう黒いオウム。
 それが詩帆の言葉を反芻するように、叫んだ。
「しっ 静かにして!」
「シズカニシテ――ッテナンダ?」再度オウム返し。「シズカニシテ!! シズカニシテ!!――ッテナンダ?」
 構内に残響する言葉。詩帆の体中から嫌な汗が吹き出た。
 ゆっくりと振り返ると、イソギンチャクの紫色のいやらしい触手が彼女の方を向いていた。
「やばい!!」
 詩帆は全力で走り出した。とりあえず駅から出よう! このままでは自分も殺される!
「ヤバイ!! ヤバイ!!――ッテナンダ?」
 オウムが言葉を繰り返しながら付いてくる。しかし今はそんなことどうでもいい。この場から逃げられれば、他は何でもいいのだ。
「おい、こっちだ!!」
 急に声が聞こえた。駅の出口の先に、誰かが立っている。「早く!! 乗れ!!」
 男は背後に停まっていた車に乗り込んだ。後部座席のドアが開いており、そこを目指して詩帆は全身全霊で駆け抜けた。
 まるで野球のヘッドスライディングのような飛び込みで後部座席に滑り込んだ。
「車を出すぞ!」
 力強くアクセルが踏み込まれ、ランドクルーザーは発進した。街中どこも荒れ果てた悪路だが、それでもパワフルにそれらを乗り越えて、車は直進を続けた。――どうにか助かったようだ。
「大丈夫?」
 運転席から発せられた声は低く、優しかった。
「はい。――もう何がなんだかわからなくて、わたし混乱しちゃって」
「当然だよ。急に街中が悪魔の棲み処になってしまったかのように、化け物どもが現れ、人を襲い、まるでここは地獄だ。誰もが何が起きたかなんてわかっていない。この理解の範疇を超えた状況にパニックしてる。何もわからなくて、当然だよ。俺だって何がなんだかさっぱりわからない」
 落ち着きがあるその声は頼もしく、わずかながら詩帆を安心させた。男は安生 三貴彦と言った。山登りが趣味の、フリーのライターだった。以前は山岳誌の編集部に勤めていたこともあるようだが、数年前にそれを辞め、しばらくは自由気ままに全国を回り、世界を回り、好き好きに山を登っていたらしい。
「これから、どこへ行くんですか?」
「わからない。この異常事態は、どの程度の範囲で起こっているのだろう。この街でだけなのか、国規模なのか、それとも世界中で起こっているのか。TVもラジオも、携帯電話も何もかもが使えなくなっている。どうにかして、もっと情報が欲しいと俺は思ってる。――ちょっと知り合いのところを訪ねてみようかと思うんだけど、君も一緒に行くかい?」
 またひとりになるということなんて、考えたくもなかった。「お邪魔でなければ」
「ただ、アイツが生きていればいいんだけどな」
 その一言は、詩帆の意識を少し現実に戻させた。――そういえばお母さんはどうしているだろう? お父さんはどうしているだろう? 弟は? 友達は? 今この状況で誰もが死んでいる可能性があるのだ。自分の周りだけが生き延びているなんて、楽観的なことは考えていられないほど、今置かれている状況は深刻なのだ。
「あの、家族のことが心配なんですけど……」
「――ん? ああ、そうだろうね。俺の用が済んだら、君の家まで送ってあげるよ」
「ありがとうございます」
「それにしても疲れたろ? 着くまで眠っていたらいい。何かあったら起こすから」
 気が昂っているせいもあり全然眠くはなかったが、確かに疲れてはいた。今まで感じたことがない疲労感。詩帆は少しでも休めればと瞼を下ろした。彼女の予想とは裏腹に、すぐに睡魔は彼女を夢へと誘った。




<作者のことば>
やっと物語はゆっくりと、前へ進みだしたらしい。
ここまでは短篇か、連作か、そのような雰囲気だったが、これは一つの物語だ。

しかし書いている本人はストーリーの先が見えていない!!

書いていて恐ろしい~。

「オソロシイ!! オソロシイ!!――ッテナンダ?」


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COMMENT

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ライム | URL | 2010/01/27(水) 20:46 [EDIT]
「Σ(・□・;)待ってー!!」……とは言えないですね、オウム返しじゃないから。置いていかれた不気味な鳥。
あとをついてくる、悪夢を具象化したみたいな鳥。
この鳥の存在がぐっと怖さを増してて、すごいなあと思いました。
逃れたと思ったら、また出てきたりしそうで怖いです……( ̄◇ ̄;)

匡介 | URL | 2010/01/28(木) 09:40 [EDIT]
>ライムさん
そうですね~、オウム返しじゃないですからね。
でも本当は普通に喋れるのにふざけてるだけなんじゃないかって思えてしまいます(笑)

オウム返し以外、何をするでもない鳥。
まさに悪夢をカタチにしたような不気味さですよね。

このオウム、ライムさんには好評(?)のようでよかったです♪

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