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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/01/23(土)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐2 (浮遊魚)
 柳瀬 隆は朝起きて、信じられぬものを目にした。カーテンを開け、窓の外に目を遣ると、そこには一匹の魚が浮遊していた。
「――な!!」
 もちろんそこに水があるわけではなく、彼の部屋は2階で、目の前の魚は何とも生々しく、まさか偽物だとも、何か仕掛けがあるようにも見えなかった。まるでそこが海の中であるかのように、それは悠々自適に泳いでいたのである。
 彼は恐るおそる、ゆっくりと窓を開けてみた。もしかすると気付けば水中に自分はいた、などという血迷った幻想を本気にしてしまいそうだった。しかし窓硝子が隔てていたものは室内の澱んだ空気と冷たい外気だけだった。新鮮な空気が部屋に入り込むのを柳瀬は頬を撫ぜるわずかな風で感じた。
 一体、何なのだ――?
 内に湧き出る不可解な疑問。それを嘲笑うかのように魚が部屋に入り込んできた。別段人間を恐れるわけでもなく、そこらの石と変わらぬくらいに見ているのかもしれない。
 柳瀬はその魚に触れてみようと思った。逃げられぬよう、ゆっくりと近付いて、その背後に忍び寄った。そっと手を伸ばし、その指先に神経を集中させた。
 ――バクン。
 浮遊する不思議な魚に柳瀬が触れるその直前。目の前の魚は、新たに現れた魚に一呑みされてしまった。最初に見たのは、名前はわからなくとも、漠然と魚をイメージしたときに脳裏に描かれるような、そんな普遍さも伴った形(デザイン)の魚だった。それに対して新たな浮遊魚は、ウツボやアナゴのように細長く、緑色の眼を持ち、攻撃的な牙のある口をしていた。どことなくグロテスクな印象は、柳瀬に深海魚を連想させた。
 ギザギザの牙の隙間から赤いものが漏れ出した。喰われた魚の血だということはすぐにわかったが、その血はふわふわとゆるやかに宙を漂って、水中ではない水中のような空間に柳瀬は順応し始めていた。――この魚たちにとってここは水中も同然なのか。
 しかし目の前の深海魚は自分のことを認識しているのだろうか。そう思ったそのとき、ぼんやりと発光する緑の双眸に、柳瀬は見られた気がした。視線が絡み合う。宙を浮く魚と目が合うなどと何とも奇妙な心地ではあるが、他の魚を一呑みしてしまう姿、その攻撃的なヴィジュアルに、脂汗が滲み出た。
 息を呑み、深海魚の様子を窺っていたのだが、魚は急に部屋を飛び出して、どこかへと行ってしまった。柳瀬は思わず脱力して、その場に座り込んだ。すると突然夜になったかのように部屋が暗くなった。
「……なんだ?」
 窓の外には、巨大な魚が回遊していた。今までの魚は一般的なサイズだったのだが、今度のやつはおそろしく巨大だった。鯨ほどあるかというくらいの巨体。しかしその姿は鯨ではなく、ごく一部しか見えないのだがどことなくマグロに似ていた。
 息を殺して、窓のカーテンを閉めた。もうどうすればいいのかわからない。何もかもが理解を超えていた。街はどうなっているのだろう? 他の人はどうしているのだろう? 柳瀬の思考がぐるぐると巡る。
 ズズ…と床が動いた気がした。驚いてヒッと小さく悲鳴を漏らし、その床をよく見てみると、暗がりの中で眼のようなものが爛と光った。それはカレイかヒラメのような姿をした魚だった。柳瀬にはカレイとヒラメの違いがいまいちわからなかったが。
「うわっ!」
 床を這う薄平な魚が、シャッと牙を見せて飛びついてきた。柳瀬は噛まれた痛みにしゃがみ込むと、右足の親指が失くなっていた。ちょっと噛まれたくらいだと思っていただけに、柳瀬は驚きで言葉を失った。そしてじわじわと恐怖が忍び寄る。
「うわああああああああああああ!!」
 奇声を発しながら柳瀬は走った。ニュッと魚があとを追う。柳瀬は手当たり次第に物を投げるが、するりと避けて魚は追った。柳瀬の頬に涙が伝う。もう助からない――彼はそう確信した。
「あああああああああ――!!」
 ゴルフクラブが入ったバッグにぶつかった。ふと目に入ったアイアンを掴んで、全力で振り下ろした。それが魚の頭部に見事命中して、ぐちゃりと肉が潰れる音が耳に届いた。もう一度アイアンを振り下ろした。ぐちゃり。もう一度。ぐちゃり。もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度……。繰り返し繰り返しアイアンを振り下ろし続けた。気付けば目の前には原型のなくなった、もはやグロテスクな肉の塊が床に落ちているだけだった。




<作者のことば>
やや久々に、文章というものを書いたせいかどうもぎこちない。
少しばかり粗い感じがあるかもしれないが、そこはご愛嬌ということで勘弁して欲しい。

ゆっくり、じっくり書いているといつ終わるかわからないし、これはウォーミングアップのつもりなので。

今回はとにかくグロテスクを書きたい。そう思っている。
もしかしたらそれは今までとは違うグロテスクなんじゃないかなー?とか思ってみたり。

ストーリーも方向性も若干霧の中ですが、しばしお付き合い願います。

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COMMENT

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のらねこ とら太 | URL | 2010/01/24(日) 00:01 [EDIT]
(題名の)地獄に魚(海)が出てくる発想がスゴイなぁ~、と。
地獄っていうと乾燥不毛遅滞か、強いて言えば沼?間違っても深海なイメージはなかったので、意外性がシンセンでした。
続き楽しみにしてマス★

匡介 | URL | 2010/01/24(日) 00:21 [EDIT]
>とら太さん
コメントありがとうございます♪
地獄を再現しているつもりはなくて、あくまで文章にしたいものを言葉に当てはまると「地獄」だったって感じなので、そういう意味では「地獄」のイメージにとらわれず、自由に書かせてもらってます。
実は生物全般に深い興味を持っているのですが、中でも深海魚って凄い面白いと思っていて、あのグロテスクなフォルムが今回描きたいもののイメージと直結した感じでしょうか。

今後も良い意味で裏切っていけたらいいのですが、意外性を狙っていたわけではなかったので、意外性重視の期待はプレッシャーです(笑)

最後まで楽しんで頂けるよう出来る限りを出そうと思うので、どうかお付き合いくださいませ~。よろしくお願いします!

ポール・ブリッツ | URL | 2010/01/24(日) 16:30 [EDIT]
柳瀬は実はクスリでもやっていたのかなあ、と思いました。

バロウズの「裸のランチ」みたいに。

まさにバッドトリップ……。

ライム | URL | 2010/01/24(日) 17:24 [EDIT]
魚の動きとか表情とか空気感とか……。
明示的に書いてないのに目に浮かぶ。
目と書いたけど、視覚だけでなく、感覚全般に訴えてくる文章なんですよね~~~。
六感と、不気味とか恐怖とかいう感情。
それと間の取り方が絶妙だと思います。
う~む。
だからこのブログ、こっそり覗いてたのに、つい出てきてコメしちゃったんですよね(笑)!
後半にも激しく期待。

匡介 | URL | 2010/01/24(日) 20:42 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
残念ながら「裸のランチ」の内容を知らないのですが、幻覚っぽいイメージを与える文章だったようで、他の方からも似た意見を頂きました。
自分としてはそんなこと毛頭も考えていなかったので、逆に新鮮で、また違った角度から作品を見直す良い機会なので、今後も感想を頂けると嬉しいです。

匡介 | URL | 2010/01/24(日) 20:57 [EDIT]
>ライムさん
言いたいことが凄く伝わります!
そして伝わって思ったのが、それすげえ理想的な文章じゃん!…みたいな(笑)

いや、すっごく嬉しいですe-420

コメントを拝読して気付いたんですけど、自分って間の取り方を結構意識しているんじゃないかと思います。文章のリズムって凄く重要ですよね~!
そういう意味では少しでもその技術を自分なりに掴み始めているのかも? だったら嬉しいですね♪

しかし、基本的に読んでいて嬉しくなるようなコメントなのに、最後に凄いへヴィな爆弾、プレッシャーという核爆弾を投下された気がするんですが!!(笑)
が、、頑張ります!!

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