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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/01/21(木)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐1 (異変)

 それは何の前触れもなく、しかし予定されていたかのように当然のように、突如訪れた。






 ***


 その日、石平 好盛は自室でTVを観ていた。特に観たかった番組ではなく、しかし何をするわけでもないので、何となく点けたTVでやっていた番組を眺めるようにして時間を過ごしていた。聞き飽きた、よくいえば聞き馴染みのある流行りの音楽が、TVのスピーカーからBGMとして流れた。
 石平は不意に違和を感じた。
 なんだろう――? ふと微震に感じたときのような、小さな違和感。いつも通っている道の、いつもと違う何か。たとえば無くなった街路樹、たとえば、無くなった店、あるいはその看板。自分に直接は関係ないような、小さな変化。
 TVのディスプレイが乱れた。
 故障――ではなく、悪天候による小さな電波の乱れだろう。ゴウゴウと、気付けば強い風の音が聞こえていた。朝起きたときには晴天だったはずなのだが。
 ザアザア、小さな乱れが砂嵐に変わった。ザアザア。今、ディスプレイには何も映し出されていない。灰色の砂嵐だけ。ザアザア。
「――なんだ?」
 やはり故障なのか?――そう思うのと同時に、激しい発光。閃光。大気を震動させるほどの轟音が鳴り響いた。それが雷鳴だと気付くには、1秒ほど要した。ビリビリと空気の震えが肌を刺激した。
 砂嵐から復帰しようとTVが、原型を保てていない映像を見せつけてきた。乱雑な映像。歪んだ音楽がスピーカーから吐き出される。紛れるノイズ。ザザ、ザザ。
 大粒の雨が勢いよく窓硝子にぶつかった。それを皮切りに大量の雨粒が窓硝子を叩き始めた。あまりの勢いに、その音に、硝子が割れるんじゃないかと石平は本気で心配した。窓を打つ、音。ダダダダダ――。
 ザザ、ザザ――、――ザザザ――、ダレ――カ、ザザ、オオオオイ、――ザザ、ザザ――。
 ノイズに乱れるスピーカーから、人の声のようなものが聞こえた気がした。
 オオオオオオイ。
 ――誰か呼んでいるのか?
 おおおおおおおいい。
 妙に間延びした声。それは徐々に明確に、明瞭に、クリアなヴォイスとなってスピーカーから発せられた。ザザ、わずかにノイズ。それでもノイズは収まり始めて、声だけがクリアになっていく。おおおおおおおいい。
 ぐにゃり。ディスプレイがぐにゃりと歪んだ。画面の奥の映像ではなく、ディスプレイそのものがという印象だった。
 ぐおおおおおおおおおううう。
 不明瞭な、くぐもった呻き。唸り。わずかな恐怖。
 気味が悪くなって、思わず立ち上がり、後ずさる。一転、一瞬、浮遊感。石平は滑って倒れた。――しかし何に滑って?
 ぬるり、とした触感が指先に、確かにあった。石平は恐るおそる、手元に目を遣る。透明の、ジェル状の物体。スライムのような、不思議な弾力を具え、しかし液体のようにするりと手から滑り落ちた。
 嫌な臭いが鼻腔を刺激した。吐き気を催すような悪臭。陳腐ながら、そんな表現はぴったりな臭いだった。臭気は次第に拡大して、すぐに部屋を満たした。石平はむせ返る悪臭に耐え切れず、具合が悪くなってよろけた。壁に手をつく。痛。痛痛痛痛痛。手の平が焼けるように痛い。うああああああああああああああ!!!!
 叫び、呻き、急に自覚した痛みを全て吐き出すように声を出した。自ら手を見るとそこはただれているかのように、肉がジュクジュクとしていて、まるで腐ってしまっているかのように、その感触は柔らかく、脆かった。
 ボトリ。肉片が滑り落ちた。もはや痛覚すらない。先程までの激痛が嘘のように消えていて、それが何とも不気味だった。感覚が損なわれている。手を動かしても、何の感覚も得られなかった。恐ろしくなって、石平は涙を流した。大声で泣き出した。彼は恐ろしくて恐ろしくて仕方がなかった。――これからどうなってしまうのだろう?


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ポール・ブリッツ | URL | 2010/01/22(金) 17:15 [EDIT]
昔のホラー映画「ヴィデオドローム」を思い出しました。

つかみは完璧ですね。

これからどういうふうに話を持っていくのか楽しみにしてます(^^)

匡介 | URL | 2010/01/22(金) 17:42 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
その映画は知らなかったので今度機会があったらチェックしておこうと思います!

…で、「完璧」とか言われて物凄くプレッシャーを感じるんですが、実はほとんど何も考えずに書いていて、ちょっとした暇潰し感覚なんです(汗)
本当にアバウトなイメージしかないのですが、出来るだけ期待に添えるように頑張り…たい…です……。

ライム | URL | 2010/01/22(金) 23:04 [EDIT]
何これこわい(;゜0゜)
やっぱり、こういうフィールドでは、一段と筆が冴えますね!!
あとを読むのが恐ろしいような……。

匡介 | URL | 2010/01/23(土) 01:02 [EDIT]
>ライムさん
あ、一応ホラーのつもりで書いたわけではないんです!
結果としてホラージャンルとして充分当てはまってるような気もしますが(笑)

今までとはまた違った怖さだと思うので(?)、そういう意味ではお楽しみに!

…って自分でハードル上げてしまった!!(滝汗)

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