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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
~クリスマスの風景~
 本棚に手を伸ばして、一冊の本を引き抜いた。お気に入りの作家の新刊だった。
「新しいの出てたんだー。最近本屋に寄ってなかったからなぁ」
 ぱらぱらとページをめくってみた。どうやらクリスマスをテーマにした短篇集のようだった。今日は25日。クリスマスの気分に浸るには、やや遅い気もした。
「クリスマス、か」
 特別な何かがあったわけでもない。クリスマスらしいことなんて何もしなかった。しいて挙げるなら生意気な弟にプレゼントをせびられたくらいか。高岡舞子はハアと溜め息を吐いた。
「最後に少しくらいクリスマス気分になってもいいか」
 舞子は手に取った文庫本を持ってレジへと向かった。


 外は息が白く染まるような寒さだった。どこかでお茶でもしていこうか。そう思ったが、周りはクリスマスらしくカップルばかりが歩いていて、やはりやめておくことにした。きっとどこのカフェのカップルだらけなのだろう。その中に女ひとりなんて気が滅入る。
 そうなれば早く帰るに越したことはないと思い、足早に歩き出した。そのとき舞子の名前がどこからか呼ばれた。
 寒さでうつむき気味だった顔を上げると、そこには見慣れた顔。自分が勤める学校の生徒である高谷京介だった。
「京介君」
「先生、こんにちは」
2人はそれなりに親しい仲だが、舞子が学校の外で彼と会うのは初めてだった。「こんなところで会うなんて、奇遇ね」
「そうですね。先生はこれからどこかに?」
「ううん、もう帰るところ。京介君は?」
「コーヒー豆が無くなってしまったので、買いに」
 コーヒー好きの京介らしいな、と舞子はつい微笑んでしまった。
「今日は寒いですね」
「そうだね」
「もう用が済んでいるのでしたら少し暖まっていきませんか? 近くに良いカフェを知っているんですけど」
「それはデートのお誘い?」
「そうかもしれませんね」
 京介が冗談っぽく笑った。
「じゃあ、行きましょうか」
 舞子は京介の腕を掴んだ。まるで周りと同じカップルのように。
 京介は仕方ないな、といった顔で舞子の好きにさせた。そしていつものカフェへと歩き出した。


***


 進藤順平は本屋に通うのが日課だ。本好きが高じて、本屋にいるだけで楽しいと感じる。目的を持たずに本棚を眺め、たまに面白そうなものがあったら手に取ったりして本屋での時間を過ごす。それは今日も同じだった。
 本棚にある本のタイトルを順に目で追っている途中、ふとレジカウンターの方へ目を向けるとそこには見慣れた姿があった。「――舞子先生?」
 順平の通っている高校の保健室医だった。順平は保健室で本を読むことも多いので、舞子とは仲が良かった。声をかけるため彼女に近付こうと体の向きを切り替えたそのとき、
「あれ? 順平君?」
 と自分が声をかけられた。
 振り返ると順平のすぐ隣には同じ高校に通う一年先輩の高田美香が立っていた。
「ああ、美香先輩か」
「何よ、その言い方は。あたしじゃ不満なのかしら?」
「まあ、少しは。とびっきりの美女じゃなくて残念だったかな」
「相変わらず可愛くない子ね」
「先輩は、少しは可愛いよ」
 順平の言葉に、美香は彼の額を指ピンと弾いた。
 額をさすりながら順平はレジを見たが、もう舞子の姿はない。
「ねえ、順平君のオススメの本ってない? なにか読みたいんだけど、普段はそんな読まないからどれ読もうか決まらなくて」
 しばらく考え込んで、順平は一冊の本を取り出した。
 面白い本はたくさんあるが、その中でも読みやすいと思われる本を選んだ。普段あまり本を読まない人間と毎日のように読書にふける人間では同じ作品を読んでも、面白さが違う。本を読み慣れていない人間は、面白くなる前に読み疲れてしまうことがあるからだ。
「じゃあ、これ買おっと」
「え……そんな簡単に決めて……」
「だってオススメなんでしょ?」
「まあ」
「だったらこれでいいよ」
 順平は少しハラハラしながらレジに向かう美香を見送った。
 もし面白くなかったらなんて言われるだろうか。一応面白い自信はあるのだが、それも個人の感覚でしかない。
 すぐにレジ袋を携えた美香が戻ってきた。
「コーヒーでも飲みながら本を読みたいなぁ。どっか近くにいいところ知らない?」
「だったら近くに京介に教えてもらったカフェがあるけど」
「じゃあ、そこ行こう」
「俺も?」
「いいじゃない。どうせ道案内は必要だし」
「まあ、いいけどね」
 美香に引っ張られて店を出た。外は寒く、確かに熱めのコーヒーの一杯でも飲みたくなる。
 順平は美香に急かされながら、寒空の下を歩いた。


 ***


 バスに乗るのは久し振りだった。
 いつもはバイクで移動している智明だったが、昨日から愛車の調子が悪い。仕方ないので整備に出していた。クリスマスなんて自分には関係ないが、それにしたってツイてないなと思う。特別なことなど期待しないが、せめて普通に過ごしたかった。まさかクリスマスに自分からバイクを取られるとは。
 周りを見ると車内はカップルで溢れていた。決して嫉妬ではないが、そんな中に自分がいると思うと気分が滅入る。カップルは好きなだけイチャつけばいいと思う。しかし自分の見えないところでやって欲しい。見ていて鬱陶しかった。
 バスが停車した。女の子が乗車してきた。


 今日はクリスマス。いやにカップルが目につく。
 美奈はそれを見て羨ましいと思った。好きだった先輩と楽しくクリスマスを過ごせていたら、と思った。美奈は以前好きだった先輩に告白をした。仲が良くて、一緒にいて楽しい先輩だった。きっと先輩も自分のことを好く思ってくれているに違いない、そう思って告白をした。しかし先輩は自分のことを「後輩としか見れない」らしい。
 そのときのことを思い出すと今でも泣きそうになる。――ああ、仲良く手を繋いで、羨ましいな。
 そう思いながら美奈はバスに乗り込んだ。
 すると見覚えのある顔。
「あ、猫舌の人」


 智明は困惑していた。バスに乗り込んできた女の子と目が合うや否や「あ、猫舌の人」と言われた。確かにそれは事実だが、誰だったろうか?
「あのときは、どうも」
 美奈は智明の隣の席に腰を降ろした。
「……え? 誰だっけ?」
 ストレートな疑問。普通、それを言うかな、と美奈は苦笑しながら説明をする。
「前に、缶コーヒーをおごってもらった」
「コーヒー?」しばし智明は記憶を探り、そしてやっとの思いで思い出した。「ああ、あのときの」
 美奈は思い出してもらえたことが嬉しくて智明に寄った。
「少し近いって」
 少し照れたように智明が言う。
「また、話を聞いてもらえますか?」
 どうしてか、自分はこの人に心を許していると美奈は思った。
 どこか優しい空気を漂わせている。もしかして、好きってこういうことなのだろうか?
 自分は全然この人のことを知らないけれど、このバスに揺られている間で、いくらか仲良くなれると嬉しい。そう思いながら、美奈は智明に話かけた。


 ***


 コーヒーの香りを愉しみながら、遠藤葉月はカップに口をつけた。
 冬の冷気で冷えた体がゆっくりと温まっていくのを感じた。「相変わらず美味しいですね」
 遠藤葉月の言葉に、カフェのマスターはにっこりと微笑む。
「ゆっくりしていってください。きっとそのうち京介君も顔を見せてくれるでしょう」
「本当によく来ているんですね」
「ええ。お得意様です」
 葉月は笑って、もう一度カップに口をつけた。ふと窓の外を見遣る。
 ――おや?
 彼がカップを置くと同時に店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」



<作者のことば>
予告通り、大量加筆。ついでにタイトルも変更。
もう半ば投げやり、とにかく早く書いてしまいたくて半ば品質無視。

おお、なんということだろう!!

…ってことでごめんなさい。
もっとしっかり書くべきなのだろうけど、時間はないやら集中力はないやら。

久々に忙しく(?)、疲労困憊です。
軽く顔色が悪い、というか変色してしまっているくらいです。

ははははは。


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