クリスマスの奇跡
路肩に積もった雪を眺めながら車を停めた。
助手席に置いていた包装されたプレゼントを持ってマイクは車を降りる。玄関のインターフォンを押し、少し待つとドアが開いた。「メリークリスマス」
出迎えてくれたアナはにっこりと微笑み、慣れた手つきで車椅子を器用に反転させた。
「どうぞ入って」
彼女は半年ほど前に遭った大事故以来、車椅子で生活をしている。呑み込みが早いのか、今では車椅子の扱いも手馴れたものだ。しかし彼女はその脚とは別に、大きな後遺症を残していた。
彼女は事故以前の記憶が曖昧になってしまっていたのだ。
憶えていることもあれば、全くわからないこともあった。しかし徐々に思い出してきていることもあって、マイクは以前ほど心配をしていない。今では希望すら持っている。
「昨日は凄い雪だったわね」
「本当に。でもアナが望んでいた通り、ホワイトクリスマスになったね」
「ええ、嬉しいわ。やっぱりクリスマスは雪がないと♪」
暖冬だと言われていた今冬だが、数日前から急に寒くなり、ついには雪が積もるほどまで降った。単なる偶然かもしれないが、マイクはあることに気づいていた。事故以後のアナの願いや思いつきがことごこく現実のものになっていたのだ。
たとえば「喉が渇いた。何か飲みたいわ」と彼女が言うと、ある店の新作ジュースの試飲で出会う。あるいは流れ星を見たというマイクの話を聞いて「わたしも見たい!」と言った直後に流れ星が空を奔ったり、久しく会っていない友人の話をしていて「ああ、今どうしているのかしら? たまには会いたいわね」と彼女が言うや否や家のインターフォンが鳴り、玄関に出てみると例の友人が「近くに来たから」とそこに立っている等、偶然にしてはそのようなことが続き過ぎていた。
「ディナーの準備は出来てるから席に着いて」
「オーケィ。楽しみだな」
豪勢な手料理が並ぶテーブルを前に、マイクは席に着いた。
窓から外を見てみると、雪が降ってきていた。一体どれだけ積もる気なのだろう、とマイクは思ったが、すぐに目の前の食事に集中した。
「今日は素敵な日ね」
観ていた映画が終わり、TV画面には長いクレジットが流れていた。
「そうだね、僕も楽しいよ」
マイクが時計を見遣ると、時刻は23時58分。もうすぐクリスマスを迎える。
「あら、もうこんな時間? クリスマスになっちゃうわね」
アナも同じことを考えていたようだ。マイクが彼女の頭を優しく撫でた。
「クリスマスって復活祭なんでしょ? もうすぐ復活するのかしら?」
「え? それはイースターだよ。クリスマスはイエス・キリストの誕生祭だよ?」
「あら、そうなの? わたし勘違いしてたみたい。今日って人が生き返る日なのかと思ったわ」
「違うよ」
マイクは笑いながら否定したが、このとき嫌な予感が過ぎった。しかし何のことはない、と頭を振り払う。
「あ、25日になった!」
時計の針は互いに12の数字を指していた。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス♪」
マイクはTVのチャンネルを変えるとニュースがやっていた。最初は微笑ましいクリスマスの街の様子を中継しているのかと思ったが、どうやら雰囲気が違う。
『――です。繰り返します! 死人が街を襲っています! 信じられません! 墓地から死体が這い出てきて、街の人々を襲っています! これは聖なる夜に由々しき事態です! どういった原因なのかわかりませんが、死人が墓地から蘇り、街を襲っています! まるでゾンビです! わたしもこの目を疑ってしまいますが、これは真実です! 報告によれば世界の各地で同様の異常事態が起こっているようです! ――うわああああ!!』
TV画面の向こうでは、見るからに死体といった風体の人間たちが街の人々を襲っていた。それはまさに地獄絵図。マイクは言葉を失った。
ガシャン。窓ガラスの割れる音がした。血の気がサッと引く。マイクはアナの手をぎゅっと握り締めた。
「ア゛ーーヴーー」
背後から呻くような低い声が聞こえてきた。
助手席に置いていた包装されたプレゼントを持ってマイクは車を降りる。玄関のインターフォンを押し、少し待つとドアが開いた。「メリークリスマス」
出迎えてくれたアナはにっこりと微笑み、慣れた手つきで車椅子を器用に反転させた。
「どうぞ入って」
彼女は半年ほど前に遭った大事故以来、車椅子で生活をしている。呑み込みが早いのか、今では車椅子の扱いも手馴れたものだ。しかし彼女はその脚とは別に、大きな後遺症を残していた。
彼女は事故以前の記憶が曖昧になってしまっていたのだ。
憶えていることもあれば、全くわからないこともあった。しかし徐々に思い出してきていることもあって、マイクは以前ほど心配をしていない。今では希望すら持っている。
「昨日は凄い雪だったわね」
「本当に。でもアナが望んでいた通り、ホワイトクリスマスになったね」
「ええ、嬉しいわ。やっぱりクリスマスは雪がないと♪」
暖冬だと言われていた今冬だが、数日前から急に寒くなり、ついには雪が積もるほどまで降った。単なる偶然かもしれないが、マイクはあることに気づいていた。事故以後のアナの願いや思いつきがことごこく現実のものになっていたのだ。
たとえば「喉が渇いた。何か飲みたいわ」と彼女が言うと、ある店の新作ジュースの試飲で出会う。あるいは流れ星を見たというマイクの話を聞いて「わたしも見たい!」と言った直後に流れ星が空を奔ったり、久しく会っていない友人の話をしていて「ああ、今どうしているのかしら? たまには会いたいわね」と彼女が言うや否や家のインターフォンが鳴り、玄関に出てみると例の友人が「近くに来たから」とそこに立っている等、偶然にしてはそのようなことが続き過ぎていた。
「ディナーの準備は出来てるから席に着いて」
「オーケィ。楽しみだな」
豪勢な手料理が並ぶテーブルを前に、マイクは席に着いた。
窓から外を見てみると、雪が降ってきていた。一体どれだけ積もる気なのだろう、とマイクは思ったが、すぐに目の前の食事に集中した。
「今日は素敵な日ね」
観ていた映画が終わり、TV画面には長いクレジットが流れていた。
「そうだね、僕も楽しいよ」
マイクが時計を見遣ると、時刻は23時58分。もうすぐクリスマスを迎える。
「あら、もうこんな時間? クリスマスになっちゃうわね」
アナも同じことを考えていたようだ。マイクが彼女の頭を優しく撫でた。
「クリスマスって復活祭なんでしょ? もうすぐ復活するのかしら?」
「え? それはイースターだよ。クリスマスはイエス・キリストの誕生祭だよ?」
「あら、そうなの? わたし勘違いしてたみたい。今日って人が生き返る日なのかと思ったわ」
「違うよ」
マイクは笑いながら否定したが、このとき嫌な予感が過ぎった。しかし何のことはない、と頭を振り払う。
「あ、25日になった!」
時計の針は互いに12の数字を指していた。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス♪」
マイクはTVのチャンネルを変えるとニュースがやっていた。最初は微笑ましいクリスマスの街の様子を中継しているのかと思ったが、どうやら雰囲気が違う。
『――です。繰り返します! 死人が街を襲っています! 信じられません! 墓地から死体が這い出てきて、街の人々を襲っています! これは聖なる夜に由々しき事態です! どういった原因なのかわかりませんが、死人が墓地から蘇り、街を襲っています! まるでゾンビです! わたしもこの目を疑ってしまいますが、これは真実です! 報告によれば世界の各地で同様の異常事態が起こっているようです! ――うわああああ!!』
TV画面の向こうでは、見るからに死体といった風体の人間たちが街の人々を襲っていた。それはまさに地獄絵図。マイクは言葉を失った。
ガシャン。窓ガラスの割れる音がした。血の気がサッと引く。マイクはアナの手をぎゅっと握り締めた。
「ア゛ーーヴーー」
背後から呻くような低い声が聞こえてきた。
COMMENT
……と、思っていたら
何ですか、このゾンビ感は(^_^;)
やられました
さんきゅーです
ではでは
ベリーメリーなクリスマスを(^-^)/!!
何ですか、このゾンビ感は(^_^;)
やられました
さんきゅーです
ではでは
ベリーメリーなクリスマスを(^-^)/!!
三流自作小説劇場のヒロハルと申します。
何度か足を運んでいただいているようで、ありがとうございます。
いや~、久しぶりに素晴らしい作品を書かれている方のブログに辿り着きました。
最近、アップされているものをいくつか読ませてもらいましたけど、
「日常の些細なところのちょっとした変化」を描かれているところが好きです。
このクリスマスの奇跡は「ちょっとした変化」ではないですが・・・・・・。笑。
ちなみにアナって、「ドーン・オブ・ザ・デッド」からですか?
また寄らせていただきます。
何度か足を運んでいただいているようで、ありがとうございます。
いや~、久しぶりに素晴らしい作品を書かれている方のブログに辿り着きました。
最近、アップされているものをいくつか読ませてもらいましたけど、
「日常の些細なところのちょっとした変化」を描かれているところが好きです。
このクリスマスの奇跡は「ちょっとした変化」ではないですが・・・・・・。笑。
ちなみにアナって、「ドーン・オブ・ザ・デッド」からですか?
また寄らせていただきます。
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