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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/12/18(金)   CATEGORY: 短篇小説
ナターレ・ナターレ
 呼吸をすると息が白かった。いつもと変わらず、どんよりとした錆色の空。空気は刺さるように冷たい。ナユタが知っている限り、これほどまで寒い日は初めてだった。
 仕留めたブタガエルを2匹携えて、ナユタは瓦礫の山を軽い身のこなしで飛び越えて自分の住処に戻った。瓦礫が重なり合って、小さな洞窟のように見える住処。中を覗くと、誰の姿もない。
「あれ? 上かな?」
 薪をいくつか手にして、ナユタはさらに瓦礫の山を登った。そうして登ったところに、少し拓けた広場のような場所がある。そこに2つに束ねた金髪をなびかせた少女がいた。見たところ、大体10歳ほどだろうか。
「セージ、寒くない?」
 ナユタは少女のそばに寄り、薪を置いた。
「うん。寒くない」
「そっか。でもお腹は空いてるでしょ?」
「セージはいつもお腹が空いている」
「だよね」
 ナユタは苦笑しながらも、夕食の準備をした。
 薪を効率よく燃えるよう重ね、ポケットからグシャグシャに丸まった紙を出した。それを薪の間に詰め、マッチに火をつける。それを薪の間に放り込むと勢いよく紙が燃え出した。
「何か獲れたか?」
「うん、これ」ナユタは獲ってきたブタガエルを両手にぶら提げて掲げて見せた。「セージ、好きでしょ?」
「おお、ブタガエル! ……でもたった2匹だけ?」
「これ1匹食べるだけで結構お腹いっぱいになるよ」
「それはナユタだけ。セージは1匹じゃお腹いっぱいにならないもん」
「じゃあ、僕の分を少し分けてあげるから……」
「仕方ない。それで我慢するか」
 焚き火がいい感じに燃え始めていた。それを見て、ナユタは薪と一緒に持ってきていた鉄製の串を2本取り出し、それに仕留めたブタガエルを突き刺した。
「ナユタ、クリスマスって知ってるか? 今日はクリスマスなんだぞ!」
「クリスマス?」
「うん、クリスマス」
「クリスマスってなに?」
「祭りらしい」
「お祭り?」
「うん。クリスマスは恋人や家族と楽しく過ごす日で、それはお祭り騒ぎなのだと本に書いてあった」
 セージはナユタより2つほど年下だが、物知りだった。本を読むことが好きで、2人の住処には本が山のように積まれている。今の世では本は希少なものではあるが、ほとんどの者にとって貴重ではない。文字を読める者が少なくなっているし、そこで得られる知識のほとんどには意味がない。その大半は焚き火に使われてしまう。
 ナユタも紙が足りないときにはセージの本から千切って使っていた。それをセージは悲しげな目で見るのだが、そうでもしないと2人は肉を焼くこともできないし、今日のように寒い日に暖をとることもできない。それを理解しているからこそ、セージは黙って、しかし悲しげな目でナユタが本のページを千切り取るのを見ているのだった。
「それでクリスマスには何をするの?」
「わからない」
「わからない?」
「うん。なにやらクリスマスツリーというのを飾ってみたり、ケーキというものを食べてみたりするらしい」
「クリスマスツリー? ケーキ? なんだろうね、それ」
「セージはケーキとやらを食べてみたい」
「どんな味なのかな?」
「甘いらしい」
「へえ」
 ナユタはブタガエルの肉が万遍なく火に当たるように、串の向きを変えた。
 食欲をそそる、香ばしい匂いが漂ってきた。ブタガエルはブタ肉のような味がすると聞いたことがあったが、ナユタはブタ肉の味を知らない。それに他のカエルはトリ肉のような味だとも聞いたことがあった。ナユタは他のカエルも食べたことがあったが、やはりトリ肉の味は知らなかった。ただブタガエルは他のカエルに比べ、断然に大きいので好きだった。満腹になれる。特にセージはよく食べるので、ブタガエルの獲れた日には自然と足が軽くなるのだった。
「おおい、ちょっと助けてくれー」
 下の方から声がした。ナユタは覗き込むと、瓦礫の山を必死になって登っている老人が見えた。ヨハンだ。
 ナユタは少し降りてヨハンの手を引っ張った。ヨハンは息を切らしながらもどうにか上に登ることができた。
「ふう。老体にはここまで登るのは堪えるなぁ」
「大丈夫ですか?」
「おう、一応な。今日は食い物が多く手に入ったから少し分けに来てやったぞ」
 セージの耳がピクピクと動き、素早い動きでヨハンに飛びついた。「おお、ヨハン!」
「こら、セージ! そんな飛びついたらヨハンさんが――」
「ぬおおおお……」
 バランスを崩したヨハンは後方に倒れそうになった。
 それを見て、ナユタが慌ててセージを引き剥がす。同時にヨハンの体を支えた。
「すまん、ナユタ。――そうだ、今日は酒もあるぞ?」
「おお! 酒か!」セージがテンションを上げる。
「セージはお酒飲めないでしょ。いっつも飲もうとして吐き出すんだから」
「酒は大人の飲み物だからなぁ」
「セージも大人だから酒くらい飲めるぞ!」
 ムキになって反論するセージを見て、ナユタはやれやれとなだめた。
 それを見て微笑みつつヨハンは持ってきた食材を出して、焚き火の前に座った。そしてブタガエルの串の向きを少しだけ変えた。
「――ん?」
 セージが急に何かに気付いたように空を見上げた。
「どうしたの?」
 セージの指が天空をさした。「ん。何か降ってきた」
「え?」
 ナユタも空を見上げ、天空から降り注ぐ小さく白いものに目を遣った。
「――灰?」
 灰が降ることは年に何度かあることだが、しかし降ってきた“それ”は触ると冷たく、そしてすぐに溶けてなくなってしまった。
「ナユタ! これ冷たいぞ!」
 ボオオーン、と低い、うなり声のような音が響き渡った。大気が振動するのをナユタもセージも感じた。「今のはなんだろう?」
「ナユタ!! あれ!!」
 セージはある方向を指差した。ナユタがその先を見遣る。そこに巨大な、魚のような何かが空を飛んでいた。どうやって空に浮いているのだろう? とナユタは思った。
「おお、これは珍しい。雪鯨じゃないか」
「セツゲイ…?」
「ナユタは初めて見るのか? まぁ、そうかもしれないのぉ。雪鯨なんて本当に久々だからな」
「ヨハン、セツゲイってなんだ!?」
 セージがヨハンを急かした。
「雪鯨っていうのはな、ユキフラセクジラって名前の空飛ぶクジラだよ」
「ヨハン、クジラってなんだ!?」
「クジラかー。まあ、でっけえ魚だな」
「おおー。食べるとウマイか?」
「さあ、どうかな?」ヨハンは頬を撫でた。「雪鯨の背中にはな、孔(あな)が開いていて、そこから雪を吹いて空に降らすのよ」
「雪!! これが雪なのか!!」
 セージはテンションを上げて走りまわった。「これが雪か!!」
 ナユタは雪を知らなかった。そういえばセージが以前にそのようなものを話していた気もするが、これが雪なのか。白くて、冷たい。
「今年は寒いからなぁ。雪鯨は寒くないと現れないんだ」
「ナユタ!! 知っているか? 雪が降るとホワイト・クリスマスっていうんだぞ!!」
 セージは楽しそうに大声で言った。それを聞いてヨハンは「そうか、今日はクリスマスか」と呟いた。
「クリスマスは家族と一緒に食事をする日でもあるらしいからな、こうやってみんな一緒に食べられて嬉しいぞ」
「そうだね、じゃあ食べようか」
 セージは飛びつくようにカエル肉を食らった。ヨハンは酒を取り出して、ナユタに勧める。
 ボオオーン、とユキフラセクジラの鳴き声が響く。雪がゆっくりと降り注いだ。



<作者のことば>
先日、「クリスマスの話は書かないのですか?」とのコメントがあって、数日間考えてみた。
正直、イベント系の季節モノは苦手。いつも書きたいものが先で、書こうという意識を持ってストーリーを考えたことがないから。でも、まぁ、たまにはいいか――ってことで考えていた。

でも、すぐ挫折。

しかし不思議なことに諦めて少ししてから今回の物語が浮かんできた。
クリスマスって聞いてつい恋愛とかそういうものを考えていたけれど、ここはあえてファンタジーの方が面白いなって。やや長くなってしまったけれど、今日起きてから書いてみました。

これはもう少し話を膨らませていけそうだなぁ。


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COMMENT

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ライム | URL | 2009/12/19(土) 02:56 [EDIT]
世界が滅びたあとの世界、ですね
これ、クリスマスらしい不思議なハッピー感が漂っていて
なんか好きです←またアバウトな表現になっててすみません

前コメで洋物のゴシックな名前と書いたのは
ゴシックといってもバロックといってもいいですが←
グリエルモ・カザグランダとかコンスタンツォ・アウテーリ=マンゾッキとか
そういう名前のことをイメージしていました

匡介 | URL | 2009/12/19(土) 09:27 [EDIT]
>ライムさん
ありがとうございます♪
まさにそんなイメージですよ! 「なんか」感もわかります(笑)

ライムさんの言うゴシックでバロックな(笑)名前のイメージが何となくわかりました。
そうですね~、結構そういう名前使いますね。でもそれは世界観や雰囲気に合わせてって部分も強いです。硬さを出したいときとかは、そういう感じになっちゃいます。
あと現実世界にファンタジーを持ってくるのか、全くの異世界を空想するのかによっても違いますかね? 今回は「世界が滅びたあとの世界」と言われた通り、荒廃した未来感を出しつつ、でも異世界感も出してみました。その曖昧な雰囲気がゆるめのハッピー感に合うと思ったので。なので名前も(ただテキトーなだけかもしれませんが(笑))、それに合わせたカタチです。

ポール・ブリッツ | URL | 2009/12/19(土) 21:16 [EDIT]
惜しいというかなんというか……。

この手のファンタジーでクリスマスネタをやる場合には、「なぜキリスト教のない世界でクリスマスがあるのか」についての説明をしっかりしておかないといけないし、その理由についてある種の「驚き」がないと読み手もすっきりしないと思います。
この作品では、なぜキリスト教自体よりも「クリスマスの記載がある本」のほうが生き延びているのかがちょっと納得できないかな、と。
キリスト教さえ忘れられてひさしい文明崩壊後の世界で気軽にマッチが使えるのも首をひねりますし。

うーむ。

話と雰囲気自体はいいのに惜しい。

匡介 | URL | 2009/12/19(土) 22:54 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
おそらく、この「世界」にどうして「キリスト教」があるのかどうか、という点について気になる人はいるんじゃないかなーとは思いました。
でも、今回のテーマは「クリスマス」なので、「クリスマス」ありきの話には絶対になるし、その理由は今回の作品にとって重点を置くべきところではないと判断したのでそのような部分は書きませんでした。

正直なところ、書いていない部分はいつも想像で補って欲しいと思っています。

自分は、全部を書かないことが短篇のひとつの良さであり、多少の矛盾点あっても存在出来るのがフィクションだと思っているんですよね。
ここがどういう世界なのか、それを語っているのはほんの少しの言葉だけです。それは「世界」の存在がこの物語にとって実は些細なことであるということ、そしてここから色々な想像を巡らせて欲しいという想いがあるんです。

でも、その想像を行き詰らせてしまったのであれば、自分がまだまだ未熟だってことですね(汗)
そこは今回のアドバイスを参考に、今後に活かさせてもらおうと思います!

ただ自分は「文明崩壊後の世界」とは一言も書いていませんし、もしかしたらこの世界のどこか別の場所では今もまだ文明が生きているかもしれません。どこかではクリスマスはちゃんと存在していてるのかもしれません。自分勝手ではありますが、俺はそういう風に読んでもらいたいと思って書きました。

そもそもこの世界のクリスマスはキリスト教じゃないかもしれませんし(笑)

「惜しい」って言葉はグサリと刺さりましたが(苦笑)、そこまで考えて読んで頂いているんだなぁ、と嬉しくもありました。ありがとうございます。
アドバイスを鵜呑みにするのではダメだと思い、自分の意見も書かせて頂きましたが、決して反論ではないので!(笑) 機嫌を損ねさせてしまっていないといいのですが。←実は、こうして自分の意見を書くのはとても怖いです(叫)

今後もまた、作品を読んで感じたこと思ったことを教えてもらえると嬉しいです。

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