「ママ(下)」
朝、さっちゃんを送り出してからわたしは食卓の椅子に腰をおろした。今晩は何を食べようか、さっちゃんに久し振りにまともなものを食べさせてあげたいと思う。
とりあえず買い物に行かなくてはならないと思い、わたしはその支度を始めた。そうすると、ピンポーンのインターフォンが鳴り、わたしは誰だろう?と思いながらそれに応じた。「はい?」
「あ、おはようございます。隣の榊原ですけど」
どうやら隣に住んでいる榊原さんの奥さんのようだった。
「どうかしましたか?」
「いいえ、あの、こんなこと本当に言いにくいんですけど、最近お宅様のところから変な臭いが漏れ出しているって近所で話題になってて。それで、わたしが代表してそのことをお話に来たんですけれども…」
変な臭い? そういえばさっちゃんも学校で「くさい」と言われていたようだった。
わたしはクンクンと部屋の臭いを嗅いだが、別に気になるような異臭はしない。
「そうでしたか。もしかすると捨て忘れてしまったゴミのせいかもしれないわ。本当にごめんなさい。今度のゴミの日にはちゃんと捨てますので、それまではちょっとご勘弁ください」
ゴミを何週間も捨てていないのは事実だった。もしかしたら本当にこの部屋はくさいのかもしれない。ただ、わたしの鼻が慣れてしまっているだけなのかも。
次のゴミの日には、溜まっているゴミを必ず処分しようとわたしは思った。
「あら、そうでしたの? 人様の事情に突っ込んでしまってごめんなさいね。でも、もしかして何かあったのかと思いまして、その、心配だったんです」
「……何か?」
「いえ、別に何って決まったことではないんですけれども、何かしら問題が発生しているんじゃないかなって。ご近所さんとも話していたんです」
問題って、一体何があるというのだ?
別に正直に「お宅、ちょっとくさいのでどうにかしてください」と言えばいいのに。今後の近所付き合いを慮って、文句にひとつも素直に言えないなんてなんて面倒なのだろう? わたしは社会には向いていないのかもしれない。
「でも何でもないんならいいんです。ゴミ、今度はちゃんと捨ててくださいね。わたくしのところは大丈夫ですけれど、他のご近所さんに迷惑がかかるといけないから」
わたしは「はい、わざわざ申し訳ありませんでした」と謝ってから、インターフォンを切った。あの遠回しな言い方は何なのだろうか。おかげで買い物に出掛ける気を削がれてしまった。
「ねえ、お母さん。起きてよ」
体を揺り動かされているのに気付いて、わたしは目を覚ました。
隣を見遣るとそこではさっちゃんがわたしのことを見上げている。どうやら食卓に伏せって眠っていてしまったようだ。時計を見る。いけない、もう6時を過ぎていた。夕飯どうしよう――?
「さっちゃん、お腹空いたよう」
「ごめんなさい、お母さんつい寝過ぎちゃった。ご飯、どうしよう? ちょっと待ってね。ええと――…」
もうどうしたらいいかわからなくなっていた。こうなってしまったのも全ては夫のせいだ。夫が今のわたしを作り出してしまった。もう――あの人は―――。
わたしは夫に対する怒りが溢れ出し、もう何度もかけている番号に電話した。
携帯を耳に当てる。
「――りません。おかけの電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。おかけの電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。おかけの電話は電波の届かな――」
「またあなたなのッ!?」
わたしの怒りはいろいろなものを通り越して、頂点に達した。思わず手に力が入り、やり場のない怒りをぶつけようと思いっきり携帯電話を投げた。それが窓ガラスを破って外に落ちた。ガラスの破砕音を聞いたさっちゃんが、ビクリとして、わたしのことを見上げている。
「何でもないの――お母さんちょっとカッとしちゃって。ごめん。もう大丈夫だからね? ごめんね。怖かったね。本当にごめん。お母さん失格だね。ごめんね」
わたしはさっちゃんを抱き締めて泣いた。思わず、涙が溢れた。もうどうしようもなく、わたしは疲れてしまった。わたしにどうしろというのだ? わたしだって、こんな生活を望んだわけではないのに――…。
ドンドンドン。
玄関からドアを叩く音が聞こえた。――誰?
「大丈夫ですか? 今大きな音が聞こえたんですけど、大丈夫ですか?」
若い男の声だった。聞き覚えはない。
「大丈夫ですか? 警察ですけれども、ちょっと開けてもらえませんか?」
警察。どうしてここに警察が?
わけがわからない。わたしは何もしていない。わたしは何もしていないのに。わたしは何も何も何も何も何も――…
ドンドンドン。
強い力で叩かれるドア。
繰り返される。繰り返される。
わたしは悪くない。こうなったのはわたしのせいじゃないのに…。
わたしだって、本当はもっと幸せな暮らしがしたい。わたしは幸せになりたかっただけ。幸せになりたかった。それだけなの。それだけなのに、これは何? 何がこの状況を作ってしまったの? 何が? 一体何が悪かったの? わたしはどこで間違えたの?
わたしは―――……
***
何度も繰り返しドアを叩いた末、カチャリと解錠の音は聞こえ、ゆっくりとドアが開いた。
近隣住民に、窓ガラスが割れるような大きな音がしたと言われ、新米警官の内海は田名部と書かれた表札がある家のインターフォンを押した。しかし反応は全くなく、家の様子を窺ってみると、窓の外に大量のガラス片が散らばり、その中に携帯電話が一緒に落ちていることに気付き、何やら尋常ではない事態が起こっているのではないかと乱暴にドアをノックした。返答がないのは事件の証か――? そう思った瞬間、女のわめき声が聞こえた。
しばらくドアを叩き続けるうちに、今度は素直にドアが開いた。恐るおそる中を覗いてみると、そこには憔悴しきった女の姿。ドアにもたれかかるように座り込み、呆然とした様子だった。「あの、どうなされました? 大丈夫ですか?」
騒ぎを聞きつけて集まってきていた近隣住民の中のひとりが、その女を見て、内海に告げた。「この人、この家の人じゃありませんよ! わたしここの奥さんのこと知ってるけど、この人じゃないわ!」
それを聞いて内海は慌てて家の中へと入った。女は放っておいてもしばらくはそのまま座り込んでいそうだったので、実際放っておくことにした。人も何人か集まってきていることだし、逃げることはないだろう。
家の中は悪臭が漂っていた。部屋中にゴミが溢れ返っていて、それがこの臭いの原因だと想像するに難くはない。
「おじさん、だれ?」
リビングに入ってきた内海を見て、女の子が言った。
「お譲ちゃん、大丈夫? 何かあったんじゃない?」
「お母さんがおでんわを投げて、そうしたら窓をバリーンってしちゃったの。それでお母さん泣いちゃった」
「お母さんって玄関にいる人?」
女の子は玄関の方を覗き見ると「うん」とだけ答えた。
「お父さんは?」
「パパは帰ってこないんだって」
「帰ってこない?」
出張か何かなのか? それとも、離婚している? いや、しかしこの家は誰のものなのだ? あの母親だという女が、この家をひとりで維持していくのは大変だろう。それにさきほど誰かが「ここの奥さん」と言った。つまりここには少なくとも夫婦が住んでいるはずだ。――あるいはもう亡くなっているのか?
「そっか。じゃあ、ママのところに一緒に行こう」
内海の言葉に特に他意はなかった。さきほど目の前にいる女の子が「パパ」と言っているのを聞いて、自然と合わせた結果、出た言葉だった。
「うん、いいよ」
女の子の手を握り、内海は玄関に向かおうとした。
しかし手を握った女の子は、玄関とは逆の方へと内海を引っ張った。
「どこに行くの?」
「ママのところに行くんでしょ?」
「うん。そうだけど…」
「じゃあこっちだよ」
内海は女の子に導かれるがままにこの家の風呂場へと向かった。
「あのね、本当は誰にも教えちゃいけないって言われてるんだけどね、おじさんはケーサツのひとだからとくべつに教えてあげるね」
ひどい悪臭で、内海はむせ返りそうになっていた。――何だ?
「ママ。ママに会いたいっておじさん連れてきたよー」
女の子は浴槽を塞いでいるフタを開けた。それと同時にグッと臭いは強くなり、内海は思わず吐きそうになった。
「これがママだよ」
内海は我が目を疑った。
目の前にあるのは、女性の、死体。
浴槽の水に浸かっていたせいか、部分部分がドロドロに溶けていた。もはや容姿を留めていないが、長い髪が内海にそれが女性だと教えていた。
「見ちゃダメだ」
内海は急いで女の子を抱きかかえ、その場をあとにした。
玄関では放心している女の姿。
もうわけがわからない。
とにかく女の子の安全は確保しなければと思って外に出た。
内海は、脂汗がじわっと全身から噴き出すのを感じた。
とりあえず買い物に行かなくてはならないと思い、わたしはその支度を始めた。そうすると、ピンポーンのインターフォンが鳴り、わたしは誰だろう?と思いながらそれに応じた。「はい?」
「あ、おはようございます。隣の榊原ですけど」
どうやら隣に住んでいる榊原さんの奥さんのようだった。
「どうかしましたか?」
「いいえ、あの、こんなこと本当に言いにくいんですけど、最近お宅様のところから変な臭いが漏れ出しているって近所で話題になってて。それで、わたしが代表してそのことをお話に来たんですけれども…」
変な臭い? そういえばさっちゃんも学校で「くさい」と言われていたようだった。
わたしはクンクンと部屋の臭いを嗅いだが、別に気になるような異臭はしない。
「そうでしたか。もしかすると捨て忘れてしまったゴミのせいかもしれないわ。本当にごめんなさい。今度のゴミの日にはちゃんと捨てますので、それまではちょっとご勘弁ください」
ゴミを何週間も捨てていないのは事実だった。もしかしたら本当にこの部屋はくさいのかもしれない。ただ、わたしの鼻が慣れてしまっているだけなのかも。
次のゴミの日には、溜まっているゴミを必ず処分しようとわたしは思った。
「あら、そうでしたの? 人様の事情に突っ込んでしまってごめんなさいね。でも、もしかして何かあったのかと思いまして、その、心配だったんです」
「……何か?」
「いえ、別に何って決まったことではないんですけれども、何かしら問題が発生しているんじゃないかなって。ご近所さんとも話していたんです」
問題って、一体何があるというのだ?
別に正直に「お宅、ちょっとくさいのでどうにかしてください」と言えばいいのに。今後の近所付き合いを慮って、文句にひとつも素直に言えないなんてなんて面倒なのだろう? わたしは社会には向いていないのかもしれない。
「でも何でもないんならいいんです。ゴミ、今度はちゃんと捨ててくださいね。わたくしのところは大丈夫ですけれど、他のご近所さんに迷惑がかかるといけないから」
わたしは「はい、わざわざ申し訳ありませんでした」と謝ってから、インターフォンを切った。あの遠回しな言い方は何なのだろうか。おかげで買い物に出掛ける気を削がれてしまった。
「ねえ、お母さん。起きてよ」
体を揺り動かされているのに気付いて、わたしは目を覚ました。
隣を見遣るとそこではさっちゃんがわたしのことを見上げている。どうやら食卓に伏せって眠っていてしまったようだ。時計を見る。いけない、もう6時を過ぎていた。夕飯どうしよう――?
「さっちゃん、お腹空いたよう」
「ごめんなさい、お母さんつい寝過ぎちゃった。ご飯、どうしよう? ちょっと待ってね。ええと――…」
もうどうしたらいいかわからなくなっていた。こうなってしまったのも全ては夫のせいだ。夫が今のわたしを作り出してしまった。もう――あの人は―――。
わたしは夫に対する怒りが溢れ出し、もう何度もかけている番号に電話した。
携帯を耳に当てる。
「――りません。おかけの電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。おかけの電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。おかけの電話は電波の届かな――」
「またあなたなのッ!?」
わたしの怒りはいろいろなものを通り越して、頂点に達した。思わず手に力が入り、やり場のない怒りをぶつけようと思いっきり携帯電話を投げた。それが窓ガラスを破って外に落ちた。ガラスの破砕音を聞いたさっちゃんが、ビクリとして、わたしのことを見上げている。
「何でもないの――お母さんちょっとカッとしちゃって。ごめん。もう大丈夫だからね? ごめんね。怖かったね。本当にごめん。お母さん失格だね。ごめんね」
わたしはさっちゃんを抱き締めて泣いた。思わず、涙が溢れた。もうどうしようもなく、わたしは疲れてしまった。わたしにどうしろというのだ? わたしだって、こんな生活を望んだわけではないのに――…。
ドンドンドン。
玄関からドアを叩く音が聞こえた。――誰?
「大丈夫ですか? 今大きな音が聞こえたんですけど、大丈夫ですか?」
若い男の声だった。聞き覚えはない。
「大丈夫ですか? 警察ですけれども、ちょっと開けてもらえませんか?」
警察。どうしてここに警察が?
わけがわからない。わたしは何もしていない。わたしは何もしていないのに。わたしは何も何も何も何も何も――…
ドンドンドン。
強い力で叩かれるドア。
繰り返される。繰り返される。
わたしは悪くない。こうなったのはわたしのせいじゃないのに…。
わたしだって、本当はもっと幸せな暮らしがしたい。わたしは幸せになりたかっただけ。幸せになりたかった。それだけなの。それだけなのに、これは何? 何がこの状況を作ってしまったの? 何が? 一体何が悪かったの? わたしはどこで間違えたの?
わたしは―――……
***
何度も繰り返しドアを叩いた末、カチャリと解錠の音は聞こえ、ゆっくりとドアが開いた。
近隣住民に、窓ガラスが割れるような大きな音がしたと言われ、新米警官の内海は田名部と書かれた表札がある家のインターフォンを押した。しかし反応は全くなく、家の様子を窺ってみると、窓の外に大量のガラス片が散らばり、その中に携帯電話が一緒に落ちていることに気付き、何やら尋常ではない事態が起こっているのではないかと乱暴にドアをノックした。返答がないのは事件の証か――? そう思った瞬間、女のわめき声が聞こえた。
しばらくドアを叩き続けるうちに、今度は素直にドアが開いた。恐るおそる中を覗いてみると、そこには憔悴しきった女の姿。ドアにもたれかかるように座り込み、呆然とした様子だった。「あの、どうなされました? 大丈夫ですか?」
騒ぎを聞きつけて集まってきていた近隣住民の中のひとりが、その女を見て、内海に告げた。「この人、この家の人じゃありませんよ! わたしここの奥さんのこと知ってるけど、この人じゃないわ!」
それを聞いて内海は慌てて家の中へと入った。女は放っておいてもしばらくはそのまま座り込んでいそうだったので、実際放っておくことにした。人も何人か集まってきていることだし、逃げることはないだろう。
家の中は悪臭が漂っていた。部屋中にゴミが溢れ返っていて、それがこの臭いの原因だと想像するに難くはない。
「おじさん、だれ?」
リビングに入ってきた内海を見て、女の子が言った。
「お譲ちゃん、大丈夫? 何かあったんじゃない?」
「お母さんがおでんわを投げて、そうしたら窓をバリーンってしちゃったの。それでお母さん泣いちゃった」
「お母さんって玄関にいる人?」
女の子は玄関の方を覗き見ると「うん」とだけ答えた。
「お父さんは?」
「パパは帰ってこないんだって」
「帰ってこない?」
出張か何かなのか? それとも、離婚している? いや、しかしこの家は誰のものなのだ? あの母親だという女が、この家をひとりで維持していくのは大変だろう。それにさきほど誰かが「ここの奥さん」と言った。つまりここには少なくとも夫婦が住んでいるはずだ。――あるいはもう亡くなっているのか?
「そっか。じゃあ、ママのところに一緒に行こう」
内海の言葉に特に他意はなかった。さきほど目の前にいる女の子が「パパ」と言っているのを聞いて、自然と合わせた結果、出た言葉だった。
「うん、いいよ」
女の子の手を握り、内海は玄関に向かおうとした。
しかし手を握った女の子は、玄関とは逆の方へと内海を引っ張った。
「どこに行くの?」
「ママのところに行くんでしょ?」
「うん。そうだけど…」
「じゃあこっちだよ」
内海は女の子に導かれるがままにこの家の風呂場へと向かった。
「あのね、本当は誰にも教えちゃいけないって言われてるんだけどね、おじさんはケーサツのひとだからとくべつに教えてあげるね」
ひどい悪臭で、内海はむせ返りそうになっていた。――何だ?
「ママ。ママに会いたいっておじさん連れてきたよー」
女の子は浴槽を塞いでいるフタを開けた。それと同時にグッと臭いは強くなり、内海は思わず吐きそうになった。
「これがママだよ」
内海は我が目を疑った。
目の前にあるのは、女性の、死体。
浴槽の水に浸かっていたせいか、部分部分がドロドロに溶けていた。もはや容姿を留めていないが、長い髪が内海にそれが女性だと教えていた。
「見ちゃダメだ」
内海は急いで女の子を抱きかかえ、その場をあとにした。
玄関では放心している女の姿。
もうわけがわからない。
とにかく女の子の安全は確保しなければと思って外に出た。
内海は、脂汗がじわっと全身から噴き出すのを感じた。
***
4がつ16にち (はれ)
きょうはみたことのないおんなのひとがおうちにきました。
おんなのひとはママになにかむずかしいことをいって、ママをかなしくさせました。
ママはないていました。
その日はパパがかえってくるとママはすごいこわいかおでパパのことをおこっていました。パパはわるいことをしたんだとおもいます。さっちゃんもたまにママにおこられるけれど、とてもこわいです。
5がつ3にち (はれ)
きょうもまたこのまえのおんなのひとがおうちにきました。きのうきたときはママがないていたのでさっちゃんはなんだかこのおんなのひとがおうちにくるのはいやです。
きょうもパパがおこられていました。さいきんのパパはわるいことばかりしているみたいです。
5がつ11にち (あめ)
きょうもまえのおんなのひとがまたきました。おんなのひとはきょうからわたしがさっちゃんのおあかさんだっていっていました。さっちゃんのママはママだけです。さっちゃんはおんなのひとがなにをいっているかわからなくて、なんだかへんなひとだとおもいました。
5がつ12にち (くもり)
きのうからずっとおんなの人がおうちにいます。きのうはおしごとだったパパはきょうかえってきてびっくりしていました。それにおおきくハアといっていました。それからすこしおんなの人とはなしをして、おんなのひとはまたさっちゃんにわたしがおかあさんよといいました。
5がつ14にち (くもり)
おんなの人がきてからママはずっとおふろにいます。おはなしをしてもへんじをしてくれません。ママはずっとおふろでねています。なんどもおこしたけどおきませんでした。
おんなの人がつくってくれたごはんがおいしかったです。おかあさんってよんでねってきょうもいいました。
5がつ20にち (はれ)
きょうはおかあさんがないていました。おかあさんはパパときのうけんかをしていたのをおもいだしました。さっちゃんはどうしたらいいかわからないのでママにそうだんしたけれどへんじはなかったです。ママはいつになったらおきるんだろう。かぜをひかないかしんぱいです。
5がつ23にち (あめ)
ママとおはなしするとおかあさんはとってもおこります。とってもこわいです。でもさっちゃんはおかあさんとおはなしがしたいです。どうしたらおかあさんがおこらないでくれるかわかりません。ママのごはんがたべたいです。
5がつ26にち (あめ)
おかあさんがこわかったです。とてもおこっててさっちゃんのことをぶったりしました。さっちゃんはびっくりしてあたまをぶつけてしまってちがいっぱいでました。
でもおかあさんがなおしてくれたのでだいじょうぶです。
おかあさんがごめんねとなんどもいいました。
さっちゃんはやさしいときのおかあさんがすきです。
6がつ8にち (はれ)
おかあさんはおでんわするととてもおこります。わーっていっぱいこえをだします。
さっちゃんはそれがすこしこわいです。でもあとでごめんねってなでなでしてくれるのでだいじょうぶです。
6がつ16にち (はれ)
きょうはがっこうでおともだちのりょうきくんにくさいっていわれました。さっちゃんはとてもかなしかったけどなきませんでした。おかあさんにはなしたらおふろであらってくれました。
6がつ17にち (くもり)
きょうはいろいろなことがありました。おうちにかえるとおかあさんがねていました。さっちゃんはなんどもなんどもおこしてあげました。おかあさんはおきたらおでんわをしてさっちゃんはこわかったです。おでんわするといつもおこります。おかあさんがおでんわをなげてがらすがわれてしまいました。
けーさつのおじちゃんがきて、もうだいじょうぶだよっていいました。
おじちゃんはママのことをおふろからだしてあげるといいました。
ママはいっぱいおふろにいたのでかぜをひいていないかしんぱいです。
でもきっとすぐになおってさっちゃんとまたあそんでほしいです。
<作者のことば>
今回はまさかの追記にさっちゃんの日記パート。
演出上の問題で、若干読みにくかったかもしれません。
実はこれ、2年ほど前に書いたもののリメイク。
ずっと載せる機会を窺っていたのだが、先日桐野夏生さんの小説を読み、物凄いインスピレーションを受けて、書き直してみました。
本当は日記調の一人称で、浴槽で死んでいる母親と会話するという話だったのだけれど、リメイクにあたって母親(実の、ではない方の)の視点から話を展開。新たな角度から作品を見てみることに。
これが本当に面白くて、以前のものより今の方が良い気がしている。やはりインスピレーションというものは常に受け続けることが大事だと思った。新しい角度からの新しい発想というのは視野を拡くしてくれる気がする。
文章的な完成度は正直あまり高くないですが、書いていて面白かったので、もしかしたら読んでも面白いんじゃないかなー?って気はしています。
面白くなくても、確実に今後に活きるという感覚がある。確信。この感覚は次に繋げていかなくては。
日記パートはリメイク前の作品の名残で、雰囲気を形成するのに使わせてもらった。
何となく俺好みの作品に仕上がったなぁ。最後の部分は、そういう意味で大事なファクターだった。
今年はもしかしたら残り1本で終わりになってしまうかもしれないけれど、このタイミングでモチベーションを上げて取り掛かれたのは来年に向けてとても良い感じ。
モチベーションを上げるためにも読書は大事だと思ったので、今年の残りはやはり読書に充てようかな?
←応援してくれる人はclick!!
4がつ16にち (はれ)
きょうはみたことのないおんなのひとがおうちにきました。
おんなのひとはママになにかむずかしいことをいって、ママをかなしくさせました。
ママはないていました。
その日はパパがかえってくるとママはすごいこわいかおでパパのことをおこっていました。パパはわるいことをしたんだとおもいます。さっちゃんもたまにママにおこられるけれど、とてもこわいです。
5がつ3にち (はれ)
きょうもまたこのまえのおんなのひとがおうちにきました。きのうきたときはママがないていたのでさっちゃんはなんだかこのおんなのひとがおうちにくるのはいやです。
きょうもパパがおこられていました。さいきんのパパはわるいことばかりしているみたいです。
5がつ11にち (あめ)
きょうもまえのおんなのひとがまたきました。おんなのひとはきょうからわたしがさっちゃんのおあかさんだっていっていました。さっちゃんのママはママだけです。さっちゃんはおんなのひとがなにをいっているかわからなくて、なんだかへんなひとだとおもいました。
5がつ12にち (くもり)
きのうからずっとおんなの人がおうちにいます。きのうはおしごとだったパパはきょうかえってきてびっくりしていました。それにおおきくハアといっていました。それからすこしおんなの人とはなしをして、おんなのひとはまたさっちゃんにわたしがおかあさんよといいました。
5がつ14にち (くもり)
おんなの人がきてからママはずっとおふろにいます。おはなしをしてもへんじをしてくれません。ママはずっとおふろでねています。なんどもおこしたけどおきませんでした。
おんなの人がつくってくれたごはんがおいしかったです。おかあさんってよんでねってきょうもいいました。
5がつ20にち (はれ)
きょうはおかあさんがないていました。おかあさんはパパときのうけんかをしていたのをおもいだしました。さっちゃんはどうしたらいいかわからないのでママにそうだんしたけれどへんじはなかったです。ママはいつになったらおきるんだろう。かぜをひかないかしんぱいです。
5がつ23にち (あめ)
ママとおはなしするとおかあさんはとってもおこります。とってもこわいです。でもさっちゃんはおかあさんとおはなしがしたいです。どうしたらおかあさんがおこらないでくれるかわかりません。ママのごはんがたべたいです。
5がつ26にち (あめ)
おかあさんがこわかったです。とてもおこっててさっちゃんのことをぶったりしました。さっちゃんはびっくりしてあたまをぶつけてしまってちがいっぱいでました。
でもおかあさんがなおしてくれたのでだいじょうぶです。
おかあさんがごめんねとなんどもいいました。
さっちゃんはやさしいときのおかあさんがすきです。
6がつ8にち (はれ)
おかあさんはおでんわするととてもおこります。わーっていっぱいこえをだします。
さっちゃんはそれがすこしこわいです。でもあとでごめんねってなでなでしてくれるのでだいじょうぶです。
6がつ16にち (はれ)
きょうはがっこうでおともだちのりょうきくんにくさいっていわれました。さっちゃんはとてもかなしかったけどなきませんでした。おかあさんにはなしたらおふろであらってくれました。
6がつ17にち (くもり)
きょうはいろいろなことがありました。おうちにかえるとおかあさんがねていました。さっちゃんはなんどもなんどもおこしてあげました。おかあさんはおきたらおでんわをしてさっちゃんはこわかったです。おでんわするといつもおこります。おかあさんがおでんわをなげてがらすがわれてしまいました。
けーさつのおじちゃんがきて、もうだいじょうぶだよっていいました。
おじちゃんはママのことをおふろからだしてあげるといいました。
ママはいっぱいおふろにいたのでかぜをひいていないかしんぱいです。
でもきっとすぐになおってさっちゃんとまたあそんでほしいです。
<作者のことば>
今回はまさかの追記にさっちゃんの日記パート。
演出上の問題で、若干読みにくかったかもしれません。
実はこれ、2年ほど前に書いたもののリメイク。
ずっと載せる機会を窺っていたのだが、先日桐野夏生さんの小説を読み、物凄いインスピレーションを受けて、書き直してみました。
本当は日記調の一人称で、浴槽で死んでいる母親と会話するという話だったのだけれど、リメイクにあたって母親(実の、ではない方の)の視点から話を展開。新たな角度から作品を見てみることに。
これが本当に面白くて、以前のものより今の方が良い気がしている。やはりインスピレーションというものは常に受け続けることが大事だと思った。新しい角度からの新しい発想というのは視野を拡くしてくれる気がする。
文章的な完成度は正直あまり高くないですが、書いていて面白かったので、もしかしたら読んでも面白いんじゃないかなー?って気はしています。
面白くなくても、確実に今後に活きるという感覚がある。確信。この感覚は次に繋げていかなくては。
日記パートはリメイク前の作品の名残で、雰囲気を形成するのに使わせてもらった。
何となく俺好みの作品に仕上がったなぁ。最後の部分は、そういう意味で大事なファクターだった。
今年はもしかしたら残り1本で終わりになってしまうかもしれないけれど、このタイミングでモチベーションを上げて取り掛かれたのは来年に向けてとても良い感じ。
モチベーションを上げるためにも読書は大事だと思ったので、今年の残りはやはり読書に充てようかな?

COMMENT
12がつ12にち(はれ)
さいしょ、ネグレクトのおはなしかとおもったので、さっちゃんがかわいそうでした。
でも、カテゴリわけをみて、あれっとおもいました。
あとのほうをよんで、りゆうがわかりました。
しょうせつのまにゅあるぼんで、ひにちじょうてきなことをかくには、そのまえのにちじょうをびょうしゃできなけれないけない、というようなことをよんだことがあります。
りゅうけつや、ふらんしたいがでてくるまえの、にちじょうのなにげないひょうげんもじょうずで、さすがだなとおもいました。
パパはどこにいったのかな、とふしぎになりました。
あときょうすけおじちゃんは、やっぱりふらんしたいがすきなんだな、とおもいました。
とてもおもしろかったです。
さいしょ、ネグレクトのおはなしかとおもったので、さっちゃんがかわいそうでした。
でも、カテゴリわけをみて、あれっとおもいました。
あとのほうをよんで、りゆうがわかりました。
しょうせつのまにゅあるぼんで、ひにちじょうてきなことをかくには、そのまえのにちじょうをびょうしゃできなけれないけない、というようなことをよんだことがあります。
りゅうけつや、ふらんしたいがでてくるまえの、にちじょうのなにげないひょうげんもじょうずで、さすがだなとおもいました。
パパはどこにいったのかな、とふしぎになりました。
あときょうすけおじちゃんは、やっぱりふらんしたいがすきなんだな、とおもいました。
とてもおもしろかったです。
● Re: タイトルなし
匡介おじちゃん | URL | 2009/12/12(土) 17:30 [EDIT]
匡介おじちゃん | URL | 2009/12/12(土) 17:30 [EDIT]
>ライムちゃん
ネグレクトなんて難しい言葉、よく知っていたね~。すごいすごい!
オチが非日常的な場合は、確かに日常性を強く意識して書いているよ。だけれど、あまり日常過ぎてもギャップ差が激しいから、「お母さん」の異常性を徐々にあらわにしつつも、どうにか日常性を保てるようバランスを考えるのが大事だとおじちゃんは思ってるんだ。
そんな日常にいくつかの伏線を仕掛けておいて、一気に非日常に一転させるっていうのが今回のポイントだね。
パパがどこに行ったかって?
そもそもパパはどうしたんだろうね? 「お母さん」から逃げてしまったのかな? それとも――。考えようによっては、とっても怖い結末がパパを待っていたのかもしれない。
そこは想像力で補って欲しいなぁ。パパのことは語らずして語る、を意識してあえて何も書いていないんだよ。わかるかな? ライムちゃんには少し難しいかな? でも頭が良いから、きっとわかるよね。
はははっ。腐乱死体が好きだって痛いところ突かれちゃったなー(笑)
正確にはゾンビが好きで、だから腐乱死体もよく出てくるのかもしれないね。
面白いって言ってくれてありがとう。
またそう言ってもらえるように、おじちゃん頑張るね! そのときはまたライムちゃんに読んで欲しいなぁ。
P.S.
本編よりコメントの方が書くの難しかったです(笑)
ひらがなで読みにくい 作品に合わせて凝ったコメントどうもありがとうございました♪ そして上から目線の返事でごめんなさい(笑) それからライムちゃんとか言っちゃって……でも、おじちゃんって言われたのでおあいこですよね?(笑)
ネグレクトなんて難しい言葉、よく知っていたね~。すごいすごい!
オチが非日常的な場合は、確かに日常性を強く意識して書いているよ。だけれど、あまり日常過ぎてもギャップ差が激しいから、「お母さん」の異常性を徐々にあらわにしつつも、どうにか日常性を保てるようバランスを考えるのが大事だとおじちゃんは思ってるんだ。
そんな日常にいくつかの伏線を仕掛けておいて、一気に非日常に一転させるっていうのが今回のポイントだね。
パパがどこに行ったかって?
そもそもパパはどうしたんだろうね? 「お母さん」から逃げてしまったのかな? それとも――。考えようによっては、とっても怖い結末がパパを待っていたのかもしれない。
そこは想像力で補って欲しいなぁ。パパのことは語らずして語る、を意識してあえて何も書いていないんだよ。わかるかな? ライムちゃんには少し難しいかな? でも頭が良いから、きっとわかるよね。
はははっ。腐乱死体が好きだって痛いところ突かれちゃったなー(笑)
正確にはゾンビが好きで、だから腐乱死体もよく出てくるのかもしれないね。
面白いって言ってくれてありがとう。
またそう言ってもらえるように、おじちゃん頑張るね! そのときはまたライムちゃんに読んで欲しいなぁ。
P.S.
本編よりコメントの方が書くの難しかったです(笑)
●
七花 | URL | 2009/12/15(火) 01:53 [EDIT]
七花 | URL | 2009/12/15(火) 01:53 [EDIT]
怖かったです。
さっちゃんの頭が心配です。中身も外側も。すごく痛い。
最後の日記がひらがななので、怖さを倍増していると思いました。
リメイクなんですね。視点とか角度を変えて書くと、急に良い作品になったりとかはあると思います。
書いてて面白かったというのは、とてもいいですよね。
作品自体は良かったのですが、こんな夜中に読むんじゃなかったと後悔しています。夢に出そう……。
さっちゃんの頭が心配です。中身も外側も。すごく痛い。
最後の日記がひらがななので、怖さを倍増していると思いました。
リメイクなんですね。視点とか角度を変えて書くと、急に良い作品になったりとかはあると思います。
書いてて面白かったというのは、とてもいいですよね。
作品自体は良かったのですが、こんな夜中に読むんじゃなかったと後悔しています。夢に出そう……。
>七花さん
コメントありがとうございます♪
未発表なのでリメイクとか言っていいのかわかりませんが(笑)、受けたインスピレーションと過去に書いていた作品が突如脳内で化学反応を起こして融合した、という感じでしょうか?
日記ってそれだけで怖さがありますよね。個人的には東野圭吾「むかし僕が死んだ家」や「バイオハザード」「サイレントヒル」などのホラーゲームでも日記って重要なファクターとして存在していると思います。きっと「秘密」感がミステリーだったりホラーだったりして雰囲気作りに大きく影響しているんだろうなぁ、と。
それが子供の書いたひらがなの日記だと余計に怖い気がするのはなぜなんでしょうね~?
夢に出そう、ってホラー書いてる側としては嬉しくもある言葉ですが、そんな怖い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちもあって複雑です(笑)
またのお越しをお待ちしておりますね!
ただ、今後は夜中に読むのは七花さんのために控えた方がいいかもしれません(笑)
コメントありがとうございます♪
未発表なのでリメイクとか言っていいのかわかりませんが(笑)、受けたインスピレーションと過去に書いていた作品が突如脳内で化学反応を起こして融合した、という感じでしょうか?
日記ってそれだけで怖さがありますよね。個人的には東野圭吾「むかし僕が死んだ家」や「バイオハザード」「サイレントヒル」などのホラーゲームでも日記って重要なファクターとして存在していると思います。きっと「秘密」感がミステリーだったりホラーだったりして雰囲気作りに大きく影響しているんだろうなぁ、と。
それが子供の書いたひらがなの日記だと余計に怖い気がするのはなぜなんでしょうね~?
夢に出そう、ってホラー書いてる側としては嬉しくもある言葉ですが、そんな怖い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちもあって複雑です(笑)
またのお越しをお待ちしておりますね!
ただ、今後は夜中に読むのは七花さんのために控えた方がいいかもしれません(笑)
| ホーム |