迷い娘と放蕩息子(その3/湯浴み娘と電話男)
ふと、あるケータイが目についた。智樹のものではない。
(――小夏のか?)
両親の連絡先がわかるかもしれないと思い、智樹はそれを手に取った。ケータイを開いて、そのディスプレイに目を落とすとそこには何も映し出されていなかった。適当に操作してみたが、反応はない。それは電源を入れようとしても同じなので、どうも電池が切れているらしい。
「俺の充電器で合うかな?」
智樹は自分が使っている充電器の接続部を小夏のケータイに繋いでみた。どうも規格は同一らしい。それは問題なく接続された。充電が開始された合図の赤いランプが点灯する。
再びケータイを操作して、小夏の実家らしき番号を呼び出した。他にも「父」や「母」といった両親のケータイ番号と思われるものもあったが、どちらにかけるべきか判断しかねたので、実家が妥当だろうと智樹は思い、通話ボタンをプッシュした。
呼び出し音。それはすぐに通話に切り替わった。
「もしもし? 小夏? あなた今どこにいるの?」
母親らしき女性の声。
小夏の電話番号でかけているので、小夏がかけているのだと勘違いしているようだ。
「……あの、えっと、俺は小夏さんじゃありません」
「あなた、誰? どうして小夏のケータイを使っているの?」
戸惑う母親の声。
まあ、当たり前の反応だろうと智樹は思った。さて、どう切り出すべきか。
「こんばんは」とりあえず遅れながらも挨拶をしてみた。「その、なんて説明をしたらいいか、とても難しいんですけれど、あー…小夏さんは今自分と一緒にいます」
「どうして? あなたは誰なの?」
そうか、名乗るのを忘れていた。
「あ、すみません。俺は新藤智樹って言います。あの、今日たまたま小夏さん出会ったんですが――」
「ねえ、小夏はどうしているの? あの子に代わってちょうだい」
シャワー中だとはとてもじゃないが言えない。
「実は小夏さんは家に連絡するのが嫌らしくて、今は彼女に黙ってこの電話をしているんです。あの、少し説明させてもらっても構いませんか?」どうにも損な役回りだな、と智樹は心中で自嘲した。「実は、今日歩いていたらお互い余所見をしていたこともあるんですが、小夏さんとぶつかってしまいまして。そのとき俺は見事に転倒してしまい、強く頭を打ってしまったんです」
とりあえずは話を聞いてもらえるようだ。
智樹の遠回りな説明に、小夏の母親は口を挿む様子はない。
「で、それを心配してくれた小夏さんが、俺が起き上がるまでそこで待っていてくれたんですけど、家を訊ねたら『家はない』って言うもので。もしかして家出なのかなって思って、放っておくわけにも行かず、とりあえず夕食を一緒に食べたんですけど、いつまで経ってもなかなか家がどこか教えてくれなくて、さっきやっと教えてくれたのが『岩手』だって言うんですよ」
「そこは、どこなんです?」
「……埼玉です」
「埼玉っ!? 本当に、埼玉なんですか? 今あの子は埼玉に?」
「あー、びっくりされるのもわかります。俺もさっきすごい驚きましたし。でもここは事実埼玉で、どうやら小夏さんの実家も本当に岩手のようですね」
その後、智樹は小夏の母親といくつかの話をした。最終的には智樹が明日、小夏を連れて岩手に向かうということに決まった。小夏の母親は自分たちが迎えに行くと言っていたが、もし自分の部屋まで来られたらそれはそれで面倒だな、と思ったので智樹がきちんと送り届けると母親に約束したのだった。
まあ、明日くらい学校は休んでもいいだろう。
「――では」
智樹は終話ボタンを押して、小夏のケータイをテーブルに置いた。
浴室の方からドライヤーを使う音がする。小夏はもうシャワーを浴び終わったようで、もうすぐこちらに戻ってくるだろう。
「さっぱりしたー」
「ああ、よかったな」
そのときの小夏は、智樹の目にはいくぶんか色っぽく見えた。
(いや、相手は中学生だから)
「あー!! なんでケータイ充電されてるの!?」
「――ああ、それは俺がやっといた」
「まさか中、見てないよね?」
どうしよう。本当のことを言うべきか、嘘を吐くべきか。
「いや、お前の両親に電話したよ」どうせ発信履歴を見ればバレることだと智樹は素直に話した。「だってお前は全然俺に教えてくれないし、何も連絡しないままでいることなんて俺には出来ないよ」
「最低!!」
「……もしお前の親が捜索届を出していたら、お前を部屋に連れ込んだ俺は捕まるんだぜ? たぶん」
小夏はもっと何かを言いたげだったが、それをどうにか押し戻し、智樹を一瞥するとベッドに飛び込んだ。
「寝る」
「そこで?」
「そうです」
「まあ、いいけど。最初からそのつもりだったし」
小夏は布団を頭からかぶった。それはもう何も話したくないとアピールしているかのように智樹には見えた。
「俺もシャワー浴びてくるから、寝てていいよ」
智樹はバスタオルを手に取り、浴室へと姿を消した。
(――小夏のか?)
両親の連絡先がわかるかもしれないと思い、智樹はそれを手に取った。ケータイを開いて、そのディスプレイに目を落とすとそこには何も映し出されていなかった。適当に操作してみたが、反応はない。それは電源を入れようとしても同じなので、どうも電池が切れているらしい。
「俺の充電器で合うかな?」
智樹は自分が使っている充電器の接続部を小夏のケータイに繋いでみた。どうも規格は同一らしい。それは問題なく接続された。充電が開始された合図の赤いランプが点灯する。
再びケータイを操作して、小夏の実家らしき番号を呼び出した。他にも「父」や「母」といった両親のケータイ番号と思われるものもあったが、どちらにかけるべきか判断しかねたので、実家が妥当だろうと智樹は思い、通話ボタンをプッシュした。
呼び出し音。それはすぐに通話に切り替わった。
「もしもし? 小夏? あなた今どこにいるの?」
母親らしき女性の声。
小夏の電話番号でかけているので、小夏がかけているのだと勘違いしているようだ。
「……あの、えっと、俺は小夏さんじゃありません」
「あなた、誰? どうして小夏のケータイを使っているの?」
戸惑う母親の声。
まあ、当たり前の反応だろうと智樹は思った。さて、どう切り出すべきか。
「こんばんは」とりあえず遅れながらも挨拶をしてみた。「その、なんて説明をしたらいいか、とても難しいんですけれど、あー…小夏さんは今自分と一緒にいます」
「どうして? あなたは誰なの?」
そうか、名乗るのを忘れていた。
「あ、すみません。俺は新藤智樹って言います。あの、今日たまたま小夏さん出会ったんですが――」
「ねえ、小夏はどうしているの? あの子に代わってちょうだい」
シャワー中だとはとてもじゃないが言えない。
「実は小夏さんは家に連絡するのが嫌らしくて、今は彼女に黙ってこの電話をしているんです。あの、少し説明させてもらっても構いませんか?」どうにも損な役回りだな、と智樹は心中で自嘲した。「実は、今日歩いていたらお互い余所見をしていたこともあるんですが、小夏さんとぶつかってしまいまして。そのとき俺は見事に転倒してしまい、強く頭を打ってしまったんです」
とりあえずは話を聞いてもらえるようだ。
智樹の遠回りな説明に、小夏の母親は口を挿む様子はない。
「で、それを心配してくれた小夏さんが、俺が起き上がるまでそこで待っていてくれたんですけど、家を訊ねたら『家はない』って言うもので。もしかして家出なのかなって思って、放っておくわけにも行かず、とりあえず夕食を一緒に食べたんですけど、いつまで経ってもなかなか家がどこか教えてくれなくて、さっきやっと教えてくれたのが『岩手』だって言うんですよ」
「そこは、どこなんです?」
「……埼玉です」
「埼玉っ!? 本当に、埼玉なんですか? 今あの子は埼玉に?」
「あー、びっくりされるのもわかります。俺もさっきすごい驚きましたし。でもここは事実埼玉で、どうやら小夏さんの実家も本当に岩手のようですね」
その後、智樹は小夏の母親といくつかの話をした。最終的には智樹が明日、小夏を連れて岩手に向かうということに決まった。小夏の母親は自分たちが迎えに行くと言っていたが、もし自分の部屋まで来られたらそれはそれで面倒だな、と思ったので智樹がきちんと送り届けると母親に約束したのだった。
まあ、明日くらい学校は休んでもいいだろう。
「――では」
智樹は終話ボタンを押して、小夏のケータイをテーブルに置いた。
浴室の方からドライヤーを使う音がする。小夏はもうシャワーを浴び終わったようで、もうすぐこちらに戻ってくるだろう。
「さっぱりしたー」
「ああ、よかったな」
そのときの小夏は、智樹の目にはいくぶんか色っぽく見えた。
(いや、相手は中学生だから)
「あー!! なんでケータイ充電されてるの!?」
「――ああ、それは俺がやっといた」
「まさか中、見てないよね?」
どうしよう。本当のことを言うべきか、嘘を吐くべきか。
「いや、お前の両親に電話したよ」どうせ発信履歴を見ればバレることだと智樹は素直に話した。「だってお前は全然俺に教えてくれないし、何も連絡しないままでいることなんて俺には出来ないよ」
「最低!!」
「……もしお前の親が捜索届を出していたら、お前を部屋に連れ込んだ俺は捕まるんだぜ? たぶん」
小夏はもっと何かを言いたげだったが、それをどうにか押し戻し、智樹を一瞥するとベッドに飛び込んだ。
「寝る」
「そこで?」
「そうです」
「まあ、いいけど。最初からそのつもりだったし」
小夏は布団を頭からかぶった。それはもう何も話したくないとアピールしているかのように智樹には見えた。
「俺もシャワー浴びてくるから、寝てていいよ」
智樹はバスタオルを手に取り、浴室へと姿を消した。
COMMENT
ロードムービー! (ムービーじゃないか)
長くなるパターンですね、これは
浦和駅に着くまでで1話、東京駅を経て東北新幹線での岩手に至るまでのエピソードに2話は必要でしょう(冗談です)
ホウキに乗ればひとっ飛びですよ? ←しつこい
長くなるパターンですね、これは
浦和駅に着くまでで1話、東京駅を経て東北新幹線での岩手に至るまでのエピソードに2話は必要でしょう(冗談です)
ホウキに乗ればひとっ飛びですよ? ←しつこい
>ライムさん
え? 最寄り駅は浦和駅で決まりですか?(笑)
岩手に帰るには大宮駅から「はやて」「こまち」に乗るのがベストかと思っています。
「やまびこ」や「つばさ」などもありますが、あれは大宮から仙台の間に宇都宮・郡山・福島駅にも停車するので岩手までは時間がかかってしまい、「はやて」「こまち」ならば大宮・仙台・盛岡の順番で停車回数が少なく着けるため、約2時間くらいで済みますよ!(笑)
ええ、本当はホウキに乗れれば手っ取り早いんですが、ホウキは壊してしまったんですよ。
もしかしたらデッキブラシを代用できるかもしれませんが、最近は寒くなってきているのでこの気温の中を生身だけで飛ぶのはいささか無謀としか言えません。結果、新幹線です(笑)
ちなみに、昔「ロードムービー」って小説を書こうと思ったことがありました。
内容は……サッパリ思い出せませんが(笑)
え? 最寄り駅は浦和駅で決まりですか?(笑)
岩手に帰るには大宮駅から「はやて」「こまち」に乗るのがベストかと思っています。
「やまびこ」や「つばさ」などもありますが、あれは大宮から仙台の間に宇都宮・郡山・福島駅にも停車するので岩手までは時間がかかってしまい、「はやて」「こまち」ならば大宮・仙台・盛岡の順番で停車回数が少なく着けるため、約2時間くらいで済みますよ!(笑)
ええ、本当はホウキに乗れれば手っ取り早いんですが、ホウキは壊してしまったんですよ。
もしかしたらデッキブラシを代用できるかもしれませんが、最近は寒くなってきているのでこの気温の中を生身だけで飛ぶのはいささか無謀としか言えません。結果、新幹線です(笑)
ちなみに、昔「ロードムービー」って小説を書こうと思ったことがありました。
内容は……サッパリ思い出せませんが(笑)
なんだ携帯持っていたんだったらもとから根性ある家出ではなかったということですか。
男の生活がだんだん侵食されていく、というようなストーリーだと思っていたのであと2話で終わり、と聞かされてちと拍子抜け(^^)
どうまとめられるのかお手並みを拝見したいと思います。
男の生活がだんだん侵食されていく、というようなストーリーだと思っていたのであと2話で終わり、と聞かされてちと拍子抜け(^^)
どうまとめられるのかお手並みを拝見したいと思います。
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