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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/11/28(土)   CATEGORY: 短篇小説
迷い娘と放蕩息子(その1/家なき子と猫舌男)
 もういやだ――その思いが爆発する。
 何もわかってもらえないなら、ここに居場所がないなら、もうこんなところにいられない。

 走った。ただ走った。目的地はわからない。行けるとこまで行こう。

 どこか、遠いところへ。


 ***

 スーパーで今晩の食材を買った新藤 智明はレジ袋をぶらさげながら空を見上げ歩いていた。白い月が浮かんでいる。最近は暗くなるのも早くなった。冬が近付いているな、と智明は思った。
 視線を前方に戻すと、小さい女の子が視界に入った。メガネをかけた、中学生くらいの少女。その目は赤く、泣いているように見えた。
(――どうかしたのか?)
 そう思ったや刹那、智明の体にドンという衝撃があった。そのままバランスを崩して後方に倒れていく――。
智明はスローモーションにその一瞬を感じていた。視界には、さっきの少女。驚いたような顔をして、こちらを見ている。

 目を開けると月が見えた。ぽっかりと浮かぶ、月。白い。まるい。星も見え始めていた。
「――ああ」
 やっとの思いで声を出した。それに特に意味はない。ただ、どうしようもなく動くのがしんどかった。後頭部にズキズキと痛みがする。――あれ? 俺後ろに倒れたんだっけ?
「だっ 大丈夫ですか!?」
 声の方を見遣ると、そこにはメガネの少女が心配そうにこちらを覗きこんでいた。智樹は少女が誰か思い出そうとして、そして初めて会ったことを思い出した。
(そうか。倒れる前に見えたあの子か)
「ごめんなさいッ!」
 唐突な、謝罪。「え? なにが?」
「あの、わたしがちゃんと前を見ていなかったばっかりに……、その、ぶつかってしまって……」
 ああ、自分はこの子にぶつかられて倒れたのか――と智樹は思いながら身を起こした。「大丈夫。なんともないよ」
「でも、5分くらい気を失っていたみたいで…」
(――5分。マジか…)
 智樹は自分の後頭部に触れてみた。ズキン、と痛む。見事なコブが出来ていた。
「あー、でもホント大丈夫だから。ちょっとぶつけたとこ痛むけど、ちゃんと生きてるみたいだし」
「本当にごめんなさい」
(――うっ。涙かよ、こんなところで泣かれても……俺が困るって……)
「全然大丈夫だから、さ? ほら、泣かないで。事故なら仕方ないし。それに俺もぼーっとしてたから、キミが悪いってわけじゃないよ、ホント」
 どうしても泣き止まない少女。どうしたらいいかわからない智樹。近くを過ぎていく人たちは好奇の目を向けていった。
 その視線をひしひしと感じた智樹は仕方なく、少女を連れて自動販売機の前まで行った。
「何か飲む? 好きなの押していいよ」
「いやっ、そのっ、大丈夫ですからっ」
 泣いているせいで途切れ途切れに答える少女。
「大丈夫の意味がわからないって。じゃあ適当に選んじゃうぜ? ミルクティー飲める?」
 少女がコクンと頷いたのを見届けて、智樹はミルクティーのボタンを2回押した。ガタン、ゴトン、という音が2回繰り返されてミルクティーの缶が吐き出された。
「ほら、飲みなよ。それ飲んで落ち着いて」
 少女は素直にミルクティーを受け取って、それに口をつけた。
 智樹もそれに倣ってプルトップを引き起こし、口をつける。――熱かった。
「うわっ、あちッ! キミ、よく飲めるなぁ。俺が猫舌なのもあるけど」
 くくく、と堪えるような笑い声が聞こえた。
 智樹が少女を見遣ると笑ってはいけないと思いつつ我慢できないでいる笑顔があった。
「そんな笑うなよ」
 智樹も一緒になって笑った。
「もう泣いてないな? そんじゃ帰るか。キミ、家どこ?」
 それを聞いた途端に少女は黙り込んでしまった。さきほどまでの笑顔は欠片も存在していない。何か都合の悪いことでもあるかのようだった。
「いや、ごめんごめん。知らない人に家教えるの怖いよな。最近は変な人も増えてるみたいだし」
 飲み終わった空き缶を自販機横のゴミ箱に放る。「でも、こんな時間だし送るよ。ちゃんとご両親にも会うし、住所聞き出して何かしようなんて考えてないから。キミとのこと説明しないといけないしね」
「……ない」
 か細い声だった。
「え?」
「家なんてない」
「は?」
(これが噂の家なき子!?って古いか。――じゃなくて! え? つまり、まさか、この子って……家出?)
「それってどういう……?」
「あたしに家なんかないのッ!」
「あー、じゃあ、これからどこへ?」
「……わかんない」
「いや、わかんないって」
「だって決めてないんだもん」
「いや、決めてないって」
 思ってもみなかった展開に動揺する智樹。
 そのときどこかで、グゥ、と腹の虫が鳴いた。
「……お腹空いてる?」
「……うん」
 少し考えて、というか悩んで、ズキズキ頭が痛む中どうにか思考を巡らして、智樹は仕方なくある結論に至った。
「本当に帰るとこない?」
「うん」
「…マジで帰る気ない?」
「家なんてないから」
「仕方ねーなぁ。俺ンち来る?」
 沈黙。しばしの間。
 若干の気まずい空気の中、やはり言うべきじゃなかったかと智樹は早くも後悔していた。
「でも……」
 やっと破られた沈黙だが、少女はどうしようか悩んでいるらしい。それは智樹に警戒心を抱いているというよりも、そこまで世話になっていいものかと考えているふうだった。
「腹減ってるんだろ? とりあえず何か食べさせてやるから来いよ。キミの家のことはそれからにしよう!」
「……わかった」
 こうして智樹はスーパーに買い物に行っただけなのに、後頭部には大きなコブを作って見知らぬ少女を家に連れ帰ることになったのだった。




<作者のことば>
ふと浮かんだ暇潰し作品その3。
結構ライトな作りになってます。

あー、もっと濃厚なやつ書きたいなぁ。内容も文章も。

でも僕にはそんな才能ないことに気付きました。
そんな密度の高い内容思いつかないし、そんな濃度のある文章も浮かばない。

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| | 2009/11/28(土) 11:54 [EDIT]
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ライム | URL | 2009/11/28(土) 20:44 [EDIT]
ライト! 軽快!
いやいや^^
こういうものがサラッと書けるとは、やはり只者ではない証拠
続きを楽しみにしております♪

ところで、占ってみたら太陽逆→節制逆→審判と出たので
行き当たりばったり→しっちゃかめっちゃかに→しかし結果は思いもかけず素晴らしいことに
ということなので
次作も行き当たりばったり方式でいいみたいでした
なのでそうします

匡介 | URL | 2009/11/29(日) 01:03 [EDIT]
>シークレットさん
いや、何度でもどうぞ(笑)
前半の件は別口でお返事させてもらいますね~。

「台詞回しがいつもより生き生き」っておそらくそうだと思います。鋭い(笑)
今回は台詞がメインと言ってもいいくらいなので、いつもより台詞に力が入ってるんですよ(というか台詞を楽しんで書いてます!)。

天才とは99%の努力と1%の霊感!だとか誰かが言っていたような気がしますが(正確かは曖昧)、
僕にはその1%が足りないので、どんなに頑張っても天才的なものは書けません。嗚呼、残念。

でも、もしかしたら1%あるのかも? とポジティヴ・シンクで今後も書いていきますよ!!

1%がなければ凡人で、99%努力しないと天才かわからないなんてなんて厳しいんだ!!
きっと努力できることも才能に違いない!! ということは100%才能に依存しているのか天才は!?(笑)

匡介 | URL | 2009/11/29(日) 01:11 [EDIT]
>ライムさん
そう! 今回は軽快です!(笑)
自分はコミックに囲まれながら(むしろ囲った?(笑))生きてきたので、マンガの持つライトなスタンスというのが自然と身に付いているのかも!?

最初、「占われた!?」と思ったのですが、ライムさん自身のことでしたか(笑)
でもそれってすごく強運を味方にしているのでは!? もう一緒に行き当たりばったり道を突き抜けましょうよ! ……俺も同じ結果だといいのに!!(笑)

ライムさんの行き当たりばったりな次回作を楽しみにしてます♪

ポール・ブリッツ | URL | 2009/11/29(日) 17:47 [EDIT]
でもライトという割りには、昔の60年代劇画のような「4畳半・ドロドロ・愛憎・貧乏・悲惨」話しか続きの展開が思いつかないんですが(^^;)

我ながら古い人間ってやですねビンボで暗くて(^^;;) 反省してます(^^;;)

匡介 | URL | 2009/11/29(日) 19:24 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
劇画風にしないでください(笑) むしろそっちの方が思いつきませんでしたよ!
それは古いというか個人の趣味のような気がしますが、どうなんでしょうか?(笑)

そんな昼ドラちっくにはならないはずです!!

…たぶん(笑)

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