FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/11/26(木)   CATEGORY: 短篇小説
コピー人間
 ゴールデンウィークも残すところあと2日。五木 双と有川 都がこうして一緒にいられるのも明日までだった。
「双君、明日には帰っちゃうんだね」
 都が寂しそうな表情で言った。
「ああ。ずっと一緒にいてあげたいけど、俺にも仕事があるし。残念だけど帰らないと」
 双と都は遠距離恋愛だった。同じ大学ということで付き合い始めた2人だが、大学卒業後、都は地元の会社に就職し、科学者を目指していた双は本格的な研究をするため東京へと進んだ。それからもう3年。双が都を養えるようになったら一緒に暮らそうと言っているが、それはいつのことになるやら。本当は今すぐにでも都が今の仕事を辞め、双のところへ行きたいのと思っているのだが、現在は未曾有の大不況、そして就職難だった。少しばかり貯金があることはあるが、それが尽きるまでに仕事を見つけられる自信もなかった。
「うん、わかってる」
「アルフレッド・ベスターの小説みたいに、人間にはジョウントできる能力が備わっていればいいんだけどね」
「ジョウント?」
「つまりはテレポーテーションってことかな」
「へぇ~。それがあったら会いたいときにすぐに会えちゃうね! それか双君が2人いてくれればいいのに。仕事に行く双君とわたしと一緒にいてくれる双君」
「そうだね。――いや、待てよ?」
「どうしたの?」という都の問いにも答えず、双は慌てた様子で「ちょっと出掛けてくる」とだけ言い残し、去ってしまった。


 ***


「久し振りだな、双」
 脂ぎった長髪を後ろで束ねた、薄汚れたといってもいい男が椅子にもたれかかっていた。
 双はその男に近寄った。何日も風呂に入っていないのか、ひどく臭う。
「よう、マモー」
「変なあだ名で呼ぶな」
「別にいいじゃないか。お前の数少ない友人なんだから」
 マモーはひどく濃いクマを従えた鋭い眼で、双のことを見遣った。「それで、何の用だ?」
「お前の研究の成果が知りたいんだ」双はゴクリと喉を鳴らした。「もし実験段階にあるのなら、俺を使ってくれないか?」
「……お前、正気か?」
「ああ。俺はマジだよ」


 ***


 もう帰りの新幹線の時間まで数時間ほどだというのに、双は帰ってきていなかった。せっかく一緒にいられる貴重な時間だというのにどこへ行ってしまったのか。都は悲しいような苛立たしいような、いろいろな気持ちがないまぜになった落ち着かない心情で双を待っていた。
 ガチャリ。玄関のドアが開いた音がした。
「やあ、都。ごめんごめん!」
「ごめんじゃないわよっ! 急にいなくなったりして、そのまま帰ってこないし! 心配だし不安だし一体何してたの!? せっかく一緒にいられる時間も、もうほとんどなくなっちゃったじゃん!!」
「それが…今日帰らなくてもよくなったんだ」
「――え?」
「ジャジャーン! って効果音も古いかな? 見てよ、俺がもうひとり!」
 都は自分の目を疑った。確かにそこにいるのは2人の双。そっくりさんでも双子でもなく、まさしく瓜二つの、双のクローン人間でもあるかのような双がそこには立っていた。
「え? え? それってどういう? どっちが双君?」
「まぁ、どっちも俺なんだけど、ずっと都と一緒にいたのは俺の方かな」
「じゃあ、そっちのは?」
「俺のコピー」
「コピー? それってつまり、クローン人間ってこと?」
「惜しいけど、正確には違うかな? クローンって正確にはオリジナルとは違う存在だし、そもそも年齢に差が出ちゃうから。そうだな、これはコピー・クローンってところ?」
「いや、意味がわかんないよ」
「こいつは体はもちろん性格も全く同じなんだ。それどころが記憶も一緒。俺の友人に人間のコピーを作る研究をしているやつがいるんだけど――ちなみにそいつはコピーを作ることで人間は不死の存在になれるとかなんとか言って研究してるんだけど――そいつに力を貸してもらって自分のコピーを作っちゃった」
「えー!! なにそれ、信じられない…」
「うん。俺もちょっとこの現実が信じられないくらいだよ。まさか本当に成功するとは」
「じゃあ、双君は帰らなくていいの? これからはずっとわたしと一緒にいてくれるの?」
「ずっと一緒だよ。向こうの研究のことは、このコピー君に頼むことにしたから。何もかも同じなんだから研究には全く差し支えないし」
「そっか! 嬉しい!」


***


 双と都が一緒に暮らし始めて1年が経った。双も地元で安月給ながら仕事を見つけ、2人で幸せな毎日を送っている。裕福な生活ができなくとも、それは2人にとっては些細なことのようだ。

 ヴヴヴヴヴ……

 双のケータイがヴァイヴした。誰だろう? 電話に出てみる。「もしもし?」
「…俺だけど」
「ああ、君か。研究の方はどう? はかどってる?」
「それは順調だよ。――ところで今まで何度かお願いしたけれど、たまには交代してくれいなかな? 研究はとても有意義だし、やりがいがあるのだけれど、俺もたまには都に会いたいよ」
「それだと君を作った意味がないじゃないか」
「でも――…」
「その話は今度にしよう。俺もこっちの仕事にやっと慣れてきたところなんだから。お前はこっちの仕事はやったことないだろ? せっかく給料も少し上がりそうなのに、何もかも未経験者がやったら台無しだろ? もう少し安定したら、機を見て交代しよう」
 双は通話を切った。


 ***


「ただいまー」
「ああ、おかえり」
 都は仕事から帰ってくるや否や双に抱きついた。「今日も疲れたー」
「はは、お疲れさま」
「…あれ? 双君、ゴハンの準備は?」
「え?」
「えー、今日は双君の番でしょー? 早く終わるからゴハン準備して待ってるよって言ったの双君じゃん。今夜は鍋だって楽しみにしてたのに――あっ! もしかして買い物にも行ってない?」
「あー……ごめん!! 今日はちょっといろいろあってすっかり忘れてた!! 今すぐ買ってくるよ!!」
「えー、だったら別にいいよ。じゃあ今日はどっかに食べに行こっか?」
「そうだね。ゴハン忘れてて本当にごめん」
「双君が何か忘れるって珍しいよねー。まぁ、許してやろう! その代わり双君の奢りで!」
「いいよ。何が食べたい?」
「おお、安月給のくせして安請負いしますなぁ~」
「今日は“いろいろ”あった代わりに、お金はあるんだ。今日の俺はいつもとは違うよ」
「じゃあ、贅沢しちゃうぞー?」
「仰せのままに」
 都は双の腕を取って外に出た。そのとき彼の口元がにやりと歪んだが、それは誰も知らないことだった。




<作者のことば>
前回に引き続き暇潰しのSF短編。
どちらかというとこちらの方が現実味を帯びている。

よく記憶まるごとコピーして不死になろうとしてるやつ(あるいはなってるやつ)をフィクションで見るけれど、彼らは本当にそれでいいのだろうか? コピーでも、それは別人じゃないのだろうか。コピーがいれば死ぬのは怖くない? いやいや、俺は怖いなぁ。
アクメツの記憶を統合できるシステムって素晴らしいけど、俺は5世代くらいに生まれて、あとはその才能をフルに活用して生きたい。つーか、アクメツの残り数巻だけ持ってないんだよなぁ。買いに行こう。

ちなみに、これを書いたあと奇遇にも「ツバキの寺」として有名な霊鑑寺の樹齢300年以上ある「日光椿(じっこうつばき)」のクローン化が成功した、というニュース記事を見た。
その記事を見た限り、何が凄いのかさっぱりわからないのだけれど、何か有名な理由でもあるのか? 日光椿は滅多に殖えないとか? どうにも情報が足りないニュースだと思った。

さらに話は変わるが、自分のドッペルゲンガーに出会うと死んでしまうって有名な話がある。
これってSF的ドッペルゲンガーになるなぁ、と書いてから思った。


結論:自分が2人いるとろくなことにならない。



←応援してくれる人はclick!!
[ TB*0 | CO*6 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する

ライム | URL | 2009/11/26(木) 18:17 [EDIT]
最近、精力的に執筆していますね
というか、これ昨日着想したやつですよね
書くの速っ!

これ、すごく分かりやすい感じのお話にしてみましたか?
乗っ取られましたね
今回、流血はないですが オリジナルはどこへ……?

匡介 | URL | 2009/11/26(木) 21:50 [EDIT]
>ライムさん
何を仰いますやら(笑)
ライムさんの方が断然精力的でしょう! それに俺より書くのも早いんじゃないですか?

思いついたのをそのまま書いたので、大したことないですよ~。

ええ、乗っ取られちゃいました!
ライムさんまさか俺=流血ってイメージあるのでは?(笑)
そのパターンも考えたのですが、あえてぼかす方が想像が膨らんで怖いかなって思ったので。
別にホラー意識して書いたわけではないですが、「想像するホラー」が個人的なテーマのひとつなので、今回はぼかしてみました。

なのでオリジナルの行方は想像にお任せします(笑)

のらねこ とら太 | URL | 2009/11/26(木) 23:53 [EDIT]
面白かったデス。ホント。
短編がよくここまで纏まるなぁ~とつくづく感心してしまいます。

あ、今、作品一覧から忍び込み上からコツコツと読ませていただいてます。・・・まだ短編の半分くらい?ですか。ガイコツ①までで。読むの遅くてスミマセン。でも楽しいです、読むの。
またお邪魔させていただきます。

あ、樹齢300年の椿のクローンが一年育ったら、301歳になるんですかね?やっぱり一歳でしょうか?クローン細胞だからといって、いきなりマスターと同じ大きさで誕生しませんよね・・・たぶん。
これがニンゲンだったら「見た目は赤ちゃんだけど実は300歳なんですよ。」ということに???

匡介 | URL | 2009/11/27(金) 00:40 [EDIT]
>とら太さん
お読み頂き、ありがとうございます♪
個人的には長く書ける人の方が凄いなぁ、って思います。
短編なんて無駄を省いた分スマートなだけで、一見するには見栄えいいですけど、案外簡単ですよ(笑)

てか、作品を全部読まれるつもりですかっ!?
すごい嬉しいですけど……怖いなぁ。上から読まれてるってことは、あとからシリーズ物に入るってことですよね。…あー、古いやつが(笑) 恥ずかしい(笑)

クローンはコピーと違うので、やはり0歳から始まって1歳2歳ってなります(おそらく)。
つまりは同じ遺伝子を持っているということに集約されてしまうので、人で譬えるならひとりで子供を生んでいるようなものでしょうか? 極端にいえば単細胞生物の分裂に近いです。
でも操作次第では発育の促進は出来ると思うので、1年で10年分の成長が!なんてこともありえるかもしれませんね。

ただ、あとでよく記事を読んでみたら「クローン」ではなく、「クローン化」と書いてました。本当に情報が不足している記事でして(信じられないほど!!)、詳しいことはさっぱりなのですが、科学技術の賜物…とは違うようです。なんか、枝切ってそれを植えた、みたいな?←もはや自分にはどこからクローンで、どこまでクローンなのかわからなくなってしまいました!!

またコメント頂けると幸いです。
是非、作品のご感想をお教えください! …怖いけど(笑)
● イマサラでスミマセン。
のらねこ とら太 | URL | 2009/12/01(火) 21:13 [EDIT]
枝切って植えた・・・って普通の挿し木ですよね・・・?
それもクローン化っていうのかな。

それはそうと、読みますよ!上から下までガツガツと!(笑・・・なんかスゴクやる気満々)
沢山あるので楽しみです。
感想文・・・頑張りマス。ホント、ボク、文章書くの下手なんで(特に感想文。レポートとかならまだ何とかなるんですけど。ぅぅ)

匡介 | URL | 2009/12/01(火) 22:43 [EDIT]
>とら太さん
クローン化って何なんだ、って話ですよね(笑)
あれは全く以って、当てにならない記事でした!!

読んで頂けるだけで充分ですよ(笑)
感想くださるとしても、いわゆる感想文みたいな感じじゃなくて構わないので。
もう簡単に思ったことをそのままコメントしてくださればそれだけで嬉しいです。

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ