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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/10/24(土)   CATEGORY: 短篇小説
鬼憑-復讐代行人-(8)
 勇也は目の前に立つ女のことを思い出していた。そして自分がした悪魔のような所業を悔いた。彼女に謝りたかった。
 涙と洟、そして涎が溢れ、勇也の顔は小さな洪水が起きていた。「許してくれ!! 本当に済まない!! この通りだ!!」
 生まれて初めて、勇也は土下座をした。心の底からの土下座だった。
「ユルスモノカ!!」
 女は、どこから出したのだろうか、包丁を持っていた。それを勇也に向かって突きつける。
「すまん!! 本当に!! ごめんなさいいいぃぃ!!!」
 女の顔はひどく歪んでいた。それが笑みだとは誰も思わないであろう、歪みだった。
「ソレガ見タカッタ…。オマエノ女ヲ殺シ、オマエヲ追イ詰メ、絶望ト後悔トイウ奈落二突キ落トシタカッタ…。ソシテ、必死二謝ルオマエヲ見テ、ワタシハ言イタカッタ……」


「ユルサナイ」


 勇也は絶望の奥底へと突き落とされた。どこかで、どうにか許してもらえるのではないかという楽観的な気持ちがあった。しかしその望みはないのだと悟った。この女は最初から許す気などない。苦しむだけ苦しめて、そんな俺の姿を眺めて、その上で許すつもりなどなかったのだ。勇也は自分の犯した罪の大きさを知った。今までの自分を呪った。
「……モウ死ネヨ」
 包丁が勇也の腹部に突き刺さった。じわりと痛みが広がり、そして激痛に変わった。
 勇也は痛みに叫んだ。しかしその叫びも、彼女の心の痛み、その叫びに敵(かな)うのだろうか。

「もうやめろ」

 声がした。誰の声だろうか。今度は聞き覚えがない。
「鬼よ、お前の魂を今向こうへと送ってやる」
 男の声だった。
 気付くと目の前に男が立っていた。髪も眼も肌も、着ている着物のようなものでさえ真っ白だった。髪は長く、腰まであった。その貌(かお)、そして躰にはおびただしいほどの傷痕が見えた。生気はまるで感じられない。
 勇也は男に対して、静かな恐怖を抱いた。
 白い闇。
 それが男に印象だった。清々しいほど透き通った空気を身に纏っていながら、何も見えない暗闇の中にいるような錯覚に陥らせられる。不可解なオーラ。
「ジャマヲスルナァァアアアアア!!!!」
 女は叫びながら男に飛びかかった。
「今、楽にしてやる」
 男は片手に握った太刀――歴史で習った青銅の太刀に似ている――を振り上げ、薙いだ。
 太刀の刃が女を切り裂く。
 女の躰が真っ二つに寸断され、激しい血が吹き荒れた。
 その地獄絵図のような光景を、勇也は美しいとすら感じた。
 気付けば、目の前にいるのは女ではなく男に変わっていた。男は力尽きたように崩れ落ちた。
 太刀を持った男がそれを眺めるように見おろしていた。
 勇也は力を振り絞るようにして言った。「お前は…?」
「不動」
 男は白い髪をなびかせて言った。
「怨恨の念を抱いたまま死ぬと、人は稀に≪コトヨ≫という場所で鬼になる。そのうちのいくらかの鬼は≪コトヨ≫を這い出て現世へと降り立つ。現世に出た鬼はそれだけでは大したことは出来ないが、中には人の躰を借りて復讐しようとする場合もある。それを鬼憑きと呼ぶ。鬼に憑かれた人間は元の人格を失って、鬼の意のままに動くことになる。鬼の力によって、身体能力が飛躍的に上昇することもある。それが、お前が見たものの答えだ」
「それで、お前は何者なんだ?」そう言ったつもりが、声にならずに空気だけが口から漏れた。
「それにしても」不動は背を向けて言った。「余程恨まれてたんだな。彼女に」
 すっと痛みが引いて楽になった。――助かったのか?
 勇也は躰に力が入らず、アスファルトの地面に倒れ込んだ。
 ――そんなわけないか。腹からの血が止まらない。


 ――俺は……死ぬのか。


 ふと意識が遠退くのを感じた。視界が狭まっていく。
 そこにはもう不動という男の姿はない。
 ――死。
 どんなものだろう、と勇也は思った。死んだら怜奈に会えるだろうか。
 いや、俺は地獄に落ちるんだろうな。悲観的な考えが頭をよぎる。
「そういえば」
 ――これはちゃんと声になっているのだろうか。
「キリスト教じゃあ確か、自殺は大罪だったよな」
 仏教ではどうなのだろうか。わからない。ただ、嫌でも“彼女”とはまた会うような気がした。そして怜奈とは、――来世あたりで会えるのだろう。


 勇也は忍び寄る死を実感した。


 深い闇が彼を包み込んだ。


 
 (了)


<作者のことば>
完結。
最後に現れた「不動」って誰?って思われるかもしれませんが、そう!! 実は「鬼憑」って彼が鬼憑きを退治していくアクション系の話として考えていたのです!!
なのに、なのに出来あがってみればまさかのジャンル違いに作者もびっくり(笑)

でも、これはこれでよかったと思っています。
いくつかの要因があってこのような作品に仕上がりましたが、「不動が鬼憑きを退治していく話」がずっと前から頭にあったにも関わらず、今まで書けなかったのは、物語が“今”を望んでいたのではないかと、ふとそう思ってしまいます。
自分はプロットを練りに練って、巧みな伏線と文章力を以て物語を進めていくタイプの人間ではありません。いくつかのパーツのようなアイディアがたまたま合致して、その全体像が見えないまま書き出してしまうような行き当たりばったりタイプの人間です。パズルのピースは持っているけれど、完成したときの画は見えていないのです。
そんな自分が何の躓きもなく、ドンドンと書き進められてるときって物語が要求してるなって思ってしまう。「こんな風に書けよ」って。そんな物語の要求に俺は必死に応えようとする。物語が要求するレヴェルの筆力で書こうと思う。物語に喰らいつく。そうして出来た作品は、自分で読んでも面白いなって思う。
プロの作家と比べたら大したことないかもしれないけれど、自分の実力を出し切った感があるのだ。今の俺の実力はここだなって素直に認められる。

今後も物語の要求に応えていきたい。
物語に見放されることのないよう、全力を出し切って書いていきたい。

不思議だけれど、もっと面白いものが書ける、と思ってしまう。
以前の上を行ったという自覚があるから、いずれまた今のさらに上に行くんじゃないかって。

だから書くことはやめられない。素直に、楽しい。
今はまだ自分ひとりが面白いと思うようなレヴェルだけれども、いつか多くの人が面白いと思えるような物語を書くことが出来たらどんな快感だろうか。そう思うとワクワクする。

この気持ちがある限り、俺は書き続けたい。


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COMMENT

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● お疲れ様でした~♪
鷹の爪痕 | URL | 2009/10/23(金) 11:45 [EDIT]
祝☆完結♪

とっても面白く、また惹き込まれるように読ませていただきました!!

シリーズ化して欲しいと願っちゃいたいくらいです(^^ゞ
でも匡介さまは匡介さまの考えで、シリーズ化にはしてないんですよね(汗)

>自分はプロットを練りに練って、巧みな伏線と文章力を以て物語を進めていくタイプの人間ではありません。~パズルのピースは持っているけれど、完成したときの画は見えていないのです。

の一文は凄く納得です!というか私も同じような感じで書いているので(;・∀・)
ピースは散りばめられているし、ラストも決まっている…でもどうしても筆が進まない、というか書けない時って「あぁ、時期じゃないんだなぁ」と思ってます。
反対に薄ボンヤリとしか頭の中では出来ていないのに、すらすらと筆が進むこともある。

う~ん、書けば書くほど「難しいなぁ」と思う今日この頃です(^^ゞ

兎にも角にもお疲れ様でした!!
新作も楽しみにしておりますッ♪

ライム | URL | 2009/10/23(金) 12:12 [EDIT]
完成おめでとうございます
お疲れさまでございました
スプラッタ! グロ!
スプラッタとグロをリアルに表現できる筆力はただものではありません
ひそかに待った甲斐がありました
これはシリーズなのですか?
だとしたら楽しみです
ちなみに私だったらあの世や来世に行ってまでも勇也のような奴に再会したくはないです><

匡介 | URL | 2009/10/23(金) 15:17 [EDIT]
>鷹の爪痕さん
ありがとうございます♪
シリーズ化は…ありえなくはないです! でも、そのときは今回とはまた違ったテイストになりそうですね。まだピースも揃っていないので、半信半疑くらいでシリーズ化を待っててください(笑)


匡介 | URL | 2009/10/23(金) 15:24 [EDIT]
>ライムさん
ありがとうございます!
シリーズ化は未定ですが…出し切れなかった設定があるので、いずれ書けたらいいなぁって思っています。そのときは同じテイストかどうかはわかりませんが!

『スプラッタ! グロ!
スプラッタとグロをリアルに表現できる筆力はただものではありません
ひそかに待った甲斐がありました』

嬉しいですe-420
スプラッター映画とか好んで観ているので、やっぱ好きなものを書くときは文章のノリが違うのでしょうか?(笑)
今後もそう言ってもらえるよう気合いを入れて書いていきたいと思いますので、それまでお付き合い願えたら幸いです♪

卍リシャール卍 | URL | 2009/10/23(金) 17:17 [EDIT]
完結おめでとうございます。

どうも最近忙しすぎて、書くほうも読むほうもおろそかになってしまい誠に申し訳ございません。
内容も知らないままコメントをするのは失礼かと思いましたが、完結なさったと聞いてコメントさせて頂きました。

私も早く完結させたいですよ・・・
大変うらやましい限りです。

匡介 | URL | 2009/10/23(金) 18:33 [EDIT]
>卍リシャールさん卍
おお、わざわざ(笑)
ありがとうございます♪

まあ、完結すればいいというわけでもないと思うので、ゆっくり作り上げていけばいいと思いますよ。

それと是非時間が空いたときでも改めて読みに来て頂けると嬉しい限りです♪

のらねこ きぢとら | URL | 2009/10/25(日) 13:29 [EDIT]
終了お疲れさまでした。
最後が気になるけど、最後にしてほしくない・・・というか。結末が欲しくても、見たら終るし・・・と思うとジレンマ?です。
また新たな世界の構築を楽しみに待ってます。

匡介 | URL | 2009/10/27(火) 07:53 [EDIT]
>のらねこ きぢとらさん
コメントありがとうございます。

ありますよね~、そういうジレンマ的なものって。
「新たな世界の構築」とか言われちゃうと恐れ入るというか、そんな大層な言葉で表現されるほどではないのでどうしようみたいに思っちゃいます(笑)

もしかしたら時間がかかるかもしれませんが、次回作を待って頂けたら嬉しい限りです。

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