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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/10/12(月)   CATEGORY: 短篇小説
鬼憑-復讐代行人-(3)
 テレビ画面の明滅が部屋を照らした。画面の中では突然変異を起こしたウィルスによってゾンビと化した人間が――正確には人間だったものが――正常な生きた人間を襲っていた。恐怖に悲鳴をあげる人間に構うことなく、その皮膚に歯を立てズブリと喰い込んだ。痛みに、悲鳴が大きくなる。血が飛沫を上げ、滴り落ちた。ゾンビは噛みちぎった人肉をクチャクチャと噛み、飲み込んだ。それを繰り返し、人を喰らう。
 携帯電話が鳴り出した。
 ――おかしい。映画を観るときはいつもマナーモードにしているはずなのに。
 勇也は首を傾げ、映画の邪魔をされたことに少々憤りながらも携帯を手に取り、ディスプレイに目を落とした。そこには<怜奈>の文字。
 着信したメールを開くと、そこには赤い文字が記されていた。
『痛い。苦しい。助けて。助けて助けてたすけてたすけてタスケテ……』
 赤い文字から液体が浮き上がり、滴り落ちた。まるで血のように。
 うわあっ!! 勇也は悲鳴をあげて、携帯を手放した。それは垂直に落下し、激しい音を立てて床に落ちた。
 ギィィ…と音が聴こえた。
 見るとドアが開いている。
「勇ちゃん……、助けて、ねえ助けて。わたし痛い、苦しいよ。とっても苦しいトッテモ苦シイヨ……」
 怜奈だった。
 彼女はゆっくりとした歩調で勇也に近寄る。
「怜奈…、どうしたんだよ」

「ネエ、トッテモ苦シイノ」

 怜奈が何かを落とした。

「ワタシ死ンジャッタ…」

 それは肉片だった。血にまみれた、おぞましい塊。
「お、おい…」
 肩から勢いよく“腕”がずり落ちた。
「ワタシ死ンジャッタヨ…。デモ、ドウシテコウナッタノカワカラナイノ…。ネエ、ドウシテカナ…? ドウシテワタシハ死ナナキャナラナカッタノ…? ネエ、勇チャンハドウ思ウ……?」
 ゆらりゆらりと、幽鬼の歩みで怜奈は前に進んだ。
 勇也は嫌な汗が噴き出るのを感じた。口内が乾燥し、寒気がした。意識が鋭く冴えていくのに反比例して、感覚は失われていくようだった。視覚は働いているが、触覚は機能していなかった。いつの間にか、後ろに這うように、床に手をついていることすら本人は気付いていない。他の感覚も麻痺していた。おそらく今は何を食べても何も感じないだろうし、その匂いもわからないに違いなかった。かろうじて聴覚は残っていたが、それを処理する脳は正常ではなかった。途中から怜奈に言っていることを理解出来ていない。声は聴こえるが、言葉としての認識は不可能だった。怜奈の口から漏れるものはもはや音としか認識出来ず、そこに意味は存在していない。
「うわあああああ!!」
 彼は叫んだ。しかしそれすら認識をしていない。今の彼は自分が叫でいることに気付けもせず、無意識に後退していた。
「勇チャン、ドウシテ離レルノ…? ワタシカラ逃ゲルノ…?」
 まるで先程まで観ていたホラー映画さながらのシチュエーションだった。ゾンビと化した彼女に、これから喰われようとしている憐れな男……。
「俺は――」


「俺ハマダ死二タクナイッッ!!」


 恐怖で意識が遠退いた。




<作者のことば>
当初の予定とは数日遅れての、第3話をお届した。
まあ、そうなっても問題視するのは予定通りに事が運ばず多少のストレスに苛まされる自分くらいなのだが。ポジティヴに受け止めるなら、1話分がヴォリュームに欠けるなと感じた作者が話数を減らして1話1話のヴォリューム(長さ)を優先したことにより当初の考えとは裏腹に早く連載が終わってしまいそうで早く次の作品のことも考えないとまた作品と作品の間にブランクが出来てしまう! と思っていたところ若干の猶予が与えられて心底ほっとしている(笑)

今回のゾンビ的描写の背景として、ゾンビ映画大好き匡介が最近久し振りにゾンビ映画を観たことによる影響が大きい。
「デイ・オブ・ザ・デッド」をキッカケに「ランド・オブ・ザ・デッド」「ドーン・オブ・ザ・デッド」って立て続けに観たせいに違いない。個人的感想を言わせてもらえば「ランド・オブ・ザ・デッド」はジョージ・A・ロメロ監督という――…(中略)
ちなみに田原勇也が観ていた映画は「デイ・オブ・ザ・デッド」という裏設定がある。あれは良いゾンビ映画だったのでオマージュ的な気持ちを込めていたり。

そんなわけでゾンビ映画の影響も受けて今作は成り立っているのだが、他にも過去の自作作品で得た表現(行間の間隔や太字を利用した読む以外の視覚効果など)を使用したり、今までの経験の蓄積が今の作品を生み出してるんだなぁ、と思った。
あと読み返してみて、今までだったら出て来なかったであろう文章表現があることに気付いた。これも最近読んだ小説の影響かもしれない。無意識に得た新たな文章的アプローチに気付き、時間とともに経験は増え、経験とともに変化している自分を自覚する。これがまた経験の蓄積になり、今後の作品に影響していくのだろう。
もっといろいろな経験をしたいな、と思う。今はもったいない時間の使い方をしている。もっと良い経験の得られるような、充実した生活を送りたい。それには今度は意識的に自分を変化させないといけないなぁ。
人は変化する。良くも悪くも生きるということは変化する、ということなのだろう。

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COMMENT

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● こんにちは!
鷹の爪痕 | URL | 2009/10/13(火) 11:58 [EDIT]
おぉ!
臨場感たっぷりの作品でした(;・∀・)

ゾンビが…ゾンビがぁ( ;´Д`)いやぁぁぁぁぁー!
えぇ、私だったら本当に奇声を上げて逃げまわることでしょう!
逃げ足の速さと追いかけることには自信があります(笑)
テレビの中のゾンビも、怜奈に襲われている時の描写も素晴らしかったです♪

>人は変化する。良くも悪くも生きるということは変化する、ということなのだろう。

とても印象に残った言葉です。
その事に気付いた時点で、既に新たな変化の一歩を歩まれたのだなぁ、と思いました(^^ゞ

匡介 | URL | 2009/10/13(火) 12:29 [EDIT]
>鷹の爪痕さん
書いてて、「ハッ! 何故ここにゾンビが?」って感じでした(笑)
そんな予定あった? みたいな(笑)

ゾンビが…ゾンビがぁーe-343e-343Σ(///∀///e-420
俺だったらあるいはこんな感じかもしれません。……って変態か!(笑)
好んでゾンビ映画を観る人の大半はマニアックなゾンビ愛を持っていると思うのですが、実は自分もそのひとりです。いずれはちゃんとしたゾンビ作品を書いてみたい!と思っているのですが、もしかしたら今回のこの描写はその試験的な意味合いになるのかな?
ゾンビ映画はよく観るけれど、小説では読んだことないから表現にちょっと悩みました。今後もっともっとゾンビ感を追求していきたいですね(笑)

その一歩から次の一歩がまた大変なんですよね~。
ああ、いつもそこで立ち止まってるような…(;- -)

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