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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/10/08(木)   CATEGORY: 短篇小説
鬼憑-復讐代行人-(2)
 携帯電話の着信で、寝ているのを目覚めさせられた。
 ――クソ誰だよ。
 田原勇也は携帯電話のディスプレイを眺めると、そこには知らない番号が映し出されている。相手のわからない電話に、出るか出ないか悩んでいるとコールはやんだ。
「あー、何なんだよ」
 かけ直すべきか――? 一瞬そう思ったがその考えは打ち消した。誰だかわからないが、必要だったらまたかけてくるだろう。そう思い、再び眠りに就こう目をつむると、それを妨げるようにコール音が鳴り始めた。「あー、誰なんだよ! 人が寝るのを邪魔しやがって!」
「もしもし? アンタさー、時間考えて――」
「夜分遅くにすみません。田原勇也さんでしょうか」
 思わぬ言葉に、勇也は一瞬いぶかしんだ。
「そうだけど、アンタ誰?」
「こちら――署の井上と申しますが」警察? それが何の用だろうか。「川合怜奈さんをご存じですね?」
「ああ、はい。知ってますけど」
 勇也はわけがわからなかった。怜奈がどうかしたのか? どうして俺の携帯に? もしかして何かやらかして捕まったのだろうか。そして俺の名前を出したとか――?
 ありえる、と彼は思った。怜奈はばかな女だからくだらないことをやらかして警察の厄介になったというのは想像に難くなかった。そして俺の名前を出して助けを求めようとでもしているのだろう。
 ――面倒なことになったな。
 これならさっさと部屋に来させればよかったかもしれない、と少し後悔した。
「怜奈が何か?」
勇也は訊いたが、その答えはすぐにはなかった。「怜奈さんとはお友達で?」
「はあ。そんなところです」
「その、大変申しあげにくいのですが、午後8時過ぎに川合怜奈さんは駅のホームから落下しまして、お亡くなりになりました」
 ――は? お亡くなりに? 駅のホームから落ちた?
「そ、それってどういう?」
「ですから、怜奈さんは電車に轢かれてお亡くなりになりました」井上の言葉は素直に頭に入って来なかった。まるで異国語のようだ。「まことにお悔やみ申し上げます。このたびはご愁傷様でございます」
 口内が急速に乾燥したように思えた。喉が渇いた。
「大変ショックなところ申し訳ないのですが、出来れば身元確認のために、一度こちらまでおいでいただくことは出来ないでしょうか」
「はあ。身元確認に」それは意識したものではなく、耳から入った言葉をただ繰り返しただけのようなものだ。「身元確認…」
「ええ、本当にお辛いところ申し訳ないのですが」
 怜奈が死んだ。
 それはひどく実感のない言葉だった。現実味のまるでない、無意味な音の発生に思えた。

 ***

 死体安置場はひんやりとした空気に包まれていた。入った途端に数度気温が下がったように思えるのは気のせいなのだろうか。井上という刑事に案内されて田原勇也は怜奈――だと教えられたもの――が横たわった台の前に立っていた。
「こちらです」目の前には全身に白い布がかけられた物体があった。しかしその膨らみは本当に怜奈のものだろうかと疑念が湧く。それどころが人のそれなのかという思いすら浮かんだ。理由はわからない、直感的なものだ。「実は、おわかりでしょうが、電車による轢死ということは、その、言いにくいんですが、躰がそのままを維持していないんです」
「――はあ」
 勇也は、井上が何を言いたいのかよく理解出来なかった。
「つまり、遺体の損傷がひどく、いわゆるバラバラ状態だったということでして…」
 バラバラ。その響きはこの場にはあまりにそぐわない気がした。
「……それを見るんですか?」
 考えてみれば当たり前のことだった。電車に轢かれて躰が無事であるはずがないのだ。病死とは違う。それに今まで、まったく気付かなかった…。
「いいんですか?」
 井上が問う。戸惑いながら、目で頷いた。
 息を呑み、布を捲った。「そこまででいいです」という井上の言葉に手を止める。あまり捲ると、バラバラだという躰の部分まで見えてしまうのを危惧したのかもしれない。
 顔を見た。白く、生気がなかった。それでも死んでいるとは信じられず、ましてや躰がバラバラだとは思えない。しかし目の前にあったのは――紛れもない怜奈の顔だった。
「…怜奈……」
 思わず声が漏れた。無機質で、感情がどこかに逃げてしまったような声だった。
「怜奈さん本人で間違いないですか?」
 念を押して井上が訊いた。勇也はそれをしつこいと思う力も出なかった。「ええ、間違いないです」
「わかりました。ありがとうございます。――もう少しここにいらっしゃられますか?」
 勇也は何も答えなかった。答えられなかった。
「お気持ちが済みますまでここにいて構いませんので。私は先に失礼させていただきます。どうぞ出るときは表に誰か立たせておきますますので、その者に声をかけてくだされば助かります。では」
 沈黙が返事だと思った井上は、そう告げると部屋をあとにした。残された勇也はぼうっと怜奈の顔を見おろし続けた。
「勇也」
 一瞬そう聴こえた気がしたが、それは気のせいだろうと勇也は頭を振った。怜奈はもう死んだのだ。死んだら何も言わない。もう何も言えないのだ。
 バッと布の下から何かが這い出て、勇也に伸びてきた。彼の腕に、それが絡みついた。
それは腕だった。冷たい感触が彼に伝わる。
恐怖を感じたのはその数秒あとだった。機能が停止した脳が、やっと今の状況を理解して――本当はほとんど理解出来てはいなかったが、現在の異常は判断出来た――腕を振るい、その場から数歩飛び退いた。
 ――死体が動いた!?
 ホラー映画のワンシーンのような出来事だった。乾燥した口をぱくぱくさせながら、怜奈の死体を見た。
 腕は出ていなかった。
 どこにも見当たない。
 ――今のは夢だったのか? 幻?
 一瞬の白昼夢、それもとんでもない悪夢だった。本当に夢だったかどうか、勇也には判断出来なかったが、全身は驚くほどの汗を噴き出していた。
そのうち気持ち悪くなって、この部屋にいることが堪えられなくなり、怜奈に布をかけ直し部屋を出た。



<作者のことば>
諸事情により、ネットが繋がらなくなってしまって微妙な間が空いてしまった。
本当はもっと短くわけて1話にしたいところなのだけれど、文章の量的に今ぐらいがちょうど良いのかもしれないと今は思っていて、当初の2話分を1話にして載せています。長過ぎず、まあまあ読み応えがある長さではないかと思うのだけれど。

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COMMENT

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● こんにちは!
鷹の爪痕 | URL | 2009/10/09(金) 12:09 [EDIT]
読み応えありましたよ~ッ!!
というか、まったく長さが気にならないほどすらすらと読んでました♪

凄く面白いですね!!
早く続きが読みたいよ~、と切望している私です(^^ゞ
(あ、でも急かしてる訳ではないので、ゆっくりと自分ペースで執筆なさって下さいね(汗))

このお話の展開からどのように題名と結び付くのか、とっても楽しみです!!
しかし…ネットが繋がらなくなるとは…大変でしたね(-_-;)

匡介 | URL | 2009/10/11(日) 03:36 [EDIT]
>鷹の爪痕さん
おおー、嬉しいお言葉♪
アイ・アム・マイペース!みたいな人間なので急かされても急ぎませんが(笑)、何の不都合もなければこういった連載モノは1日空いた2日ペースで更新されていくはずです(今のところはネットの方がちょっと…(汗))。

タイトルは構想開始当初から決まっていて、でも今回書いてみての作品の大幅なイメージ変更に伴い、このままでいいか若干悩んだところです。
一応、最終的には結び付くのですが、ちょっと無理やり感があるかもしれません(笑)

まあ、楽しみにしててください(笑)

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