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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/10/04(日)   CATEGORY: 短篇小説
鬼憑-復讐代行人-(1)
 ホームには湿気を含んだ嫌な風が流れていた。見上げると鈍色の重々しそうな空が、今にも降りそうな雨をどうにか留まらせている。憂鬱な空だった。
 もう数歩前に出るだけで線路に落ちてしまうだろう。冷たそうなレールが見える。
 ――もう未練はない。
 彼女は強くそう思った。もう生きていることに何の未練もない。いや、違うか。未練があるからこうして命を断とうとしているのだ。――未練。そう、もう一度彼に会いたい。優しかったあの頃の彼に。
 しかしそれはもう無理だとわかっていた。
 駅のアナウンスが流れる。電車が見えた。彼女は意の決して、一歩踏み出す。視界の隅に車両が滑り込むのを感じた。落ちた。そのとき誰かの悲鳴が聞こえた気がした。そして痛みを感じる間もなく、彼女の意識は途切れた。

 ***

 薄暗い部屋の中、テレビの明かりだけが部屋を照らしていた。画面の中では軍服を着た女性が銃を持って、突如モンスターと化した住民たちに向かって発砲している。ゾンビ映画だ。窓を叩く雨の音を少しわずらわしく思いながらも、田原勇也は明滅する画面に見入っていた。スピーカーから悲鳴と銃声が鳴り響く。
 急に、ソファが振動を始めた。地震、ではなかった。勇也の携帯電話が小刻みに震えているせいだった。小さく溜め息を吐き、2つ折りの携帯電話を開く。「何だよ、まったく」
 ディスプレイを見るとメールの着信が1件と表示されている。誰かと思ったら怜奈だった。
『いまバイト終わったからこれから行っていいー??』
 まだ映画を観始めたばかりだというのに。勇也はひとりで静かに映画を観るのが好きだった。それに怜奈がこれを観たら「キャー!」だの「こわいー!」だのわめき、騒ぎ立てるに違いないだろう。勇也にはホラー映画を観るときの鉄則がある。夜に、部屋は暗く、静かに、ひとりで観る。返事は決まっていた。『無理』
 見逃した分だけ巻き戻すとまた携帯電話が振動した。今度は電話だった。「はい?」
「勇ちゃん、なんでダメなのー?」
「映画観てるから」
「だったら一緒に観ようよー」
「ホラーだし、観れないだろ」
「怖かったら勇ちゃんにしがみつくから大丈夫だもん」
 ――それがうざいんだよ。
勇也は心中で舌打ちをした。「とにかく無理だから。来ても入れないし」
 終話ボタンを押して強制的に電話を終えると、もう邪魔されないよう電源を切った。その携帯電話をソファに放る。少しくらいわかれってーの。ホント学習しない女だ。
 テーブル上にあるペットボトルに入ったコーラを取ると、ボトルから直接ごくりと飲んだ。機嫌を録り直し、リモコンを手にして、再生ボタンを押す。画面の人物が再び動き出した。

 ***

 半ば無理やりに、通話を切られた川合怜奈は、雨の中つまらなそうに傘をさして歩いた。
 勇也はカッコイイし、面白い。一緒にいて楽しい。しかし機嫌が悪くなる一線を多く持っていた。彼が一緒に映画を観ることを嫌がることはわかっているが、わかりきっているが、それでも怜奈は勇也と一緒に観たかった。内容は何でもいい。ホラーは苦手だ。だけど、それを観る勇也を見ていたいと思う。それすら、ダメなのだろうか。わからない。きっとわたしはばかだから、つい勇也の機嫌を損ねてしまう。
 雨脚が強まるのを感じた。急いで駅へと向かう。構内に入ったときには傘をさしていたにもかかわらず、少し濡れてしまっていた。閉じた傘を絞ると、雨水が垂れた。
 時計を見ると電車の時間が迫っていた。駆け足で改札を抜けるとホームに出る。ちょうど線路上を走る電車が見え始めたところだった。「ふう、間に合ったー」
「お前みたいな女が――…」
 背後から声が聴こえた。――誰? 怜奈は息が止まりそうになった。その声はおびただしい悪意を帯びていた。そしてその矛先は自分だと直感した。あまりの恐ろしさに、躰が硬直する。躰が動かない――…
「お前みたいな女が――…」
 声は繰り返された。
 息苦しい。誰なの? 後ろにいるのは誰? わたしが何を――?
 悪意の魔の手が近付くのを感じた。怜奈は息を呑み、意を決して振り返る。

 そこには男が立っていた。一見どこにでもいるような中年だが、異質な空気を纏っている。見上げると鬼のような形相で、狂気に満ちた眼をしていた。

「ひっ」
 短い悲鳴があがった。恐ろしさのあまり、涙が溢れ出しそうだ。

「オ前サエイナケレバ――!!」

 男の手が怜奈の躰に触れた。フッと全身が浮き、その一瞬の浮遊感に肌が粟立つ。
 声をあげたかった。しかしその喉から何かが漏れるより早く躰はホームから線路へと落下していく。停車に向け減速しているとはいえ、人が死ぬには充分な速度で電車が近付く。涙が頬を伝っていくのがわかった。なんで――?

 ホームに血が舞い散った。



<作者のことば>
構想自体は1年か2年前から存在していたにも関わらず、書くには何か充分ではないと思っていて書くことが出来ていたかったのが今回の「鬼憑-復讐代行人-」である。
面白さのほどは……正直保証は出来ない。1年、あるいは2年という月日が変えたのだろうか、書いてみると当初自分が考えていたストーリー、そしてテイストと大きくかけ離れたものになっていた。それがプラスに働いたのかどうかさえも自分では判断出来ていない。

ちなみに後半になるにつれてグロテスクな描写があるかもしれない。
それに加えて、内容も読んでいて不快に感じる人もいないとは限らないと思われます。
そこは各々に判断を委ねますので、自己責任のもと読まれますようお願いしたい。

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COMMENT

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● こんにちは!
鷹の爪痕 | URL | 2009/10/05(月) 10:34 [EDIT]
新作登場ですね♪

確かに「書く時期・書ける時期」ってのがあると思います。
でも今回もとても惹き込まれ、続きが気になる展開ですね!!
視点の変化は私もすごく悩むのですが、すんなりと入っていけました♪

カテゴリが「短篇小説」だからそんなに続かないのかしら?
続きを楽しみに待ってますので、無理をなさらない程度に執筆の方、頑張ってください♪

匡介 | URL | 2009/10/08(木) 00:55 [EDIT]
>鷹の爪痕さん
今回はどこで区切るか本当に悩みました。
どうしたら効果的に引っ張れるかなーっていつも思います。

ちなみに「短篇小説」って結構曖昧で、分けるの面倒なときは全部ここに放り込んでます(笑)

そんな長くならない予定ですが、最後まで読んで頂けると嬉しいです♪

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