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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/07/12(日)   CATEGORY: 短篇小説
真夜中に鵺は啼く
 白髪の男が笑った。
 男は妙に色白で、その瞳は血塗られたかのように赤かった。
 男の笑い声が真夜中の街にこだました。

 ***

 女児2人が通り魔に襲われるというその事件は、近隣住民を怖がらせるには充分な事件だった。2人のうち1人はハンマーで頭部を殴られ、もう1人はナイフで刺され病院へと運ばれた。その1週間後、ハンマーで殴られた女児の死亡が確認された。犯人はまだ捕まっていない。

 TVのディスプレイに映し出された女子アナウンサーが、小学生殺害のニュースを読み上げていた。殺害された小学生の頭部は胴体から切り取られ、そして殺害された小学生の通う学校の校門に置かれていたとのことだった。
 そのセンセーショナルなニュースを観て、男は溜め息を吐いた。テーブルにあったリモコンを手に取り、TVを映像を消した。
 男は再び深い溜め息を吐いて、ハンガーに掛けてあった上着から携帯電話を取り出した。ディスプレイ上に番号を呼び出して、通話ボタンをプッシュした。しばらくコール音が続く。
「ああ、わたしだ。ニュースを観たか? そうだな、観てるだろうな。それだったらわかっているだろう? ああ、やつの出番だ。我々は後始末をしなければならん」
 男は続けて言った。
「そうれも早急にだ。今夜にでも処理を頼む。…あぁ、頼んだぞ」
 男は通話を切り、携帯電話を放り投げた。宙を待ったあと革のソファがそれを受け止めた。

 ***

 ガチャリ。白髪の男が車のドアを開けた。
 後方で、真夜中にも関わらずサングラスをかけた男が言う。
「鵺、いつも通りにだぞ。わかってるな」
 それを聞いて鵺と呼ばれた白髪の男は面倒そうに答えた。「わかってるって」
「今回の目標(ターゲット)はガキなんだろ?」
「ああ。それでもお前と同類だよ」
 鵺は大きく欠伸をした。
「それもいつも通り、か。毎度毎度お仲間をこの手にかけなきゃならないなんて、気が滅入るねェ」
「口元が笑ってるぞ。…それにお前に断る権利はない」
「ハイハイ、わかってますよ」
 鵺は片手を上げて「じゃア行ってきますわ」と言い、目の前にある家の中へと足を踏み入れた。
 サングラスの男は腕時計に目を落とす。時針は2時を示していた。

 家の中は血臭にまみれていた。部屋中の空気が血の臭気を含んでおり、一瞬で不快な気分になるには充分なほどだった。
 家の奥へと進むと、リビングに男がひとり倒れているのが見えた。この家の主人かな、と思考の片隅で思った。腹部を深く刺されているようだが、今ならまだ助かるかもしれない。それでも鵺は気に留めることなく、さらに進むことにした。おそらく助からないことの方が、あいつらにとっても都合が良いのだろう。
(向こうから血が臭う。…キッチンか)
 キッチンに着くと今度は女が倒れていた。さっきの男とは違い、こちら明らかに死んでいる。首を深く切り込まれたようで今にも頭が落ちそうだった。腹部はメッタ刺しされ、いくつもの傷口は血を溢れさせていた。
 そのとき、背後に気配を感じた。振り向いたときにはすでに遅く、包丁が振り下ろされようとしているまさにそのときだった。鵺はとっさに避けようとしたが間に合わず、わずかな差で頬を切りつけられた。しかし幸いにも傷は浅い。
「お前が今回のターゲットか」
 少年は何も言わずに構えた。それには一切の隙がなく、鵺も容易には手出し出来そうない。
「お前さぁ、自分の親を殺して楽しいわけ?」
 相変わらず、少年は無言を貫いた。
「特にあの母親。ありゃ相当な恨みでもあったね。…違うか?」
「うるさいッッ!!」
「なんだ、喋れるんじゃねえかよ。しかも声変りもまだかよ」
 そう言いながら鵺はウエストのホルダーから小さなナイフを一本取り出す。「似たような獲物で安心したか? どう見てもお前の方がリーチあって、圧倒的に俺の不利だしなァ」
 少年は口元に笑みを浮かべていた。
 鵺の言った通り、自分の勝利を確信しているようだった。
「お前も殺してやるよ」幼い声が漏れる。
 少年が包丁片手に突進してきた。それを紙一重でかわし、鵺は瞬時に右腕を振った。少年の肩から血が噴き出る。少年は構わず包丁を振り回した。巧みに避け続けるが、鵺も反撃のタイミングを見つかられない。
「親、殺して楽しかったか?」
 ニタリ、と少年が笑う。
「そうか、愉しかったか」
 鵺も同様に笑っていた。
「愉しいよなァ! 殺しってやつは!!」
「お前になんかわかるもんか」
「わかるっつーの。俺とお前は同類だからな」
 つい少年の口から疑問が零れる。「…同類?」
「なんだ知らねェのか。まァ どっちでもいいけどな」
「おいッ! 同類って何のことだよ!?」
 いやらしい笑みが浮かんだ。「お前、研究所育ちだろ?」
 少年の躰がビクリと反応した。
「俺もなんだよ。ま、先輩ってところか」
 少年は動揺したのか呼吸が変則的になり、息遣いが荒くなった。
 汗も尋常ではないほど噴き出し、顔色も蒼白に変わった。
「なんだよ、研究所出身って聞いただけで動揺しちゃったのかよ? 可愛いやつだな」
 鵺の赤い瞳が、不気味に少年を捉えている。
 ハァハァ。ゼェゼェ。少年は苦しそうだった。
「さぁ、来いよ! 先輩として後輩に世間の厳しさってやつを教えてやるぜ!!」
「ア゛ーー!!」少年はガムシャラに包丁を振り回して突っ込んだ。もう自棄(やけ)のようだ。
 それを難なくかわし鵺は強烈な膝を少年も鳩尾(みぞおち)に当てた。呻き声が漏れる。
 慢心が油断を呼んだのか、少年が俊敏に体を沈み込むように落とすと、鵺の視界から少年が一瞬消えた。次の瞬間に少年は鵺の懐に飛び込む。「ウウ・・」短い呻きが漏れた。見下ろすと、見事に鵺の腹部から包丁の半身が生えていた。
「なかなかやるねェ」鵺は皮肉るように言った。
 少年は包丁を引き抜いて、再び腹部を刺す。
「ガァッ!――テメェ…、もう許さないからな」
 俊敏な動作で鵺は左手に持ったナイフを使い少年の頸動脈を素早く掻っ切った。
 そして少年を蹴り飛ばす。少年は吹き飛んで全身を強く打ち、床に倒れた。
「あァ、クソ。結構深く入っちゃってんじゃねえかよ」
 鵺はジャケットの内側に手を差し入れ、何かを掴み取った。
 そして起き上がろうとする少年にそれを向ける。――オートマティックの拳銃だった。
「残念だったな。俺は殺ろうと思えば最初から簡単にお前をやれたんだよ」
 カチャリ、銃のトリガーに指をかける音がした。
「テメェの遊びに付き合ってやったばっかりに腹に穴が空いちまったよ。でももう終わりだ。まァ それなりに楽しかったよ。…じゃあな」
 ガンガンガン。銃声が続けて鳴り響いた。あたりに硝煙の匂いが立ち込める。
 少年の胸元に2発。頭に1発分の穴が穿たれていた。

 ***

「終わったのか?」
 玄関を出てくる鵺くを見て、サングラスの男が言った。
「あァ 終わったよ」
「随分とやられたみたいだな」
「ウルセェ…。ガキの遊びに付き合ってやっただけだ」
 男は寄りかかっていた黒塗りのセダンの運転席に乗り込んだ。続いて鵺も後部座席に乗り込む。
「完了した。後片付けを頼む」
 運転席で男が誰かと話しているのが聞こえた。たぶん携帯電話で組織に連絡を取っているのだろう。
「あのさー…」
「なんだ?」
「組織に言っといてくれよ、後始末をする身にもなれってさ。不良品ばっか作りやがって」
「伝えておこう」
「今回のガキ。あれアメリカの模倣品なんだろ? そんなんだからダメなんだよ」
「日本は先進国の中では遅れを取っている。はるかに先を行っているアメリカの事例を参考にするのは仕方ないことだ」
 男はアクセルを踏み、車を発進させた。
「あんなガキをシリアルキラーに仕立ててどうするつもりなのかね?」
「我々は殺人鬼を作ろうとしているわけではない。人類の進化の為、その先駆けとなる超人類を作ろうとしているのだよ」
「まァ どっちにしろ同じことだ。馬鹿らしい」

 ***

 数週間後、ニュースで1人の少年が逮捕されたことが流れた。
 少年は未成年とのことで一切の情報が伏せられての公表だった。

 この事件は日本を震撼させた大事件として、その史上に名を残すことになる。




<作者のことば>
かなり前に書いたもの。
出すタイミングがなかなかなくて、というか序章的扱いの短篇として書いていたので、本編的なものをある程度固めてから載せようかと思っていた。けれど、本編的なのは挫折。
それから幾度となくバイオレンス小説(あ、バイオレンス小説として考えてました。「真夜中に鵺は啼く」の内容でもわかると思うけれど。アクションではなく、バイオレンス!)の構想(企画?)が持ち上がったものの、そのどれもがボツに。
いつか完成させてやるぜ、バイオレンスモノ!

で、今回のコレはだいぶ古い感があるので載せるのあたって書き直そうかとも思ったけれど、あまり書き終えたものにあとから手を加えるのは好きではなく、さらには面倒だなって気持ちが大多数を占めていて、それでも一応流し読みで気になる文章的に箇所を修正する程度はやりました。

序章的扱いだったせいもあって、よくわからない部分が多い! けれどそれも含めて楽しんでもらえたらいいなって思いました。が、しかし、ラストがあまりにもよくわかんねえな、とも思うので、若干の説明を入れるべきなのだろうか。
軽く説明すると、これは実際の事件をベースにしていて(わかった人多いと思うけれど)、それを基にフィクションとして書いたものです。何やら犯人の少年は研究所と呼ばれる施設(組織?)で育ったらしく、もしかしたらそこでキリング・スキルを身に付けたのかもNE。詳しくはアレ(どれ?)ですが、どうやら殺人を犯す何らかの要因ではあるようです。…何らかのって良い言葉だよなぁ。よくニュースで「何らかの事情があったとみて…」みたいセリフをよく聞くけど、まあ“何らかの”事情はあったでしょうよ、って感じだしね。TVから聞こえてくるたびにツッコミ入れてますよ、はははは。

朝5時起床のせいかテンションがおかしいですな。

で、最後は誰が捕まったんだよ!みたいな話になるけれど、そこは替え玉とか何かそういう感じのことが行われたんじゃないの?的なことを各自想像してもらえればいいです。つまりは何かよくわかんねえけどそれくらいの隠蔽工作が出来るような組織が後ろにある話なんだな、ってことをお伝えしたかったような、それこそもうよくわかりませんが。忘れました。過去の話です。フフフ。

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COMMENT

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鷹の爪痕 | URL | 2009/07/12(日) 18:44 [EDIT]
とても「昔?」に書かれたものだとは思えませんでした。

こういう「何か事件があった。でも実は…」的な作品は好みです(^^ゞ
で、その内容が皆には伏せられている、というのがまた、ね。
あるじゃないですか、よく。
「都合の良い言葉で濁されている」というニュースは…。

バイオレンスですか…私も書ければいいんですがね~(´;ω;`)
なかなか表現が難しくて…文才乏しき私にはまだまだ精進が必要ですヽ(´Д`;)ノ

匡介 | URL | 2009/07/13(月) 08:44 [EDIT]
>鷹の爪痕さん
結構前だったはずです(曖昧)。
読み返して、何か文章的な物足りなさを感じたのですが、書き直すつもりもなかったし早めに載せないとさらに載せづらくなるなって思ったので(笑)

俺としては濁してるっていうか「言わずともわかるわっ!」みたいな(笑)
まぁ 改めて言うのもニュースの仕事なのだと思いますが、突っ込まずにはいられないです。ええ(笑)

バイオレンスな映画や漫画、あるいは小説から多くの影響を受けている自分としては、いずれ書きたいテーマなんですよね。なかなか納得のいく文章が出てこなくて、とても難しさを感じてます。
自分のイメージするバイオレンス作品って、暴力的でありながらとても繊細なんですよね。今までのようなシンプルな文章では表現できない、次のステージに向かう必要があると感じています。要するに現状況では力不足ってことなんですが(笑) それでも書かなければ始まらないので、足りないなりにも書こうとは思ってます。俺も文才欲しいですね、日々精進です! 一緒に頑張りましょうね♪

兎和 | URL | 2009/07/14(火) 01:21 [EDIT]
これからどうなっていくんだろう!っていう、期待感がわいてきますねっ。
冷めた世界観は大好きです(笑)

昔に書いたものって、何だか楽しく読めますよねー。
その中には、おぉ?昔のほうが上手かったんじゃないか!?とかいうのもあったり。世に出回っている作品でも、埋もれてしまった自分の過去の作品から、主人公をサブキャラとして再登場させている作者の方も結構いるので、描き続ければ面白い何かができるきがする(笑)

匡介 | URL | 2009/07/14(火) 13:27 [EDIT]
>兎和さん
鵺は気に入っているキャラなので、いずれ何かで登場させようとは思っています。
昔書いたやつの方が上手いのでは?というのはありますよね(笑) そして読み返して自信喪失するっていう(笑) 結構プレッシャー感じたりしますよ。やはり以前の方が面白かった的なのは怖いです!!

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