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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/07/27(月)   CATEGORY: 短篇小説
ガールズ・ファンタジア -白日の幻- (3)
 彼女の遺体の目の前にしたとき、私は自分でも驚くくらい落ち着いていた。まるで無音の、何もない世界に一人立っているみたいに。何も感じない。
 私のあとに遊月が到着して、「お姉ちゃん…」と呟いた。それに構わず、外に出ようとする。そのとき初めて自分が泣いていることに気づいた。硝子に映った自分は、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
 加奈が死んで二週間が経とうとしていた。
 あれから外には出ず、ずっと部屋の中に閉じこもっていた。何をどうしたってもう二度と加奈には会えない。そう思うと悲しくて、苦しくて、込み上げてくる涙と嗚咽に身をよじらせていた。なあ、加奈。どうして私を置いて行くんだ。ずっと一緒だって、そう言ったじゃないか。
 加奈は本当に死んだのだろうか。私が見た加奈はいつもと変わらなかった。少し白くなってくらいで、ただ寝ているだけのようにも見えた。それでも体の方には深い傷があって、事故当時には次々と血が溢れ出たらしい。
「ねえ、お姉ちゃん…。出てきてよ…」
 ドアのノックに続いて妹が話しかけてきた。その声で、遊月は泣いていることがわかった。
「うるさい…。静かにしてくれないか」
 しばらくして、遊月の声は聞こえなくなった。
「…加奈。もう一度会いたいよ」
 もう会えないことはわかっているけれど、それを認められずにうずくまる。
 ――そのときだった。
 誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。――遊月? いや、違う。
「栞、もう泣かないで」
 信じられなかった。目の前にいたのは――死んだはずの加奈の姿。
「――加奈?」
 目の前の加奈は、恥ずかしそうに少し笑って「久しぶりだね」と言った。
 夢かと思って加奈の腕を掴むと、そこから加奈のぬくもりが伝わってくる。夢じゃない? これは現実?
 気づけば、私は泣いていた。
 我慢できなくなって抱きつくと、加奈も私を抱きしめてくれた。温かい。
「栞は覚えてる?」
「え?」
「私たちが出会ったときのこと」加奈は笑って「私がコンタクト落としちゃって探してたら、栞が探すの手伝ってくれたんだよね」
「ああ、そんなこともあったな」
「それでも見つからなくて、最終的には栞が踏んで割っちゃったんだよね」
つい吹き出してしまった。「まだ根に持ってるのか?」
「そんなわけじゃないけど…、栞はいつも優しいなって」
「そんなことないよ」
「そんなことある」
「まあ、そういうことにしておこう」
「そんな栞に、私はいっつも助けられてきた」
ちょっと照れる。「加奈には私がついていないとな」
 加奈はにっこりと笑った。
「だから今度は私が栞を助けてあげる番」
「――え?」
「私はね、幸せだったよ」加奈は笑っている、だけど――…。「栞や遊月ちゃんに会えて、一緒に楽しい時間が過ごせて。私とっても嬉しかった。幸せだった」
「なんでそんなこと言うんだよ? これからだって、一緒にい――」
「私ね、もう死んじゃったんだよ」
 加奈の言っていることが、理解できなかった――。
「何を――…」
「――事実なの」
 混乱。混乱。混乱。それはつまり――
 じゃあ、目の前にいる加奈は――
「もうこの世には居ない人間なんだよ。あのとき死んじゃったんだ」
 自分が死んだ事故のことを思い出しているのだろうか、加奈に悲しげな表情が垣間見える。
「でも、どうしてかわからないけれど、こうしてまた会えた。――栞がね、ずっとわたしのために悲しんでくれてること感じてたんだよ。それで会いたいなって思ったの。神様がわたしの望みを聞き入れてくれたのかな? また会うことができたね」
 加奈は笑った。
「ありがとう。でも、もうわたしのために泣いてくれなくてもいいんだよ? もう充分。ありがとう。嬉しかった。だからもう泣かないで。笑おうよ! 遊月ちゃんだって心配してるよ? 彼女のためにも、わたしのためにも、笑ってほしい。栞の周りはわたしだけじゃない。遊月ちゃんもいる、きっとこれから新しい友達もできる。だから、その人たちと一緒に笑って生きてほしいの」
「でも私は――!!」
「栞、わたしもう死んじゃったんだ。もう栞たちと一緒にいることはできないの。どんなに生きたくっても、もうそうすることはできないの。…わかる?」
 私は、力なくうなずいた。「ああ」
「わたしね、本当は生きたいんだよ? 栞と一緒に、生きていきたかった! だけどそれはもう叶わない! だから、だから栞には精いっぱい生きてほしい。わたしの分も、いっぱいいっぱい生きてほしい。楽しいことばかりじゃないけど、それでも楽しいことだってたくさん待ってるよ。だから、笑って生きてほしいの」
 加奈の目元から溢れ、流れる涙。
 私はそっと彼女に近付き、涙をぬぐってあげた。
「ごめん。本当、加奈には敵わないな。――死んだあとまでこうして心配されてちゃ、仕方ないな。馬鹿だな、私。加奈の気持ちなんて、全然考えてなかった。ありがと。私は精いっぱい生きないとね、加奈の分も」
 私は、ゆっくりと笑った。
 加奈も、一緒に笑う。
「前に加奈は言ってたよね、みんなが笑顔でいられる世界になればいいって。その世界に近づけるためにも、私は笑うよ。どんなことがあっても笑って生きてやる」
「ふふ。ありがと」加奈がにっこり微笑んだ。「その話を聞いて、笑わないでいてくれたのは栞だけなんだよ? ちゃんと聞いてもらえて、嬉しかったな」
「そっか。加奈のためにも私は笑うから、だから見ていてくれ」
「うん、わかった。ずっとずっと、ず~~~っと見てる!」
 そのとき、私は違和感を覚えた。もしかしたら加奈も感覚的に何か感じていたかもしれない。
 加奈の体が透け始めてきている。もう、彼女がこの世にいられる時間は少なかった。
「もう行かなきゃならないみたい」
「……みたいだな」
「栞、大好きだよ」
そんなこと正面向かって言われると何だか恥ずかしい。「私もだ」
「わたしは――…」
 ほとんどが消えかかっていた加奈からは、もう声すらも届かない。
 今度こそもう会うことはないだろう――激しい悲しさを感じながらも私は笑った。
「さよなら、加奈」


 気付くと、寝てしまっていたようで部屋の中は真っ暗だった。
 コンコン、とドアをノックする音が聞こえる。
 起き上がって部屋の明かりをつけてから、ゆっくりとドアを開けた。
「お姉ちゃん!!」
 ドアを開けるや否や遊月が飛びついてきて、数歩よろめいてしまった。妹の目元は濡れていて、その目は赤かった。どうやら、相当な心配をかけてしまったようだ。
「ごめん。もう大丈夫」
 遊月はわんわんと泣き出し、困ってしまった私はそれからどうにか妹をなだめようと試みる。が。なかなか泣きやまなかったけれど。
 今となってはあれが夢だったのか、それとも現実に起きた奇跡なのかはわからない。けれど私は加奈に会えた。それだけが重要で、それだけで充分なのだと思う。そう、充分だ。




<作者のことば>
今度は長い。本当はバランスを取りたいのに。イライラ。
そして2日に1回、1日おきに載せるつもりが何のミスか昨日を逃した。イライラ。

私生活の方も何だか上手くいっていない。イライラ。

大きなバスタブでゆっくりお風呂に浸かりたい。今イチバンの希望です。

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COMMENT

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鷹の爪痕 | URL | 2009/07/27(月) 15:10 [EDIT]
泡風呂にバラの花びらを浮かべながら、ワイングラス片手に持って…ですか?
【こちとらマジなんだよっ!】( #゚д゚)=○)゚Д)^^^^^^゚

……私はね、上手く行かない時は「笑う」んですよ。
えぇ、無理矢理です(笑)

「笑う角には福来たる」ではないけれど、面白くなくてもとにかく声に出して笑う。
鏡を見て笑顔を作る←まぁ、その気持ち悪いこと…(あ、自分で言ってショック…)

「禍福は糾える縄の如し」ですよ♪

今嫌なことがあったのなら、次はいい事が続くように願ってます
ヾ( ゚д゚)ノ゛ハァァァァァ・・・・・・・!

ホラ、少しでも元気になりましたか?
。・゚・(Д`(⊂(゚Д゚ つ⌒【尚更イラつくわ~~っ!】

匡介 | URL | 2009/07/30(木) 11:09 [EDIT]
>鷹の爪痕さん
ああ、そっちについてですか! 最初何のことかと思いました(笑)
別に落ち込んでいるわけではないので大丈夫ですよ。ただ気分転換したいなって話です。
ゆっくりお風呂に入ってリフレッシュしたいという願望なのです!!

ええ、実は大のお風呂好きなのです♪(笑)

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