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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/07/03(金)   CATEGORY: 短篇小説
シュヴァルダンの獣(6)
 この国は精霊信仰がほとんど見られない。これは大陸のいたるところを見てきたリューベンにとって、珍しいといえることだった。精霊の存在が公になっている国や地域も少なくはない。ところによっては共生をしている人々も存在している。しかしこの国は精霊の存在が知られていないだけではなく、そういったものの有無にまるで関心がなかった。それを知っていてか精霊もあえて姿を見せていないように思えるほどだった。
 そんな土地に流れ着いたど南方の神は、こうやって人知れず女を攫い、喰らい続けていたのだろうか。
 剣を握る手に、力が籠った。
 精霊は殺せないわけではない。人の手でも、充分に殺すことが出来る存在である。しかしその一般的な方法としては、呪術的要素が大きかった。魔道士ならばあるいは難しいことではないかもしれない。しかしリューベンは元傭兵。剣を武器に戦うことしか知らない。
 それでも勝算がないわけでもなかった。
 ここまで実体を持っているのなら、おそらく剣でも傷付けることが出来る。それが出来るなら、殺すことだって可能なはずだ。精霊の中には半実体の物理を受け付けない存在もあるが、目の前にいるのは女を引きずって食べてしまうほどの実体の持ち主だ。――やれる。
 素早い動きで、一気に間合いを詰めた。傭兵時代に鍛えた肉体と技術の渾身を込めた、必殺の一撃を巨人に向けた。
 しかしそれが届くよりも先に、巨人の長い腕で躰ごと薙ぎ払われ、リューベンは地に叩きつけられた。
 仲間の2人は身動きを取れずにいると、巨人は2人を掴みあげると、そのまま握り潰した。グシュ、という嫌な音とともに血と内臓が滴るように落ちた。
 仲間を投げ捨てる巨人をめがけて、リューベンは再び剣を振るった。今度も軽々よけられ、空振りをしたところを殴りつけられた。再び地を舐める。
 巨人は女に向き、その大きな口を開けた。


 ***


 席を外したまま戻らないフランチェスコを案じて、フランクは宴を抜け出しフランチェスコの家にまで足を運んでみた。どうも宴の参加には乗り気ではないようであったし、もしかすると具合でも悪いのかもしれない。フランクはフランチェスコの家に着くと、無造作に開いている戸が目に入った。そして家の中から大きな物音が聞こえ、心配になって入り込んでみると、階段の上に奴の姿を認めた。
 一瞬、頭の中が真っ白になるも、すぐに正気を取り戻し、視界に入った薪割り用の斧を手に取った。奴もフランクの存在に気付いたらしく、見下ろすかたちで彼を見つめた。
 心の底から恐ろしかったが、フランクは決して逃げまいと覚悟していた。町までの道中、エットレの無惨な姿を見ても何も出来なかった。ジョアッキーノは果敢にも奴に挑んで、死んだ。命と引き換えに奴に傷を負わせたダリオを目の前にしても、何も出来なかった。そしてダリオは死んだ。自分は奴への憤りより恐怖でいっぱいだった。生への執着しかなかった。――今度は逃げない。俺は奴から逃げないで、闘うんだ!
 フランクが叫びながら階段を駆け昇ろうしした。しかしそれより速く、奴が飛びかかった。フランクが斧を振り下ろす。奴は斧が触れるより一瞬速くフランクを体当たりで吹き飛ばした。勢いよく床を転がったフランクは、そのままテーブルに突っ込んだ。
 フランクに夢中で、奴は気付かなかった。反射的に、まるで獣のような瞬発力が躰を突き動かした。フランチェスコは驚くべき速度で、階段を飛び降り、そしてフランクが落とした斧を拾い上げ振りかぶった。それに奴が気付いたときにはもはや遅く、斧の刃が奴の躰にめり込む。「うああああああああああ!!」フランチェスコは鬼の形相で叫び、斧を振り下ろしきった。
 奴の背中から斧が生えている。奴は憤り、苦痛に顔を歪め、地響きするほどの咆哮をあげた。まさに魔獣の咆哮であった。
 自分の背に喰い込んだ斧を抜き取り、怒りに任せて投げ飛ばした。傷口は思ったより深くなく、その強靭な筋肉が血の噴出を抑えていた。その傷はわずかながらの血を流しただけで、力任せに閉じられた。それは常人には敵わぬ行動だった。人間にして人間に非(あら)ず。魔獣たる奴は不気味に笑い、フランチェスコを見た。
 もうダメだ…。そういう思いがフランチェスコの脳裏を駆け廻る。もう出来ることはすべてやった。自分のすべてを懸けても、奴には敵わなかった。やはり奴は人間が相手出来る存在ではなかったのだ――…
 そのとき、奴の躰がピタリと止まり、筋肉が硬直していくのがわかった。奴は緊張している。本能的に、それがフランチェスコには理解出来た。そして、奴がそうならなければならない理由が思い当たらなかった。この最強無敵の生物が、何を恐れるというのだ?
 奴はまるでそこに誰もいないかのように、フランチェスコを無視して家を出た。そうして一度も振り返ることのないまま、去っていった。



<作者のことば>
前回から若干ファンタジックな要素が入り込んできております。
自分自身としては最初からそのつもりだったのだけれど、書き出しの調子がよくて、このままファンタジー要素を加えるなんて余計なことをしない方が綺麗にまとまるのでは? と自問したみたが、いやいやそれをしてしまうと今後の計画がむにゃむにゃ…、という理由で予定通りの運びとなった。

ところで何かフランクの精神的な成長みたいなものが少しばかり描かれている気がするんだけど、そんなつもりは初めはなかった(というよりそんな重要視していたキャラクターでもなかったのだが)。
そもそも彼の誕生だって、フランチェスコと一緒に行動している男たち(少なくとも)何人かに名前が必要だなってことで、そのとき適当に生まれたのがフランクであって、その後の流れで彼の性格が若干定まった程度である。しかしこうなっては「シュヴァルダンの獣」の主要人物であるといえる。
でも個人的にはダリオが好きなんだけどな。同じくノリ(流れ)で生まれたキャラクターなんだけど。

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COMMENT

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兎和 | URL | 2009/07/04(土) 01:21 [EDIT]
登場人物が一人歩きを始めるのは、時々ありますねーっ。
何だかそうなるとそのキャラクターが活き活きしてるようで好きだったりします(笑)

あと、映画でも何でも主人公の友人や仲間が序盤で死亡してしまう場面は何故だかものすごく寂しさと切なさを覚えてしまいます。全部見終わったあとでも、やたらと印象に残ってたり。
ヘンなんだろうなと思いつつも、絶対に気になっちゃうんですよね。

最近妙に涙もろい兎和でしたっ。

匡介 | URL | 2009/07/04(土) 01:52 [EDIT]
>兎和さん
ガンガン一人歩きしますね。とゆーか一人歩きしてやっと物語が進んでいる感じです(笑)
実は俺も涙腺がゆるゆるで、たとえば最近だとレッド・クリフでも前線で最初に突っ込んでいく歩兵たちを観て、ウルっとしていました。ええ。もうキャラクターとして成立していないような人たちです(笑) 何か一番最初に敵陣に突っ込む人って生存確率かなり低いと思うと、戦いを前にして自分は命を落とすかもしれないとわかっていて尚且つそれでも戦おうとしている姿に涙しそうになっちゃいます!!
つまり、ほぼ命はない戦場に立つまでのメンタル面のプロセスを勝手に想像しちゃうっていう(笑)

● こんばんわ!
悠李 | URL | 2009/07/04(土) 02:48 [EDIT]
訪問ありがとうございました!
文才ありますね!!尊敬します;

作品がたくさん置かれているので、見させていただきます^^
では!

匡介 | URL | 2009/07/04(土) 09:37 [EDIT]
>悠李さん
ありがとうございます。
けれど、自分よりずっと上手いの物書きさんはいっぱいいますよ。文才があるっていうのはそういう人たちです! 自分はまだまだ未熟ですよ。

もし読まれましたら感想頂けると嬉しいです。

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