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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/06/29(月)   CATEGORY: 短篇小説
シュヴァルダンの獣(4)
 彼は侵入者の気配を敏感に嗅ぎ取っていた。
 山のざわめきが大きくなっている。それは彼から隠れていた動物たちが、ついに自分の棲み処を諦め、山から逃げようとしているにほかならなかった。


 それの到来は、夜に覆う闇のように静かで、圧倒的なものだった。


 ***


 4日後、町に到着したフランチェスコたちは、急いで助けを求めた。道中に襲われた激しい疲弊で、思った以上に時間がかかってしまっていた。
 町長は男たちに命じて、すぐさま隊を編成した。その中心となったのは町の自警団のメンバーだ。そして2日後には野獣討伐隊が村に向けて出発した。
 町で馬を借りられたこともあって、討伐隊一行はフランチェスコたちが来たときの半分以下の時間で村に辿り着くことが出来た。しかし彼らを出迎えたのは、応援を喜ぶ村民の笑顔ではなく、どんよりと暗く重い、何とも言えぬ雰囲気だった。何かあったのだろうかとフランチェスコは急ぎアレッシアの待つ家へと走った。そして家に入ると、無事に帰ってきた夫に対する安堵を浮かべたアレッシアがフランチェスコに抱きついた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 そして妻の口づけをすると、村の様子について尋ねた。
「村の女性がいなくなったの」それが妻の第一声だった。「ベアータもキッカもクラリッサも、みんないなくなってしまったわ」
「どういうことなんだ」
 状況が呑み込めないフランチェスコは詳しい説明を求めた。
「わからない。急にいなくなってしまったの。夜になって朝が明けるといなくなってしまっていたのよ」
 その後もアレッシアの説明を聞くと、どうやら村の女が次々と謎の失踪を遂げていることがわかった。初めはカークの妻ベアータだった。カークがフランチェスコたちを町へ向かったので、いとこのルドヴィゴの家に泊っていた。しかしある朝、なかなか姿を現さないベアータにルドヴィゴの妻であるオッターヴィアが様子を見に行くと、彼女が寝ていた部屋はもぬけの殻で、それからいくら探してもベアータの姿は見つからなかった。その翌々日にオッターヴィアも消えた。もしや奴に攫われたのかと思ったルドヴィゴが声を嗄らすまで2人を捜したが、結局見つかりはしなかった。その翌日にはキッカが消えた。そしてクラリッサも。村の女が次々といなくなっていき、その異常事態を察した村民たちはうちの妻は、あるいは娘はと家に引き籠り、我が家の女が連れ去られないように、決死の守りに身を注いでいた。おかげでもともと引き籠りがちだった村の者が、外からまったく姿を消し、この陰惨な雰囲気すら漂わせている、生気のない村へと変貌してしまった。
 フランチェスコは奴の姿を思い浮かべ、憤りを感じ、そして他の者と同じく恐怖していた。アレッシアだけは守らねばならない。そのためには、再び奴と対峙する覚悟すら出来ていた。奴の恐るべき強さがフラッシュバックされ、フランチェスコの全身から冷や汗が噴き出す。しかし全身の体毛を起こすほどの闘志をその心に宿していた。

 その夜、ルドヴィゴが姿を消した。妻といとこを奪い取られた奴への復讐心を燃やし、討伐隊への参加に意欲を発揮していたルドヴィゴだったが、一行が討伐に発とうとしていたその当日に、彼の姿が見当たらないことが発覚した。
 あれだけ奴に目に物を見せてやろうとしていた彼が、待ち遠しいほど待っただろう討伐の時に姿を見せないなど、ルドヴィゴの身に何かあったのだと村中が思った。そんな中フランチェスコは、もしや待ちきれなくなってひとりで山に出たのでは? と想像するも恐ろしいことを思いついていた。もしそれが本当だとしたら、ルドヴィゴの命はない。
 町の者25名と村の者15名の計40名になる討伐隊が編成された。それがさらに二班に分かれ、奴の捜索に当たることになった。フランチェスコは片班のリーダーに決まった。
 山はいつも以上に静まり返っていた。それは嵐の前の静けさに似た、不気味な沈黙であった。フランチェスコは息を呑み、仲間を引き連れ山の奥へと足を踏み入れる。どこにも奴はいないようにも思えたし、今まさに奴に狙われているような気もした。その場にいた全員がそう思っていたに違いない。みなの顔は恐怖に引き攣っていた。



<作者のことば>
次から次へと新しい名前が出てきて、誰だよって感じ(笑)
個人的に人名を決めるのは毎度一苦労で、こうして大量消費してしまうのは惜しかったりする。

まあ、気に入ったのあったらまた使うけど(笑)

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