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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/06/23(月)   CATEGORY: 短篇小説
魔人狩り③
 しばらくの膠着(こうちゃく)が続いた。
 カナエと霧島の前には、ひとりの男が立っている。背はそう高くなく、一見にすれば真面目そうな格好の男だ。その男は口を半開きにしていて、その合間からは涎(よだれ)が垂れ落ちた。
 この男は何者だろう? そうカナエは考えていた。どうにも普通そうな男なのだが、どうにも普通ではない。何なのだ、この異様な感じは。彼女は小さく身震いをした。
 男が低く呻(うめ)いた。ヴヴ‥ヴヴ…とまるで何かに苦しんでいるようにも見えた。
 男が一歩、カナエたちの方へと近づいた。
 暫(しばら)くの間、身動きひとつしなかった霧島だったが、その瞬間、素早い動きで刀を抜き、そのままの勢いで男を斬りつけた。
 男の方もその風貌からは想像もできないような俊敏な動きでそれを避けた。
 
 しかし、あたりに血吹雪が舞った。

 どうやら男は霧島の斬撃を完全には避けきれず、左腕の半分を切り落とされてしまったようだった。
 男は呻いた。グォォォオオ。それを見たカナエは思わず目を伏せた。しかし一瞬にして入ってしまったグロテスクな映像に、彼女は気分が悪くなりその場にうずくまってしまった。
 霧島はそんな彼女を気にすることなどなく、例の男と対峙したままだ。
 ジリジリと間合いを詰める霧島は、男に問うた。
「お前、話せるのか?」
 男は黙ったままだ。
「お前、初めてじゃないだろう? 今まで何人喰ってきた?」
 男は依然として答えない。
「まあ、いい」
 霧島はそう言うやいなや、目にも止まらぬ速度、それこそ一瞬で男の首を刎ねた。

***

 カナエが顔を上げ、霧島を見たとき、彼は傷を負っていた。左肩から血が滴っている。
「大丈夫か?」
 霧島の言葉にカナエはそれはあなたでしょう! と大声で言いたくなった。
「友達の家、あとどれくらいだ?」
「えっと、もうそこの角を曲がったところ」
「そうか。急ぐぞ」
 そう言って霧島は先へと進んだ。
「ちょっと待ってよ」
 カナエも慌てて霧島を追った。

「アレなんなの?」
 堪らずカナエは霧島に訊いた。
「アレ?」
「とぼけないで。さっきのアレよ」
「あァ、あの男か」
「そう、あの男のことよ」
「何と言われてもな」
 霧島はそう困ったような声を出したが、彼の顔は変わらず無表情だ。
「あなたあの人のことを斬ったじゃない。その刀で」
 カナエは霧島の持つ長方の布袋に目をやった。
「ああ。そうだな」
「なんで斬ったの? あなた、殺人犯?」
「なんでと言われてもな。それが俺の仕事だからだ」
「殺し屋なの?」
「違う。が、似たようなものだ」
 何とも曖昧な霧島の返答に、彼女はもどかしさすら感じていた。
「つまり何がどうなの? そんなのじゃわからない。もっとわかるように説明して」
「何故?」
「なぜ? なぜですって? じゃあなに? わたしは殺人鬼ともわからない正体不明の男とこうやって夜道をともにしなきゃならないの?」
 多少の興奮が入り混じり、彼女が思った以上に声は大きくなった。
「わかった。説明しよう。だからわめくな」
「わめいてなんかない!」
「わかったから少し声を小さくしてくれ。そう大声を出さなくとも聞こえている」
 そうしてカナエは全てを知った。
 霧島が言うことを信じれば、さっきの男は人間ではなく魔人であるらしい。魔人とは魔なるものに精神を乗っ取られた人間のことで、元は人間なのだという。それでも魔人となれば身体能力は向上し、人を喰らうようになる。まさに悪魔のような人間へと変貌を果たすらしいのだ。
 霧島はそんな魔人を抹殺するのが仕事だという。家業として代々の宿命らしい。霧島は魔人を狩る狩人なのだ。
「魔人は夜に活動をする。だから昼は安全だ。しかし夜も深まった頃になると危険なんだ。これからは今のように深夜にはあまり出歩かないようにすることだな」
 カナエは黙って頷いた。
 どうにも現実感のない話だけれど、彼女は彼の言うことが真実なんだろうと確信していた。さっきの男を見たときに感じた異様な感覚。あの感覚だけであの男が魔人で、彼がそれを狩る狩人だということを信じるに値した。
「さっきの男。死体をあのままにしてていいの?」
「あれは他のやつが片付ける手筈(てはず)になっている。さっき連絡をしておいた。もうあの死体はあそこにはないだろう」
 いつの間に連絡なんか。そうカナエは思ったが、あのときは恐怖でいっぱいいっぱいだったし、男の腕が斬られるところを見てパニックに陥ってしまっていたのだから気付かなくても仕方のないことだった。
「それ、大丈夫?」
 カナエが霧島の左腕を指差した。
 応急の止血を行(おこな)ってはいるが、衣服に血が滲んできているのがわかる。
「気にすることはない。この程度だったら軽い怪我だ」
「そう、なんだ」
(日々、あの魔人とやらと戦っていて、常に命の危険にさらされているのね。)
「この家か?」
 霧島はカナエに聞いていたマユミの名字を当てに、家の表札を指差した。
「うん、ここ」
「じゃあ、もう大丈夫だな」
「あの、、ありがと」
「なにがだ?」
「送ってくれて」
「気にすることはない。最近は何故だか魔人の出没が多い。これも仕事の内だ」
「でも…ありがと」
「ああ」
 霧島がカナエをあとに去ろうとする。
 それを見たカナエは少しためらったが、思い切って声を出した。
「あのさ、ケータイ、持ってるよね?」
「ああ、持ってはいるが」
「番号、教えてくれない?」
「何故だ?」
「ほら、また魔人に襲われたら助けてほしいじゃない」
「そうか、そうだな。ちょっと待て」
 そう言って霧島は上着のポケットから自分のケータイを取り出した。
「何かメモするものはあるか?」
「メモって。わたしもケータイあるから言ってくれるだけでいいよ」そう言ってカナエはケータイを取り出す。
「じゃあ、言うぞ08…」
 その霧島の言葉を遮るようにカナエは言った。
「待って! なんだそれ赤外線付きじゃん。だったら赤外線で送ろうよ」
「赤外線? どうやるんだ」
 カナエの言葉にまったくぴんとこない霧島はケータイ片手にカナエに問う。
「ちょっと貸してよ」
 カナエが霧島のケータイを受け取り、いくつかボタンを押すと互いのケータイを向け合った。それを見て霧島は何をしているのかまったくわからず、ひとりポカンとしていた。
 ふたりに番号の交換が終わり、カナエはケータイを霧島に返す。そして最後に別れの言葉を言って、マユミの家の玄関へと向かった。
 そんな彼女を霧島は見つめた。「バイバイ。またね」。カナエの言葉が霧島の中で反芻する。「またね」なんて再会を誓うような言葉を言われたのはいつぶりだろか。
 霧島はそんなカナエをあとにひとり夜の街へと消えていった。


<作者のことば>
夜に出歩く場合には魔人にお気をつけください。

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