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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/05/28(水)   CATEGORY: 短篇小説
ボーイズ・ラン(前編)
 部活の帰り道、女性の叫び声が聴こえた。振り向くと女性からカバンを奪って走っていく男がひとり。それがひったくりだと気付くのに数秒かかった。
 ぼくは所属する陸上部の中で速いほうではない。それでも走ればひったくりの男に追いつける可能性はあると思った。ぼくは走った。ひったくりとの距離はあるが、持久戦になればこっちが有利だ。
 そう思っていたとき、ぼくの横を人影が通り過ぎた。それは少年だった。その少年はぼくと同じ学校の制服を着ていた。
 少年はぼくを軽々と追い抜いたうえにどんどんと距離を離した。それとは反対にひったくりとの距離は縮む。彼はあっという間にひったくりに追いつく。そして跳んだ。彼は自分の頭と同じくらいの高さまで跳んだ。そしてひったくりに渾身(こんしん)のドロップキック。ひったくりの男は一撃でダウンした。

***

 ひったくりを見事に捕まえた少年の名前は三浦 瞬。ぼくと同じ中学に通っていて学年も同じだった。
 ひったくりを捕まえた彼は警察に表彰された。一躍(いちやく)学校の有名人。そしてぼくはというとヒーローになるチャンスをみすみす逃してしまったマヌケ。
 その後、シュンは陸上部に入った。実はそれを誘ったのはぼくだ。シュンの脚は速い。シュンは陸上部の誰よりも速いという自信すらあった。
 案の定、シュンはあっという間に陸上部のエースとなった。期待の星だ。初めての大会では100M走で2位になった。そして走り幅跳びでは3位の成績だ。
 シュンはヒーローだった。ぼくはそのヒーローの親友となった。ぼくらはいつも一緒にいた。いつもふたりではしゃいだ。

***

 部活の練習は毎日のようにある。シュンは他の選手とは違う特別メニューを与えられていて、ぼくはそれを眺めながら走っていた。同じ円をぐるぐると。
 大会が近くなると部の練習が一層ときつくなった。この大会で上位に入れれば全県大会へと駒を進めることができる。上位を目指しているやつは気合いを入れて練習に励んでいた。ぼくはそれほど頑張るわけでもなく、いつもの通りに練習にあたった。
 
***

 きつい練習を終えてぼくとシュンは帰り道を歩いた。シュンは誰よりもきつい練習メニューをこなしているはずなのに愚痴をこぼさない。ぼくといったらいつ音(ね)をあげるかわからない状態。
 シュンは楽しそうにいう。
「先生がさ、おれならきっと全県大会にいけるって」
「へえ。よかったね。ぼくもそう思うよ」
「そうかな」
「うん。シュンなら全県どころが東北大会にもいけるよ」
「頑張るよ」
「応援してる」
 本当は全国にだっていける。ぼくはそう思っていた。シュンにはその才能がある。ぼくはうらやましかった。自分にはない才能が。

***

 ヒートアップする練習にぼくはついていくのすらきつかった。何のために走っているのだろう。わからない。ぼくはとうとう音をあげた。

 次の日、ぼくは退部届けを持って学校へと向かった。


<作者のことば>
実は中学時代は陸上部に所属していました。
でも、あまり熱心に練習に参加した記憶はありません。

引退してから、もう少しだけ真面目にやっとけばよかったなと後悔してます。

そんな想いをタカハシに託してみました。


…あ、タカハシっていうのは、この一人称の主人公です(笑)
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