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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/06/27(土)   CATEGORY: 短篇小説
シュヴァルダンの獣(3)
「……エットレ」
 ダリオが名を呟くと、エットレの躰がぼとりと地に落ちた。
 ドッドッドッ、と心臓が高速で脈打っている。息苦しい。呼吸が出来ているのかすら理解出来ない。
「うおおおおおおお!!」村一の蛮勇を誇るジョアッキーノが、護身用に携えていた槍を片手に奴に突撃していく。
「やめ――…」
 ジョアッキーノが投擲(とうてき)の姿勢から槍を飛ばそうとしたが、槍がその手を離れる前に、俊敏な動きで懐(ふところ)に潜り込まれ、奴の太く荒々しい腕でのどを掴まれた。
「ぐ……あ……」
 呼吸が出来ないだけではなく、このままだとのどごと潰されてしまう。ジョアッキーノの意識がふいに遠くなっていく。
「うわああああああ!!」フランチェスコが近くにあったナイフを拾い上げ、それを振りかざし気味に走り寄っていく。「ジョアッキーノを放しやがれええ!!」
 偶然か、その切っ先は奴の腕にのめり込んだ。遅れて血が溢れだす。
「グアアアアアアア…!!」
 奴は野太い叫びをあげた。しかしナイフが刺さったことはフランチェスコたちにとって幸運とは言い難かった。実際奴はそれほど大きなダメージを受けておらず、ただ刺激して、興奮させてしまったに過ぎない。
 奴はジョアッキーノの巨体を軽々と投げ飛ばし、フランチェスコに詰め寄った。ジョアッキーノは小さく呻き声をあげて、そのまま動かなくなった。
 焚き火に照らされ、奴の姿がよく見えるようになる。これほど近くで、それもじっくり奴を見るのは初めてだった。
 2メートルはあるだろう巨体に、鬣(たてがみ)のような黒髪、野性味溢れる風貌は野獣と称されるに相応しい。隆々と付いた筋肉の体躯は、人を易々と千切り捨ててしまいそうだった。まさに怪物。これぞ魔獣だった。
 フランチェスコは心底この隊に志願したことを後悔していた。これは人間が相手を出来る存在ではない。何十、もしかしたら何百の男が束になってかかっても、まとめて引き裂かれそうですらあった。敵わない。理性を超えて本能的に直感がそう告げた。
「……ダリオ、逃げろ」
「え?」
「逃げろ!!」
 フランチェスコは奴の丸太のような腕に噛みついた。もはや何も通用しないだろうことは承知のうえで、せめてダリオたちだけでも逃がそうと思ったのだ。
 フランチェスコの必死の攻撃も、奴にとっては子犬に噛みつかれたも等しかった。薄汚れた貌(かお)に、にやりと笑みを浮かべ、フランチェスコを弾き飛ばす。そして弾丸の勢いで、逃げようとしたダリオに飛びかかった。
 ゴキリ、と鈍い音が聞こえた。ダリオの首がおかしな方向に曲がっている。それを見たフランクはヒッと悲鳴をあげた。
 しかしダリオは死の間際に、ジョアッキーノが投げかけた槍の先を飛びかかってきた奴に向けていた。それは奴の肩に深々と突き刺さり、さすがの奴も叫びをあげた。今度はそれなりの痛みが奴を襲ったらしかった。
 満身創痍のフランチェスコは、残ったフランク、イゴール、カーク、リノ、ロターリオを見た。誰もが恐怖に身を凍らせている。このままでは全滅だ。どうにも出来ないのか…。
 奴は渾身の一撃で、イゴールの首から上を吹き飛ばした。
「みんな……逃げろ……」
 呻きと聞き間違えるような、その声は、誰の耳にも入らなかった。ただ奴ひとりだけが、この場で恐怖以外の感情を持っている。
「……みんな……」
 そのとき、急に山がざわめき出した。次には、何十何百の鳥たちが空に羽ばたいていくのが聞こえた。何事だろうか。何か山で異変が起こっている。フランチェスコは這うようにして、仲間のもとへと向かおうとしたが、その躰にはほとんど力が入らなかった。
 奴は、山の異変を察知したようにして、闇夜にひそむ何かを見つめていた。
 そして思い付いたかのように方向転換をし、闇の中へと消え去っていった。
「助かった…のか……?」
 フランチェスコが朦朧とした意識の中で、安堵とともに呟いた。



<作者のことば>
最近体調悪いです。
アクションシーンが苦手なのを克服しようと四苦八苦してます。


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