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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/06/23(火)   CATEGORY: 短篇小説
シュヴァルダンの獣(1)
 辺りは異様な雰囲気に包まれていた。立ち込める殺気に似た獣臭に、兎や栗鼠などの小動物はもちろん、勇猛な狼すら息を潜め、そこに近寄ろうとはしなかった。
 木々が揺れる音がした。それは凶暴性を押し籠めた存在そのものだった。ありとあらゆるものがその場を静かに見守った。どうかこちらに気付きませんようにと――。


 ***


 野獣討伐から帰ったフランチェスコは、妻アレッシアが淹れたミケーレ茶を啜った。それはまだ熱く、猫舌のフランチェスコは顔を顰めてカップを置いた。
「今回も駄目だったの?」
「ああ、全然さ」
 村民が立ちあがって野獣討伐に繰り出したのはこれで4度目だった。そのどれも目立った成果はない。一度は奴を見つけて大勢で追い詰めたのだが、それも奴は易々と突破した。そのときマッシモが右肩に大怪我を負い、天職ともいえる大工仕事が出来なくなった。彼は村では随一の若手大工で、先日妻を娶ったばかりだった。
 野獣は、存在そのものが脅威だ。奴に慄(おのの)いて山から獣が下りてくる。狼などが人里までやってきては、子供たちを避難させなければいけない。以前、猪に襲われそうになったマルチェロを守ろうとしてロベルトが大怪我を負った。興奮した猪の突進が、ロベルトの腹部を抉った。その大きな牙は内臓まで傷付けていた。生涯現役を自ら謳っていたロベルトだが、もう以前のようには動けず、彼の樵(きこり)生命は終わっただろう。村で最年長の樵で、一番の働き者だった。孫のマルチェロは、祖父の怪我は自分のせいだともう外に出ようとはしなくなった。それまで山にいた獣は、あの“野獣”の重圧によって、非常に苛立っていた。見かけたら刺激せず、ゆっくり逃げる。今ではどの子供もその約束(ルール)を肝に銘じている。親もかつてのように外には出そうとしない。もはや村全体が重い空気を漂わせていた。
「奴のせいで迂闊に山にも入れん。山仕事をしているとこにとっては死活問題だよ。ひとりで山に入るなんて自殺行為だからな。大勢で入ったって、仕事にはならないだろう。辺りを警戒しながら仕事なんて出来るか」
「そうね。マーリオもみんなが止めたのに、無視して山に入って、あんなことになってしまったものね…」
 樵のマーリオは、野獣に襲われ、死んだ。
 村のみんなの制止を振り切って山に入ったが、そのまま夜になっても帰って来ず、翌日樵仲間数人が山を捜索したところ、躰を引き裂かれるようにして死んでいるのが見つかった。
「明日、今後の対策を練ろうってことになった。もう村民の手では負えないのかもしれないな。もしかしたら町まで行って助けを求めることになるだろう。そのときは俺も行こうと思う」
 ここは大きい村だが町は遠かった。山間にあり、外との交流は滅多にない。
しかしこのままではいずれ村が全滅してしまうおそれがあった。応援を頼むなら早いに越したことはない。急いで行っても数日はかかるから、実際に人手を連れてくるのは一週間は先になるだろう。
「でも…」
「これは村全体の危機なんだ。手を貸さないわけにはいかないだろう。俺に出来ることがあったら、何でもするしかない」
 数日はかかるということは、道中で夜を越さなければならないということだ。野獣が棲み処としていると思われる山に目星はついているが、全く動かないというわけでもないだろう。食糧にありつくため、獲物を探して棲み処から離れることもあるかもしれない。奴の棲む辺りにはもう動物がほとんどいないだろう。ほとんどが逃げるか巧妙に隠れてしまっているはずだった。
 フランチェスコはその危険を覚悟で、町への遣いを志願するつもりだった。

 翌日、村中の大人が集まった。男が中心となって今後の対策について話し合いが行われた。そして、フランチェスコの予想通り、町に応援要請をすることが決まった。彼は迷わずそれに志願した。
 他にも大勢の男たちが志願に名乗りをあげた。その中から10人が選ばれ、町への遣いとして送り出されることとなった。それにはフランチェスコも含まれた。
 女たちはたちまち10人の食糧を準備した。軽装出来て、なおかつ腹持ちのいいものだ。女たちに手伝われながらも男たちは支度を済ませると、村民全員に別れを告げた。
「すぐ帰るよ。ミケーレ茶でも用意しておいてくれ」
 フランチェスコが笑って言った。
 旅立とうとする夫の姿を前にして、アレッシアは涙ぐんだ。
「おいおい、どうした」
「ちゃんと帰ってきてね」
 フランチェスコが妻を抱きしめる。
「今まで何度も町へは行ったことあるだろう? これまでと同じさ。大丈夫だって」
 フランチェスコは妻にくちづけすると、笑顔で村を発った。



<作者のことば>
先日、「レッド・ドラゴン」観ました。
ハンニバル・レクターのような素晴らしいキャラクターが書けたらいいのなぁ、と思います。

ちなみに今回の「シュヴァルダンの獣」はまだ載せないつもりでした。
見直す時間が欲しかったとか先に「TIME」を終わらせたいとかいろいろあったんですが、でも最近は小説を載せるペースが落ちていることもあるので思い切って載せることに! 久し振りに書いたので、早く載せたかった気持ちもあるのですが(笑)

個人的にはこの作品を書いて、何かを得たような気がします。
それを今後に活かせるかどうかはまだ自信がありませんが。改善点もいくつかあって、向かう課題も少し見えたような。
半年か1年振りに制作意欲が湧いてきました。出来れば応援よろしくお願いします。

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COMMENT

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ゴッドファーザー | URL | 2009/06/27(土) 12:46 [EDIT]
とてもうまい・・・
見習いたいです。

匡介 | URL | 2009/06/27(土) 15:25 [EDIT]
>ゴッドファーザーさん
あ、ありがとうございます。
そんな絶句されるほどではないので、どう反応したらいいものか(笑)

もし、どこか参考になるところがあれば大いに参考にして欲しいと思います。
きっと書いてれば俺なんかすぐです! 俺もまだまだなのでお互いに頑張りましょう!

またのお越しをお待ちしております。

caramel* | URL | 2009/06/30(火) 13:48 [EDIT]
こんにちは
私には難しいかな・・と思い 敬遠してました^^;;
が 読ませていただくと・・・ とても丁寧に書かれてあり
状況や 登場人物のこともよくわかり 好感持てました。
・・・ミケーレ茶・・ってどんな味?かなとふと思ったりして・・・。

匡介 | URL | 2009/06/30(火) 17:59 [EDIT]
>caramel* さん
こんにちは。
個人的には久し振りにちょっと密度のある文章書けたかなって思ってます。
ただ登場人物はほとんど書きながら名前を決めて、流れで性格なども決定したって感じです(笑)

ミケーレ茶。もしや誰かに突っ込まれると思ってました。…自分もわかりません(笑)
ただ、この地方では一般的に飲まれているお茶で、名前の由来はミケーレさんが見つけた植物を使ったお茶だからとか、ミケーレさんが最初に作ったお茶だからとかいう諸説があり、正確にはわかっていません(…ということになっている。自分の中では)。
味はというと、おそらくハーブティーっぽいのではないかと思われます。滋養強壮に良いみたいな話もあったりなかったり。
つまり、あまり細かいことはわからない(決めていない)謎の多いお茶なのです(笑)

そんなさりげないところに興味を持って頂けると書いてる側としては嬉しいですね♪
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