コーヒーにまつわる3つの短篇 3/③
先輩は人気ものだった。顔はよく、スポーツもこなせて、勉強もできた。いわゆる万能型で、学年どころが全校生徒の注目の的だった。
奈美は、他の女子同様にそんな先輩に釘付けだった。初めて見たときにはもう一目惚れで、そのあとに彼の噂を聞くたびにますます惹かれ、恋焦がれていくようになっていた。
そんな先輩とはたまに図書館で会う。社交的な性格のせいもあってか、同じ学校だと気付いた彼の方から奈美に話しかけていた。それから奈美は、先輩と仲良くなり、よく話をするようになった。
放課後、いつもの図書館に先輩はいた。この日の奈美はいつもとは違っていて、一種の決意めいた表情をしていた。実は、今日彼女は、先輩に告白をするつもりなのだ。
先輩が、自分のことを好きなのだという噂が流れていることは前々から知っていた。そのせいもあってか、この日、奈美は彼に告白をする気でいた。そう決心を固めていた。
もしかすると一緒に仲良くしているところを見られたことから広まった根拠のない噂なのかもしれない。それでも彼女は、先輩に自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。
勇気を振り絞って図書館で本を読む先輩に声をかけた。
「ん? どうしたんだ?」
先輩は人が良さそうな声で尋ねた。
「あの、そのー、…いや、なんでもないです!」
寸前になって奈美は言えなくなってしまった。
あれほど覚悟を決めたのに…、美奈は心中で叫んだ。
「…え? なに、どうしたの? 何か言いにくいこと? もしかした悩みごととか?」
そんな美奈の気持ちになどまったく気付かないようで、彼は心配そうな声をあげた。
「まあ、悩みっていうか。その、実はー…わたし先輩のことが好きなんです」
うわ、言ってしまった。奈美の心では期待と後悔が入り交じる。
彼は、突然の後輩からの告白で、つい戸惑ってしまっているという感じだった。
「あの、そのな…」
「はい」
「俺、お前のこと好きだし、話したりすると楽しいとも思う」
彼女の心臓は高鳴った。
「…それでも、ごめん。どうしても後輩としか見れてないんだ」
高まった期待が打ち砕かれ、彼女はがっくりと肩を落とした。
それを見た彼は何かを言おうとするが、
「そうですか。でも、いいんです! その、ただ伝えたかっただけだから」
それだけ言うと奈美は駆け出して、図書館を飛び出した。
どうにか先輩の前でだけは泣きたくはなかった。先輩が自分のことを好きだという噂も半分信じていただけあって、彼の返答はつらかった。
しばらく走って、彼女は足を止めた。気付けば息があがるほど全力で走っていた。その瞳からは大粒の涙がぼろぼろと流れていた。
えぐっえぐっ、彼女は好きなだけ泣いた。人通りが少ないアスファルトの上で、彼女は涙を流し続けた。
ようやく泣きやむ頃になると、彼女に近付く人の気配があった。
美奈はそれを感じ、思わず目を向けた。
そこには大柄の男が立っていた。髪は短髪で、重力に逆らうよう、ツンツンに立たせている。
「あのさ、コーヒー飲める?」
唐突な見知らぬ男の質問に、美奈は戸惑ったが、数秒の間を空けて「あ、はい」と答えた。
「そっか。これ飲まないかな?」
そう言って男が差し出したのは、一本の間コーヒーだった。
「さっきそこの自販で買ったらさ、間違えて出てきたんだよね」
彼が笑って指さす先には、たしかに自動販売機が2台ならんでいた。その隣には白いバイクが停めてあった。
「どう? 代わりに飲んでくれないかな?」
男の困った顔を見ていたら、美奈はつい了解をしてしまった。
「ありがとう。助かるよ」
男が差し出した缶コーヒーを、彼女は受け取った。
缶は熱を帯びていて、少し熱かった。
「俺、猫舌でさ。熱いの苦手なんだよね」
男は苦笑する。
彼は奈美の隣に腰を下ろした。そして缶コーヒーを持っていたのとは別な、もう一方の手に持ったオレンジジュースの缶のプルトップを起こす。
「どうかした? 目、赤いよ?」
つい忘れていた事実を指摘され、彼女は目だけではなく顔中が赤くなるのを感じた。
「この一本を飲み終えるまでの間なら話を聞くよ」
そう言って男はオレンジジュースの缶を口元に運び、傾けた。
奈美も缶コーヒーを傾ける。そうして温かいものが彼女の体を巡った。
奈美は、他の女子同様にそんな先輩に釘付けだった。初めて見たときにはもう一目惚れで、そのあとに彼の噂を聞くたびにますます惹かれ、恋焦がれていくようになっていた。
そんな先輩とはたまに図書館で会う。社交的な性格のせいもあってか、同じ学校だと気付いた彼の方から奈美に話しかけていた。それから奈美は、先輩と仲良くなり、よく話をするようになった。
放課後、いつもの図書館に先輩はいた。この日の奈美はいつもとは違っていて、一種の決意めいた表情をしていた。実は、今日彼女は、先輩に告白をするつもりなのだ。
先輩が、自分のことを好きなのだという噂が流れていることは前々から知っていた。そのせいもあってか、この日、奈美は彼に告白をする気でいた。そう決心を固めていた。
もしかすると一緒に仲良くしているところを見られたことから広まった根拠のない噂なのかもしれない。それでも彼女は、先輩に自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。
勇気を振り絞って図書館で本を読む先輩に声をかけた。
「ん? どうしたんだ?」
先輩は人が良さそうな声で尋ねた。
「あの、そのー、…いや、なんでもないです!」
寸前になって奈美は言えなくなってしまった。
あれほど覚悟を決めたのに…、美奈は心中で叫んだ。
「…え? なに、どうしたの? 何か言いにくいこと? もしかした悩みごととか?」
そんな美奈の気持ちになどまったく気付かないようで、彼は心配そうな声をあげた。
「まあ、悩みっていうか。その、実はー…わたし先輩のことが好きなんです」
うわ、言ってしまった。奈美の心では期待と後悔が入り交じる。
彼は、突然の後輩からの告白で、つい戸惑ってしまっているという感じだった。
「あの、そのな…」
「はい」
「俺、お前のこと好きだし、話したりすると楽しいとも思う」
彼女の心臓は高鳴った。
「…それでも、ごめん。どうしても後輩としか見れてないんだ」
高まった期待が打ち砕かれ、彼女はがっくりと肩を落とした。
それを見た彼は何かを言おうとするが、
「そうですか。でも、いいんです! その、ただ伝えたかっただけだから」
それだけ言うと奈美は駆け出して、図書館を飛び出した。
どうにか先輩の前でだけは泣きたくはなかった。先輩が自分のことを好きだという噂も半分信じていただけあって、彼の返答はつらかった。
しばらく走って、彼女は足を止めた。気付けば息があがるほど全力で走っていた。その瞳からは大粒の涙がぼろぼろと流れていた。
えぐっえぐっ、彼女は好きなだけ泣いた。人通りが少ないアスファルトの上で、彼女は涙を流し続けた。
ようやく泣きやむ頃になると、彼女に近付く人の気配があった。
美奈はそれを感じ、思わず目を向けた。
そこには大柄の男が立っていた。髪は短髪で、重力に逆らうよう、ツンツンに立たせている。
「あのさ、コーヒー飲める?」
唐突な見知らぬ男の質問に、美奈は戸惑ったが、数秒の間を空けて「あ、はい」と答えた。
「そっか。これ飲まないかな?」
そう言って男が差し出したのは、一本の間コーヒーだった。
「さっきそこの自販で買ったらさ、間違えて出てきたんだよね」
彼が笑って指さす先には、たしかに自動販売機が2台ならんでいた。その隣には白いバイクが停めてあった。
「どう? 代わりに飲んでくれないかな?」
男の困った顔を見ていたら、美奈はつい了解をしてしまった。
「ありがとう。助かるよ」
男が差し出した缶コーヒーを、彼女は受け取った。
缶は熱を帯びていて、少し熱かった。
「俺、猫舌でさ。熱いの苦手なんだよね」
男は苦笑する。
彼は奈美の隣に腰を下ろした。そして缶コーヒーを持っていたのとは別な、もう一方の手に持ったオレンジジュースの缶のプルトップを起こす。
「どうかした? 目、赤いよ?」
つい忘れていた事実を指摘され、彼女は目だけではなく顔中が赤くなるのを感じた。
「この一本を飲み終えるまでの間なら話を聞くよ」
そう言って男はオレンジジュースの缶を口元に運び、傾けた。
奈美も缶コーヒーを傾ける。そうして温かいものが彼女の体を巡った。
COMMENT
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| | 2009/06/21(日) 21:33 [EDIT]
| | 2009/06/21(日) 21:33 [EDIT]
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| | 2009/06/22(月) 03:20 [EDIT]
| | 2009/06/22(月) 03:20 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
●
匡介 | URL | 2009/06/22(月) 17:50 [EDIT]
匡介 | URL | 2009/06/22(月) 17:50 [EDIT]
>シークレット(6/21)さん
ありがとうございます。
どこか参考に出来る部分があるといいのですが。
えっと、、ちょっと考えてみたんですが、(個人的に)長過ぎず短過ぎずの3日くらいはどうでしょう?
やはり“旅”っぽさも欲しいと思うのである程度の日数は必要なのかな? と思ったのですが。だいたい遠くても~7日ってところでしょうか。
基準を決めてしまって、イメージする距離や地形によって加減するようにしればいいんじゃないかと思います。地図も、自分自身のイメージを固定するのに大きく役に立つと思うのでないよりは作っておいた方がいいかと。おそらくその有無で今後の進行に大きく影響すると思います。
・・・少しでも役に立てましたか?
もし、そのような理由がありましたらメッセージ機能を使って頂けると、もっと細かいことも何かアドバイス出来るかもしれません。応援しているので、頑張ってくださいね。
ありがとうございます。
どこか参考に出来る部分があるといいのですが。
えっと、、ちょっと考えてみたんですが、(個人的に)長過ぎず短過ぎずの3日くらいはどうでしょう?
やはり“旅”っぽさも欲しいと思うのである程度の日数は必要なのかな? と思ったのですが。だいたい遠くても~7日ってところでしょうか。
基準を決めてしまって、イメージする距離や地形によって加減するようにしればいいんじゃないかと思います。地図も、自分自身のイメージを固定するのに大きく役に立つと思うのでないよりは作っておいた方がいいかと。おそらくその有無で今後の進行に大きく影響すると思います。
・・・少しでも役に立てましたか?
もし、そのような理由がありましたらメッセージ機能を使って頂けると、もっと細かいことも何かアドバイス出来るかもしれません。応援しているので、頑張ってくださいね。
●
匡介 | URL | 2009/06/22(月) 18:05 [EDIT]
匡介 | URL | 2009/06/22(月) 18:05 [EDIT]
>シークレット(6/22)さん
お久し振りです。コメント嬉しいです♪(笑)
統合することにことにしたんですね、俺もそれが良いと思いますよ。
そのズレってありますよね。ホント難しい問題です。
やはり書くからには面白いと思ってもらいたい! そういう想いが俺にもあります。
でも他人を楽しませるには自分自身が楽しまないと!! 最近はなかなか小説が書けなくて、楽しみながら書くことが出来ず悩んでるんですけどね。
俺は、○○さん(←笑)が書きたい!と思ったものを読みたい!と思います。なのでまずはご自身で満足のいけるものを目指して欲しいなー?(笑) なんて(笑)
つーか、参考にされていたんですか!!?(笑)
俺もいっつも参考にさせてもらってますよ!!(笑)
とっても素晴らしい文章だと思ってます。
逆に会話以外の文章が苦手なので(つい会話多くなってしまう)、そこを多々参考にさせてもらってます! お互い苦手を補っていきましょう(笑)
是非是非また遊びにいらしてくださいねー!!
来てくださるのを楽しみにお待ちしています♪
お久し振りです。コメント嬉しいです♪(笑)
統合することにことにしたんですね、俺もそれが良いと思いますよ。
そのズレってありますよね。ホント難しい問題です。
やはり書くからには面白いと思ってもらいたい! そういう想いが俺にもあります。
でも他人を楽しませるには自分自身が楽しまないと!! 最近はなかなか小説が書けなくて、楽しみながら書くことが出来ず悩んでるんですけどね。
俺は、○○さん(←笑)が書きたい!と思ったものを読みたい!と思います。なのでまずはご自身で満足のいけるものを目指して欲しいなー?(笑) なんて(笑)
つーか、参考にされていたんですか!!?(笑)
俺もいっつも参考にさせてもらってますよ!!(笑)
とっても素晴らしい文章だと思ってます。
逆に会話以外の文章が苦手なので(つい会話多くなってしまう)、そこを多々参考にさせてもらってます! お互い苦手を補っていきましょう(笑)
是非是非また遊びにいらしてくださいねー!!
来てくださるのを楽しみにお待ちしています♪
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