魔人狩り②
ケータイから今流行りのアーティストの曲が流れ出した。
マユミは充電コードに繋がったままのケータイを手に取って、開く。
「もしもし?」
電話の相手はカナエだ。
「もしもし? マユミ?」
「んー、どーしたー?」
「今からそっち行っていい?」
「今!?」
マユミは部屋にある壁掛けの時計を見た。もう深夜の12時を過ぎている。
「ダメ?」
「ダメってアンタ! どうかしたの?」
「親とケンカしちゃった」
「ケンカぁ? それで家を飛び出しちゃったわけ?」
「うん」
「わかった! いいから早くおいでよ。着いたらメールして」
「うん、ごめんね」
「いいっていいって。気をつけておいでね」
そう言ってマユミはをケータイを閉じた。
***
まもなく、時刻は深夜1時をまわろうとしていた。
もうマユミの家の近所にまで来ている。カナエは急いだ。
人気がなく、少ない街頭でやっと歩くほどに見えるだけ照らされた住宅街の路地は薄気味悪い。コツコツコツ。突然聞こえてくる足音に、カナエは足を止め、周りを見回した。あたりには誰もいないように見える。コツコツコツ。彼女はドキリとする。そういえばマユミの家の近所に変質者が現れるという話を思い出して、カナエはぶるぶると身震いをした。
(早く…早く行こう。)
コツコツコツ。
マユミは歩を早めた。
コツコツコツ。
足音は近付いてくる。
「あっ!」
カナエは何かとぶつかってしまった。
顔から思いっきりぶつかったので、鼻が痛かった。
「なんだ、またお前か」
どこか聞き覚えのある声がして、改めて前を見ると、この前の2度もぶつかったあの男が立っていた。自分の前にいるのが、人のことを平気で無視していく非常識な男だと確認すると再びカナエの中にある憤りがよみがえってきた。
「あー! この前の!」
「声が大きい。もう少し静かにしてくれないか」
「だって! あの、赤の他人にこんなこと言うのもなんですけど、この前の、あれ少しひどすぎると思うんですけど」
「この前? 何かあったか?」
(何かあったか? 人のこと無視しておいてそれはないでしょ!!)
「何だか知らないが、もう行っていいか?」
この男の一言に、カナエはカチンときた。
「ええ! ええ! いいですよ! 勝手にどこへでも行ってください!」
「もっと静かに話すことはできないのか? 何をそんなに怒ってる」
「何をって、そんなのもわからないの?」
「わからないな。ヒステリーってやつか?」
「な、なんであたしがヒステリー起こさなきゃならないの!」
「女はヒステリックな生き物だと聞いた」
「失礼な男」
「悪かったな」
「別に!」
「お前、こんな時間に何をしてるんだ?」
男の突然の問いにカナエは動揺してしまった。
「え? と、友達の家に行くところなのよ」
「そうか。早く行った方がいい」
「言われなくたって」
「この近くか?」
「え?」
「その友達の家」
「う、うん」
「そうか、だったら送って行ってやろう。こんな時間にひとりは危ないだろう」
「え? いや、でも」
「どうした? 早く行くぞ。友達の家、どっちだ」
(いきなり何言ってるの? 送ってやるって、そりゃ、ひとりで心細かったけど…)
そうしてカナエは半(なか)ば無理やりに男に引き連れられ、マユミに家へと向かうことになった。
***
数分。カナエは未だ素性のわからぬ男と一緒に歩いていた。
歩いてる間は沈黙が続いている。何か話そうとは思うのだが、何を話したらいいのかカナエにはわからなかった。おかげで沈黙は続く。
(うわぁ、苦しい。何か話してくれたら楽なのに。わたしから何か話せばいいの? あー、もう早くマユミんちに着け~!!)
男は出会ってからずっと無表情のままだった。何を考えているのかもわからないといった感じだ。
「なんでこんな時間に友達の家に?」
突然、男が口を開いた。
「え? あ、ああ。ちょっと、親とケンカしちゃって」
「ケンカ?」
「うん。別に大したことじゃないんだけどね」
「そうか」
男はカナエにケンカの理由を訊くこともなく再び口を閉ざした。
「あの、ひとつ訊いていい?」
「なんだ?」
「名前、なんていうの?」
「俺のか?」
「他に誰がいるのよ」
「霧島だ」
「下の名前は?」
「暁(アキラ)」
「ふーん。わたしはカナエっていうの。棗田カナエ」
カナエが自分の名前を口にしても霧島は興味がないのか「そうか」とだけ返事をし、それ以上なにも言わなかった。
「ねえ、それなに?」
カナエが指差した先には長い布袋があった。それは会ったときから霧島が持っていたもので、彼女はずっとそれが何なのか気になっていたのだ。
そのとき、
グォォォォォォオオ
低い唸り声のようなものが響き渡った。
「な、なに? 今の」
まるで遠吠えのようにそれは繰り返し聞こえた。
「カナエ。俺の後ろにつけ」
カナエは霧島の言われたとおりに、彼の背後へと回り、じっとしてした。
「これを何かと訊いたな? 見せてやるから持っていろ」
そう言って霧島は布袋からなにやら黒いモノを取り出した。見るからにそれは日本刀であった。
霧島は取り出したあとの布袋をカナエに放った。それを彼女は慌ててキャッチする。
「泣き喚くなよ」
突如として霧島たちの前に、ひとつの人影のようなものが現れた。
霧島は携えた刀の柄元を握り締め、人影に向かって身構えた。
マユミは充電コードに繋がったままのケータイを手に取って、開く。
「もしもし?」
電話の相手はカナエだ。
「もしもし? マユミ?」
「んー、どーしたー?」
「今からそっち行っていい?」
「今!?」
マユミは部屋にある壁掛けの時計を見た。もう深夜の12時を過ぎている。
「ダメ?」
「ダメってアンタ! どうかしたの?」
「親とケンカしちゃった」
「ケンカぁ? それで家を飛び出しちゃったわけ?」
「うん」
「わかった! いいから早くおいでよ。着いたらメールして」
「うん、ごめんね」
「いいっていいって。気をつけておいでね」
そう言ってマユミはをケータイを閉じた。
***
まもなく、時刻は深夜1時をまわろうとしていた。
もうマユミの家の近所にまで来ている。カナエは急いだ。
人気がなく、少ない街頭でやっと歩くほどに見えるだけ照らされた住宅街の路地は薄気味悪い。コツコツコツ。突然聞こえてくる足音に、カナエは足を止め、周りを見回した。あたりには誰もいないように見える。コツコツコツ。彼女はドキリとする。そういえばマユミの家の近所に変質者が現れるという話を思い出して、カナエはぶるぶると身震いをした。
(早く…早く行こう。)
コツコツコツ。
マユミは歩を早めた。
コツコツコツ。
足音は近付いてくる。
「あっ!」
カナエは何かとぶつかってしまった。
顔から思いっきりぶつかったので、鼻が痛かった。
「なんだ、またお前か」
どこか聞き覚えのある声がして、改めて前を見ると、この前の2度もぶつかったあの男が立っていた。自分の前にいるのが、人のことを平気で無視していく非常識な男だと確認すると再びカナエの中にある憤りがよみがえってきた。
「あー! この前の!」
「声が大きい。もう少し静かにしてくれないか」
「だって! あの、赤の他人にこんなこと言うのもなんですけど、この前の、あれ少しひどすぎると思うんですけど」
「この前? 何かあったか?」
(何かあったか? 人のこと無視しておいてそれはないでしょ!!)
「何だか知らないが、もう行っていいか?」
この男の一言に、カナエはカチンときた。
「ええ! ええ! いいですよ! 勝手にどこへでも行ってください!」
「もっと静かに話すことはできないのか? 何をそんなに怒ってる」
「何をって、そんなのもわからないの?」
「わからないな。ヒステリーってやつか?」
「な、なんであたしがヒステリー起こさなきゃならないの!」
「女はヒステリックな生き物だと聞いた」
「失礼な男」
「悪かったな」
「別に!」
「お前、こんな時間に何をしてるんだ?」
男の突然の問いにカナエは動揺してしまった。
「え? と、友達の家に行くところなのよ」
「そうか。早く行った方がいい」
「言われなくたって」
「この近くか?」
「え?」
「その友達の家」
「う、うん」
「そうか、だったら送って行ってやろう。こんな時間にひとりは危ないだろう」
「え? いや、でも」
「どうした? 早く行くぞ。友達の家、どっちだ」
(いきなり何言ってるの? 送ってやるって、そりゃ、ひとりで心細かったけど…)
そうしてカナエは半(なか)ば無理やりに男に引き連れられ、マユミに家へと向かうことになった。
***
数分。カナエは未だ素性のわからぬ男と一緒に歩いていた。
歩いてる間は沈黙が続いている。何か話そうとは思うのだが、何を話したらいいのかカナエにはわからなかった。おかげで沈黙は続く。
(うわぁ、苦しい。何か話してくれたら楽なのに。わたしから何か話せばいいの? あー、もう早くマユミんちに着け~!!)
男は出会ってからずっと無表情のままだった。何を考えているのかもわからないといった感じだ。
「なんでこんな時間に友達の家に?」
突然、男が口を開いた。
「え? あ、ああ。ちょっと、親とケンカしちゃって」
「ケンカ?」
「うん。別に大したことじゃないんだけどね」
「そうか」
男はカナエにケンカの理由を訊くこともなく再び口を閉ざした。
「あの、ひとつ訊いていい?」
「なんだ?」
「名前、なんていうの?」
「俺のか?」
「他に誰がいるのよ」
「霧島だ」
「下の名前は?」
「暁(アキラ)」
「ふーん。わたしはカナエっていうの。棗田カナエ」
カナエが自分の名前を口にしても霧島は興味がないのか「そうか」とだけ返事をし、それ以上なにも言わなかった。
「ねえ、それなに?」
カナエが指差した先には長い布袋があった。それは会ったときから霧島が持っていたもので、彼女はずっとそれが何なのか気になっていたのだ。
そのとき、
グォォォォォォオオ
低い唸り声のようなものが響き渡った。
「な、なに? 今の」
まるで遠吠えのようにそれは繰り返し聞こえた。
「カナエ。俺の後ろにつけ」
カナエは霧島の言われたとおりに、彼の背後へと回り、じっとしてした。
「これを何かと訊いたな? 見せてやるから持っていろ」
そう言って霧島は布袋からなにやら黒いモノを取り出した。見るからにそれは日本刀であった。
霧島は取り出したあとの布袋をカナエに放った。それを彼女は慌ててキャッチする。
「泣き喚くなよ」
突如として霧島たちの前に、ひとつの人影のようなものが現れた。
霧島は携えた刀の柄元を握り締め、人影に向かって身構えた。
| ホーム |