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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/06/21(土)   CATEGORY: 短篇小説
魔人狩り①
 学校帰りの棗田 カナエはホームに停車した電車のドアが開くと、降りてきた人たちを避け車内へと乗り込もうとした。しかしそのとき、遅れて降りてきた男の肩にドンと強くぶつかった。
 カナエは男を見たが、男は何もなかったかのように彼女を無視してホームから続く階段を昇っていく。非常識な男だとカナエは思った。しかしそれにいちいち腹を立てていても仕方ないことだと思い、彼女は車内に入り、空いている席に座った。
(結構、カッコイイ人だったなぁ…。)
 電車が走り出した。カナエはぶつかった男を思い出す。
 男は黒髪の長身で、端整な顔立ちだった。突然の出来事だったのでよくは覚えていないが、カナエにはそう見えた。前髪が目元にかかっていて、少しうざったいくらいだったけれど、その合間から見えた目からは強い力を感じていた。一瞬にして、彼女はそう思っていた。

「ここらへんも最近、変な人が出るらしいからカナエちゃんもあんまり遅くまで居ちゃダメよ」
 マユミの母親がそう言うと、カナエは「はい、わかりましたー」と返事をした。それを聞いたマユミは「はいはい、わかったから行った行った!」と母親を追い払おうとする。「じゃあ、ごゆっくりね」とマユミの母親は言って、部屋を出た。遅くまで居ちゃダメだって言うのに、ごゆっくりとはおかしいんではないか? とカナエは一瞬思ったけれど、大したことでもないので放っておくことにした。マユミの母親なりの気遣いというものだろうと無意識に解釈する。
「なんか最近、ここらへんに変質者が出るとかでウチの親も気にしてんのよ」とマユミが言う。
「変質者って自分の裸を見せてくるとか?」
 カナエは笑いながら冗談まじりに言った。
「さあ? アタシも詳しくは知らないけど、変質者は変質者なんじゃん?」
 マユミの部屋は女の子らしく可愛いものを覆い尽くされている。動物のぬいぐるみなどが多くあり、色もピンクなどが多いファンシーな部屋だ。ちょっと女の子すぎるのでは? とカナエは思うのだが、マユミは全然気にしていないらしい。カナエが初めてこの部屋に入ったときは、どうにもマユミの部屋だとは思えなかったものなのだ。それほどマユミとこの部屋のイメージは程遠い。

 マユミの部屋で3時間ほど取り留めのない話をしたあと、カナエは帰ることにした。
 外は暗くなっていた。少々長く居座りすぎたかもしれないと少し急ぎ足で家路を辿る。ふと変質者の話を思い出した。急に心細くなり、カナエはあたりを注意深く見回した。
(早く帰らなきゃ…!!)
 カナエは急いで歩く。すると焦ってしまっていたからか、路地の角で誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
 彼女は咄嗟に謝った。そしてぶつかった相手を見る。
 するとその相手は電車に乗る際にぶつかったあの男だった。
(この人、ホームでぶつかった人だ…。)
 男はカナエのことなど気にも留めないようで、何事もなかったように通り過ぎようとした。
「あ、あの…」
 カナエの声に男は足を止めた。
「なんだ?」
 ぶっきらぼうな彼の言い方に、彼女は少し戸惑う。それでも勇気を出して言った。
「あの、憶えてませんか?」
「何をだ?」
 改めて見ると、やはり整った顔立ちの青年だった。
「夕方に、駅のホームでもぶつかったんですけど…」
「それで?」
 彼にそう言われて、カナエは自分自身が何をしたかったのかがわからなくなっていた。なんでこんなことを言ったのだろう? 彼女はどうしたらいいかわからないという気持ちに駆られる。
「別にあなたが悪いとは言いませんけど、一言、謝ってくれてもいいんじゃないですか?」
「それだけか?」
「え? ええ…」
「じゃあ、行くぞ」
 そう言って男はカナエに構わず行ってしまった。
 彼が去って残された彼女は呆然としてしまったが、しばらくして腹立たしさが戻ってきて、なんなの! と不満げなまま家に帰った。

***

 深夜2時。真夜中の路地をふらふらと歩く男。
 それを見た警官のひとりが声をかけた。
「なんかさっきから歩き方が不安定だけど、大丈夫?」
 警官の男は20代前半で若かった。まだ新米なのかもしれない。
「どうしたの? もしもし?」
 返事をせず、ふらふらと歩き続ける男に警官は言った。
「とりあえず、止まろうよ? ね?」
 歩き続ける男は30歳くらいに見える。酔っているのだろうか? 警官は男の肩に手を置いて、男を止めようとした。
「ぎゃあああああ!!」
 響く叫び声。
 警官が男の肩に触れたその瞬間に、男は警官の腕を掴みそれを食いちぎったのだ。
「ガァァァァアア」
 低く唸る男。
 その場にしゃがみ込み悶(もだ)える警官。
「ア゛ア゛ッ!! 手がァッ!! 俺のッ 手がッ!!」
 いきなりの出来事に警官は錯乱していた。もう何がなんだかわからなくなっていて、状況を把握できていない。まあ、冷静であってもそう状況を理解することは適(かな)わないだろうが。
「警官か。面倒だな」
 そういう声が警官の耳に入ってきた。どうやら自分の手を食いちぎった男のものとは違う声だと混乱の最中(さなか)に思った。
「おい、まだ生きてるか?」
 痛みを堪えて警官の青年は声の主を見上げた。
 それは若い男だった。自分よりも若いだろうと警官は思った。身長が高く、細身の男だった。顔はあたりが暗いのに加えて、前髪で目元が隠れているためによく見えない。
「たッ 助け‥ッッ」
 うずくまっていた警官が彼を見上げながら助けを求めようとしたそのとき、彼の視界は途切れた。
 警官の頭は、先ほどの男によって食いちぎられたのだ。助けを求める声も全てを出し切れずに男は死んだ。
 頭を食いちぎられ、死んだ警官を青年は見下ろした。ドクドクと血が流れている。
「悪かったな。助けられなくて」
 そう言って男は持っていた布袋の紐を解いた。布袋は細長く、中には棒状のものが入っていると察せられる。
「せめて仇はとってやろう」
 青年は紐を解いた布袋の口から、鞘に納められた刀を取り出した。
 そして刀をゆっくりと鞘から抜き取る。それは見事な日本刀だった。刃の部分は美しく妖艶に光り、思わず息を呑んでしまう。
 警官を噛み殺した男はそれを見るやいなや青年に飛びかかる。青年は鮮やかに男を避け、男に背後から斬りかかった。
 次の瞬間、男の頭はずれ落ち、首から上は血が舞い上がる。
 青年は刃先に付いた血を拭き取ると鞘に納め、元々入れてあった布袋に刀を仕舞った。


<作者のことば>
全5話の短期連載です。
短いので、是非お付き合い願えたらと思います。

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