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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/05/12(火)   CATEGORY: 短篇小説
TIME(6)
 アパートの部屋のドアを開けたらそこは見知らぬ家だった。
 古い造りの家で、奥の方から人の気配がする。誰だろうか?
「ねえ、お母さん」幼い声だった。
「なあに」
「ボク、弟か妹が欲しい」
 覗いてみると、そこには男の子とその母親と思われる二人がいた。
 母親の表情は、どうしてだろうか少し曇って見える。
「そうかぁ。それはお父さんと相談してみないとね」
 男の子は「お父さんにちゃんと頼んでね」と嬉しそうに言った。見たことのあるような気のする顔だった。

 不意に、時間が飛んだ。

 この家の主が帰ってきたようだ。バレないようにと男の子の父親の顔を覗き見る。
 それは、祖父だった。
 ――これも夢か?
 帰ってきたのが祖父だとすると、じゃあ…。
「ただいま、雄一郎」
 やはり父の名前だ。だとするとここは父が育った家? それも父がまだ幼い頃の。
 混乱してきた。夢なのか? とりあえず、誰にもバレないように身を隠しながら様子を窺う。しばらくすると男の子――父、雄一郎だ――が寝た。
「雄一郎がね、弟か妹が欲しいって言ってたの」
「…そうか」
「やっぱりひとりじゃ寂しいのかしら。本当に申し訳ないわ」
「登喜子、仕方ないじゃないか。いつか雄一郎だってわかってくれるさ」
「でも…、もし私が――」
 その言葉を最後まで聞き終える前に、ひどく眩暈がした。よろついてしまい、壁にぶつかった。
 やばい、――そう思ったときにはもう遅かった。
「誰だ!!」
 祖父、幾雄が叫んだ。
 智生は慌てて玄関に向かった。
 玄関を抜けると、また景色は変わっていた。

***

 智生は幼い頃に父親から聞いた話を思い出していた。
「お父さんが小さい頃に、家に泥棒が入ってな。そのときお父さんは寝てたんだけど、おじいちゃんが気付いて退治してくれたんだ。そのときは運良くおじいちゃんが気が付いてくれたからよかったけど、だからちゃんと戸締りはしないとダメだぞ」
 ――その泥棒って、もしかして俺か?
 やっと自分に起こっている事態を理解し始めた智生は、昔の記憶を甦らせながら思った。
 ――俺は過去に行ってきたのか?
 智生の身に起きているのは、まさしくタイムスリップそのものだった。過去に移動して、過去を見てきた。もしそうだとすれば、何となく納得できる。
 どうしてこんなことになっているのかわからない。それに、自分の意思に関係なく起こっているらしいのがどうにも面倒だ。こうして次々と場面が切り替わられては堪ったものではなかった。
 今いるのは、智生のアパートの部屋だった。
 実はついさっきまで美和がここにいた。なぜか自分は押入れの中にいて、タイミングがわからず、出ることが出来なかったのだが、美和は1枚のメモを残して部屋を出ていった。
 メモにはひとこと、『さよなら』とだけ書かれている。
 今追えば、美和がどうして俺の前からいなくなったのかがわかるかもしれない。でも、それも怖かった。結局、何も出来ないまま時間だけが過ぎる。
 智生は、ささやくような声で呟いた。
「美和、どうしていなくなった?」



<作者のことば>
実は「時間移動」というのは、以前たまたまゲーム売り場で「レイトン教授の最後の時間旅行」を見て思い付いたもの。
ゲームそのものはやったことないし、知っているのはタイトルだけなのだが、そのとき「へーえ、時間旅行かー」と思ったその次の瞬間には今回のこの「TIME」が思い付いていて、それから特に考えることなく書き始めた。…のだけれど、今となっては本当何でもっと考えてから書かなかったのかと後悔。これはきちんとしたプロット(おれはこの作業が苦手なのだけれど)に沿って書くべきものだったように思える。しかしもはや「後悔先に立たず」。これって名言かもしれないが、あまり役に立つ言葉ではないよなー。実感したとき思うけどね、事前に気をつけるのは至難の業に思えるぜ。

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