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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/05/06(水)   CATEGORY: 短篇小説
TIME(4)
 父親が死んでから1週間が経った。すでに葬儀は終え、納骨も済ませた。もう他に家族がいなくなった智生としては忙しい1週間だったが、やっと一息つける。気付けば再び煙草を吸うようになっており、智生の日常に帰ってきていた。
 思えば禁煙を始めたのも、美和に言われたからだった。今となっては気にする必要もない。燻らせた紫煙をじっと見つめながらそう思った。
 ――しかし、あれは夢だったのか?
 1週間前のあの出来事。智生はいつもより多めにビールを呷(あお)り、翌朝には重い二日酔いに陥っていた。そして気付くと、見知らぬ公園で寝ていて、見知らぬ女の部屋でココアを飲んだ。その後、父親の死を思い出して、新鮮な空気を吸いに外に出ると、酷い眩暈(めまい)を感じて倒れた。次に目を覚ましたときには自宅のトイレで、きっと飲み過ぎてそこで寝てしまって見た夢なのだろうと思った。
 ――でも。
 妙にリアルな夢だった。今でも鮮明に思い出せる。
 彼女は智生のことを知っていた。けれど智生は彼女の名前を知らない。訊くことが出来ないまま、気付いたらトイレを抱いていたからだ。
「まあ、夢だ」
 再び紫煙を燻らせた。
「ついに独りになったか…」
 智生に、もう家族はいない。母親はいなくなり、父親も死んだ。兄弟はいない。祖母は3年前に死んでいたし、祖父は智生が生まれる前に事故でこの世を去っていた。
 父親のことは嫌いだった。ずっと不仲だったし、父親がもう長くはないことを知っていたにも関わらず、結局一度も病院に足を運んだことはなかった。死んで、やっとか、そう思っている自分がいることに智生は気付いていた。
 父親のことを嫌いになった理由はたくさんあるかもしれない。でも、その根本的な原因は母親の不在だった。母親がいないことを父親に当たった。何度も。何度も。今考えてみれば、自分のせいで母親がいなくなったと責任を感じていたのかもしれない。母親のことで当たる智生を、父親は一度も怒ったことなどなかった。ただ、哀しげな表情が浮かんでいたような気がする。
 今でも、父親のことを憎んでいる。
 美和が突然いなくなったことも、あの父親の血が悪いのだとも思う。
「なあ、雄一郎」智生は自分の父親の名前を口にした。懐かしい響きだ。「自分の子に恨まれ、憎まれる気持ちってどんなだ? 嫌われたまま死ぬってどんな気持ちだった?」
 死んで清々した。
 そう思うのと同時に、智生は心の底にある澱のようなものを確かに感じていた。



<作者のことば>
何か短いなぁ。

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