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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/04/25(土)   CATEGORY: 短篇小説
TIME(1)
 プシュ、という音は「お疲れさま」と同義語だ。それを聞いた瞬間に、自分自身も「お疲れさま」と心の中で声をかける。智生はぐいと缶ビールを傾け、ごくごくと心地好い音を立てながらその3分の1ほど飲んだ。
 校了を終えたあとのビールは格別だといつも思う。
 買ってきた弁当を取り出して、割り箸を割った。もう食べ飽きたコンビニのものだが、外食をする気にはならないし他で買うのも面倒だ。結局いつも同じコンビニの弁当になる。もちろん自分で作る気などは毛頭無かった。
 テレビを点けようとしてリモコンに手を出すと、その隣には1冊の文庫本があった。それを手に取って立ち上がり、本棚に戻そうとする。ちょうど1冊分空いているスペースがあり、そこに本を差し向けた。
ふと手を止める。
 仕舞おうとしていた本を開いて、中から1枚の写真を取り出した。そこには智生ともうひとり、同年代の女性が写っている。
 もう2ヵ月もなるのに忘れられない。智生は溜め息を吐いた。自分には大きな未練がある。
 智生と一緒に写真に写っていたのは、彼が2ヵ月前まで付き合っていた美和だった。別れたわけではないが、彼女が突然姿を消して2ヵ月になる。いなくなった理由はわからないが、もう別れているも同然だった。
 何がいけなかったのだろう?
 智生にはそれがわからなかった。ただ『さようなら』と書かれたメモだけを残して彼女は消えた。智生は大学を出てからずっと同じ小さな出版社に勤めている。確かにこの仕事に対して美和が不満を漏らしていたことも事実だった。特に校了前は忙しく、泊り込みの仕事になることも多い。それでも智生はこの仕事が好きだと思う。美和がそのことに理解を示してはくれなかったが、そう簡単に辞めようとも思わなかった。一生続けるには難しいことはわかっていたし、もし彼女と結婚することになるなら別の職場を探さなければならないだろうかった。だからこそ今はまだ続けたい、そう智生は思っていた。
 それが原因だったのだろうか。もし、そうだとしても腑に落ちないこともある。自分と付き合うことに嫌気が差したんだとしても、何も言わずいきなりいなくなることはないだろう。その後、美和は自分の職場にも現れていない。完全に失踪したのだ。
 突然失踪しなければならないくらい、自分は嫌われていたのだろうか。不満は多かったようだが、愛想を尽かされるほどではなかったはずだ。愛想を尽かされたところで、直接そう言えばいいのだから失踪する理由にはならない。何か、傷付けるようなことを言っただろうか? 心底嫌悪の対象になるような、もう自分の居場所すら知られたくなくなるようなことをしてしまったのだろうか? わからない。
 智生は写真を再び本に挿(はさ)み、文庫を本棚に戻した。その本は美和に初めてプレゼントされたものだった。本は元あったスペースに収まった。
 テレビは止めて、ミニコンポのスイッチを入れた。何気なく再生ボタンを押すと、すでにCDが入っていたらしくマイルス・デイビスの「So What」が流れてきた。彼のサックスに耳を傾けながら思う。「So What」はデイビスの生前の口癖だったらしい。今のこの状況に「だから何?」そう言えたらどれだけいいことだろう。もしかして今回の失踪は彼女からのメッセージなのか? だとしたら彼女は俺に何を伝えたい? 俺はどうすればいい? 智生はやめたはずの煙草に手を出した。もう2年間も離れていたにも関わらず、無性に吸いたくなって帰りに買った煙草だった。


<作者のことば>
久し振りに書いたので、リハビリ感覚。
思いついたまま書いたせいで、かなりも矛盾というか矛盾的感覚。つまりはストーリーあるいは設定上の齟齬、もしくは違和感を感じる箇所が数多く感じられる。……まぁ、元々そんな感じだといったらそうなのだけれども(汗) ということで、そこらへんはご勘弁を。

しかしバイオレンス宣言していたのに、それはいずこへ?(笑)

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