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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2009/04/15(水)   CATEGORY: 短篇小説
晴れのち人のち死のち生のち雨。
 もう嫌だ。そう思った。
 人生に嫌気が差したと言ったらそれで終わりだと思う。他に言うことはない。人には向き不向きというものがあって、僕にはこの世界が向いてなかったんだと思う。人間社会って妙なしがらみで覆われていて、まあ、他の動物にも多少は社会とか秩序とかあるんだろうけど、とりあえず人間社会はしがらんでいる。しがらむっていう動詞があるかもわからないけれど、あることにしておこう。
 階段を一段上がることによって、この気持ちは重くなり、軽くもなっている。
 この両足はこれ以上進むことを拒んでもいるが、望んでもいた。これは否定し合っている関係ではないから、矛盾ではないと思う。そもそもそう簡単に物事を二分しようとするのは人間の悪い癖じゃないだろうか。
 もう階段はなくなり、目の前にあるのはドアだけとなった。
 僕はゆっくりとそのドアを開けた。少しだけ手が震えている。これは恐れか、はたまた歓喜か。
 屋上に出ると頭上には雲一つない青空が広がっていた。まさに快晴だ。心地好い。
 フェンスに跨り、そして元いた場所とは反対側に飛び降りた。
 あと数センチの僕の人生は終わる。
 少しだけこの人生を思い返してみる。きっと数センチ先からはあっという間の出来事だから、思い返すことが出来るのは今だけだろう。走馬灯なんてものが実際にあるのか僕は知らない。
 記憶という曖昧なフィルムを高速で映像に移す。楽しいこともあった。そして苦しいことも多かった。
 僕は少しだけ微笑む。
 次の瞬間、僕は跳んだ。
 世界に羽ばたくように。
 あくまで羽ばたくようにで、そのあとは当然のことながら落下していく。
 加速度的に落下する僕のこの躰は、あっという間に地表へと近付いていく。
 僕は、そこで意識を失った。

 アスファルトの上で無惨にも飛び散った僕の肉塊を見て、大勢の人が嫌悪感を抱いただろう。
 それと同時に、死を認識して、生を自覚する。

 僕は死んで肉塊になった。心臓は止まり、脳も活動していない。
 
 途切れた意識が再び戻ると僕は赤ちゃんになっていた。
 生まれたばかりの赤ん坊。泣き叫び、生を体感している。その叫びは、生を得たことへの歓びか、生を得たことでの悲しみか。
 とりあえず死んだはずの僕は次の瞬間には生まれていた。
 輪廻とはまた違うかもしれないが、それに似たものだろうか。
 僕は躰を動かそうとするが上手くいかなかった。それは赤ん坊では勝手が違うのかと思っていたら、それは違った。
 この躰は僕の意思では動かない。
 あくまでこの赤ん坊を通して、僕はヴィジョンとして観ているだけで、この赤ん坊は僕のものではなかった。視覚も聴覚も嗅覚も味覚も触覚もある。けれどそれは僕がこの赤ん坊を媒体にして世界を感じ取っているだけで、僕の躰ではない。
 まるで五感がある映画でも観ているような感覚。
 これは生でもなく死でもなく、自分でも何て言ったらいいかわからない。ただ、僕はこの子を通して再び世界を観なければならないようだ。
 僕は深く息を吸い込む。――あくまでそういう気持ちなだけであって、すでに自分の肉体がない僕には呼吸など不要であるし、出来ないけれど。
「やあ、また逢ったね」
 僕は世界に声をかけた。

 ***


 気付くと僕はベッドの上で、そこは見慣れた自分の部屋で、そしてすべてが夢だったのだと悟る。
 ゆっくりと起き上がり、一口だけ水を飲んで、そこらへんにあった適当な服を着て外に出た。
 外の空気は思っていたよりも澄んでいて、空はあのときと同様に青かった。
 多少の心地好さを覚える。
 これだけ気持ちがよく日は、死ぬには最高の日だなと思って僕は笑った。
 だって、どうせ死ぬなら気持ちよく死にたいだろ?
 それでも僕はまだ死なないし、だけど代わりにどっかで誰かが死んでいて、新しい命も誕生している。そして相変わらず世界は廻っていて、僕はそのことに悔しさを感じながら今日も明日もあさっても生きていく。
 天気予報を信じるならば、午後からは天気が崩れるそうだ。





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COMMENT

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卍リシャール卍 | URL | 2009/04/15(水) 17:53 [EDIT]
お久しぶりです。

非常に意味深な文章が続いていて・・・難しかったです。

生と死は人類の永遠のテーマかもしれませんね。

匡介 | URL | 2009/04/15(水) 18:43 [EDIT]
>卍リシャール卍さん
本当、お久しぶりです。
書いてる側はそんな難しいことを考えていないのですが(笑)、それとは関係なく読み手はいろいろな受け取り方があるのも表現の面白さだと思います。
ちなみに最後の部分は蛇足かな? と思いつつ、足してしまいました。今でもどっちがいいのかわからないです。

自分としては当初、奇談(奇譚)として書こうと思ったのですが、わかりにくいかなって思って結局のところ夢オチに(汗)
以前から輪廻転生があるのならば、もしかして前世の意識を魂が持っているのではないか? という想像はしていて、前世と現世の意識はひとつの魂を共有していつつも、前世の意識は実際に肉体を持つ現世の意識(そして肉体)に干渉は出来ず、ただ傍観者となって存在しているのかもっていう妄想を、ついに今回こうしてカタチになりました(笑)
まあ、言うならばまるで背後霊みたいな存在ですね。もし前世の前世、前世の前世の前世とたくさんの意識がひとつの魂を繋ぎにして連なっているとしたら相当怖いですよね。プライバシーのかけらもない(笑)

それに加えて“死”という若干へヴィなものを扱ってみました。
人生が苦になって自殺することは一般的には負のイメージが強いですが、どちらかというと死=解放に向かっていく、ネガティヴなはずなのにポジティヴな文章を意識して書いてます。生は必ずしも善いことではなく、同じように死も悪いことではない。しかし生が悪いものではなく、死だって善いというわけではない。生と死に善悪はない。そういう思いは込めて少しだけ込めてありますね。
つまりは生と死に対する既成概念を壊してしまいたいってことかもしれません。まっさらな状態から生と死を見直してみるのもまた面白いと思います。

…何か久しぶりなせいか、思った以上に長く書いてしまいました。
あまり細かいこと言うのってよくないですよね(汗)
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2009/04/15(水) 19:06 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

匡介 | URL | 2009/04/15(水) 20:50 [EDIT]
>シークレットさん
コメントどうも。久々に更新したのに、こうしてコメントを頂けるっていうのは嬉しいですね。楽しんで頂けたのなら幸いです。
善悪、というともしかしたらニュアンスが若干違うかもしれません。語弊があるといけないので「正」と「負」に置き換えてしまいましょうか。なんとなく死はイコールで負、マイナスなイメージが拭えません。頑張って生きてたら正しくって、自殺なんてまるで悪いことのようです。それでも自殺は絶えないわけで、実際のところ動物には自殺因子がプログラミングされているわけで、じゃあ自殺ってなに? もしかして生存本能の発露では? なんて思っちゃいますねー。だって苦しいことから逃れようとするのは生物の理で考えると「生きようとすること」な気がしません?
しかしそう言ってしまうと矛盾が生じてしまうような(笑)

だったらこの場合の生きるってなに? そう考えてみると、自殺によって回避しようとしているのは心の崩壊、精神的な死を意味している気もします。まあ、肉体が死んだら精神がどうなるのって話ですが(笑)、どちらにせよ人間のプログラミング上をエラーなのかもしれませんね。
それとも自然淘汰なのかな? 環境に適応できない種は滅びていくのが常です。それは人間社会でもおそらく同じことで、そう考えると自殺っていうのは自然淘汰の一環なのかも。生物は他の種に滅ぼされたり、自ら滅んでいったりするわけですが、だったら自殺とは生物が自ら本能的に己の滅亡(つまりは環境に適応できず、のちの生存力に欠けること)を悟っての非常に動物的に自然な行為なのかもしれません。…って別に自殺についての話ではありませんでしたが(笑) というか、ここまで話が拡がると、今回書いたものとは関係ない世界になってしまう(笑)

まあ、いろいろなことを考えつつ(俺のようにどんどん妄想を膨らませて)楽しんでもらうっていうのもなかなか嬉しいものです。
別に深い意味など考えなく読むのもアリですしね!

またのお越しをお待ちしていますね。
● はじめまして
sammo | URL | 2009/04/16(木) 13:31 [EDIT]
いろんな人の短編小説ばっか漁ってる者です。
お気軽にコメントだったのでコメントしてみました(笑

「生きるって何?」
「死んでから考えろ!生きてるうちにそんな事考える必要ねぇ」
なんてどっかの名言サイトで読みましたが本当に考えてるし…
みたいなタイムリーな話で自分としてはニヤッとなんかしてしまいました。

あと、自分が行きやすいように勝手リンクもさせてもらっちゃいましたm(_ _)m
ということでまたお邪魔したいと思います。

匡介 | URL | 2009/04/16(木) 14:06 [EDIT]
>sammoさん
どうも、初めまして。
たまにタイムリーな話題だとつい気になってしまいますよね(笑)
しかし、まあ、実際のところ死んだらもう生きることについて考えても何の役にも立たなそうですが(笑)

是非またのお越しを♪

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