Coffee Break ~アカハナ~
少々ながら風邪気味の絵美は昨日からティッシュの大量消費をしている。おかげで彼女の鼻は赤くなってしまっていた。
絵美はその鼻をさすりながら階段を下りてきた。彼女が起きたその頃には旦那はもう朝食を済ませていた。
「おはよう」
絵美がそう言うと旦那も同じ言葉を返した。
「朝食は先に頂いたよ」
旦那はそう言って、自分の鞄(かばん)を手にした。
「もう行くの?」
絵美は尋ねる。
「ああ、最近忙しいんだ。少しでも早く行って仕事に取りかからなきゃいけないんだよ」
元々彼の仕事の忙しさは承知の上だし、それが今さらに忙しいということも絵美は知っていた。なので特に何も言わずに彼を送る。
「お仕事、頑張ってね」
彼が玄関を出ようとするのと同時に彼女はそう言った。
絵美の旦那の忙しさを聞いた佳恵はびっくりした。
「アンタ、そりゃ何にしたって仕事しすぎよ!」
佳恵はそう言って続ける。
「本当に仕事? どっかの女と浮気でもしてるんじゃないの?」
それを聞いて絵美は旦那が誰か他の女と浮気している姿を想像してみた。
ありえない。どう考えても自分の旦那は浮気なんかをする質(たち)ではないのだ。
「それはないわよ。彼は本当に忙しいの」
佳恵は、何故そう簡単に信じちゃうの?といった様子のまま、手前にあるカップを手に取り、コーヒーを啜った。
「でも、仕事だとしても妻のことを放っておき過ぎよ」
「そうかな?」
「帰ってくるの何時だって?」
「11時過ぎ」
「ほら。どう考えても遅すぎるわ」
絵美は弱りぎみに身をかがめてから、コーヒーに口にした。
やはりここのコーヒーは美味しい。初老のマスターもとても人が良くて、絵美はこのカフェがお気に入りだった。
「彼だって大変なのよ」
「でも、それは働きすぎ。アナタが風邪だってことにも気付いてすらないわよ、きっと」
「そこまでひどい風邪じゃないもの。別にいいわよ」
はあ、と佳恵はお手上げそうに溜め息をついた。
「アンタも本当に人が良すぎだわね」
時計に目をやると、もう11時を10分も過ぎていた。旦那はまだ帰ってこない。
もうそろそろ帰ってきてもいい頃なのにな、と絵美は思う。事故にでも遭ったんだろうかという不安がよぎる。
「ただいま」
玄関のドアが開く音と同時に声がした。
「おかえりなさい」
絵美は旦那の鞄を受け取った。
「なにそれ?」
旦那の手には、鞄ともうひとつ大きなビニール袋があった。
「ん? ああ、これ? ティッシュペーパー」
彼はそう言いながら家の中に入り、コーヒーを淹れる準備をした。
「あ、淹れるならわたしがやるわよ」
「大丈夫。俺がやるから」
「でも…疲れてるでしょう?」
自分の妻の気遣いに、彼は微笑んだ。
「ありがとう。でも、キミだって大変だろう? こんな時間まで待ってなくてもよかったのに」
結局、絵美は彼の代わりにコーヒーを淹れることを諦めて、そして再び尋ねた。
「ティッシュペーパーなんてどうして買ってきたの?」
熱いお湯の入ったポットを手にしながら彼は言う。
「だって絵美、風邪ひいてるだろう?」
言ってもいないのに、それを言い当てられて絵美はびっくりした。
「どうして?」
「なんだよ。俺が知らないとでも思ってた? 朝起きて、あれだけゴミ箱がティッシュで埋め尽くされていれば、誰だって気付くさ」
しかし、実をいうと彼女は昼間にすでにティッシュを買ってしまっていた。彼の気遣いを思うとそれを言い出しづらい。
「それにその真っ赤な鼻を見れば一目瞭然さ。まるでトナカイみたいだぜ?」
そう言って彼は歌を口ずさんだ。真っ赤なお鼻のトナカイさんは~♪
「クリスマスはまだまだよ」
絵美はそう言って彼が歌うのを止めた。
「今、キミに必要なのはそのティッシュさ」
彼はそう言って買ってきたティッシュの箱を指さす。
「なに?」
「そのティッシュはとても柔らかくて鼻に優しい」
他のとはちょっとだけ高いそのティッシュを彼は買ったのだ。妻がこれ以上、自分の鼻を赤くしないようにと。
「ほら、コーヒーを淹れたよ。キミも飲むだろ?」
彼の手にはコーヒーのカップがふたつ。そのひとつを彼女に渡した。
「もう少しで仕事が一段落するからさ。そのときは休みを取るよ」
彼は熱いコーヒーを啜った。
「そのときは一緒にゆっくりしてよう」
彼の言葉を聞いて、絵美は微笑んだ。
彼女にとって、彼の優しさが一番の特効薬なのかもしれない。
絵美はその鼻をさすりながら階段を下りてきた。彼女が起きたその頃には旦那はもう朝食を済ませていた。
「おはよう」
絵美がそう言うと旦那も同じ言葉を返した。
「朝食は先に頂いたよ」
旦那はそう言って、自分の鞄(かばん)を手にした。
「もう行くの?」
絵美は尋ねる。
「ああ、最近忙しいんだ。少しでも早く行って仕事に取りかからなきゃいけないんだよ」
元々彼の仕事の忙しさは承知の上だし、それが今さらに忙しいということも絵美は知っていた。なので特に何も言わずに彼を送る。
「お仕事、頑張ってね」
彼が玄関を出ようとするのと同時に彼女はそう言った。
絵美の旦那の忙しさを聞いた佳恵はびっくりした。
「アンタ、そりゃ何にしたって仕事しすぎよ!」
佳恵はそう言って続ける。
「本当に仕事? どっかの女と浮気でもしてるんじゃないの?」
それを聞いて絵美は旦那が誰か他の女と浮気している姿を想像してみた。
ありえない。どう考えても自分の旦那は浮気なんかをする質(たち)ではないのだ。
「それはないわよ。彼は本当に忙しいの」
佳恵は、何故そう簡単に信じちゃうの?といった様子のまま、手前にあるカップを手に取り、コーヒーを啜った。
「でも、仕事だとしても妻のことを放っておき過ぎよ」
「そうかな?」
「帰ってくるの何時だって?」
「11時過ぎ」
「ほら。どう考えても遅すぎるわ」
絵美は弱りぎみに身をかがめてから、コーヒーに口にした。
やはりここのコーヒーは美味しい。初老のマスターもとても人が良くて、絵美はこのカフェがお気に入りだった。
「彼だって大変なのよ」
「でも、それは働きすぎ。アナタが風邪だってことにも気付いてすらないわよ、きっと」
「そこまでひどい風邪じゃないもの。別にいいわよ」
はあ、と佳恵はお手上げそうに溜め息をついた。
「アンタも本当に人が良すぎだわね」
時計に目をやると、もう11時を10分も過ぎていた。旦那はまだ帰ってこない。
もうそろそろ帰ってきてもいい頃なのにな、と絵美は思う。事故にでも遭ったんだろうかという不安がよぎる。
「ただいま」
玄関のドアが開く音と同時に声がした。
「おかえりなさい」
絵美は旦那の鞄を受け取った。
「なにそれ?」
旦那の手には、鞄ともうひとつ大きなビニール袋があった。
「ん? ああ、これ? ティッシュペーパー」
彼はそう言いながら家の中に入り、コーヒーを淹れる準備をした。
「あ、淹れるならわたしがやるわよ」
「大丈夫。俺がやるから」
「でも…疲れてるでしょう?」
自分の妻の気遣いに、彼は微笑んだ。
「ありがとう。でも、キミだって大変だろう? こんな時間まで待ってなくてもよかったのに」
結局、絵美は彼の代わりにコーヒーを淹れることを諦めて、そして再び尋ねた。
「ティッシュペーパーなんてどうして買ってきたの?」
熱いお湯の入ったポットを手にしながら彼は言う。
「だって絵美、風邪ひいてるだろう?」
言ってもいないのに、それを言い当てられて絵美はびっくりした。
「どうして?」
「なんだよ。俺が知らないとでも思ってた? 朝起きて、あれだけゴミ箱がティッシュで埋め尽くされていれば、誰だって気付くさ」
しかし、実をいうと彼女は昼間にすでにティッシュを買ってしまっていた。彼の気遣いを思うとそれを言い出しづらい。
「それにその真っ赤な鼻を見れば一目瞭然さ。まるでトナカイみたいだぜ?」
そう言って彼は歌を口ずさんだ。真っ赤なお鼻のトナカイさんは~♪
「クリスマスはまだまだよ」
絵美はそう言って彼が歌うのを止めた。
「今、キミに必要なのはそのティッシュさ」
彼はそう言って買ってきたティッシュの箱を指さす。
「なに?」
「そのティッシュはとても柔らかくて鼻に優しい」
他のとはちょっとだけ高いそのティッシュを彼は買ったのだ。妻がこれ以上、自分の鼻を赤くしないようにと。
「ほら、コーヒーを淹れたよ。キミも飲むだろ?」
彼の手にはコーヒーのカップがふたつ。そのひとつを彼女に渡した。
「もう少しで仕事が一段落するからさ。そのときは休みを取るよ」
彼は熱いコーヒーを啜った。
「そのときは一緒にゆっくりしてよう」
彼の言葉を聞いて、絵美は微笑んだ。
彼女にとって、彼の優しさが一番の特効薬なのかもしれない。
COMMENT
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ミーコ | URL | 2008/11/11(火) 13:14 [EDIT]
ミーコ | URL | 2008/11/11(火) 13:14 [EDIT]
懐かしいねー。どうせならパワーアップさせて載せて欲しかったです。
●
めたふぁー | URL | 2008/11/11(火) 18:47 [EDIT]
めたふぁー | URL | 2008/11/11(火) 18:47 [EDIT]
わあ、懐かしい!
これ好きだったんですよね
理想の夫婦ですよw
暖かさと微熱とコーヒーの香りと鼻セレブを思い浮かべながら
ほのぼのとした気持ちで、再び読み返しました!
やっぱいいですね
信頼感が溢れてて、露骨さのない愛情が素敵です
これ好きだったんですよね
理想の夫婦ですよw
暖かさと微熱とコーヒーの香りと鼻セレブを思い浮かべながら
ほのぼのとした気持ちで、再び読み返しました!
やっぱいいですね
信頼感が溢れてて、露骨さのない愛情が素敵です
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匡介 | URL | 2008/11/12(水) 04:47 [EDIT]
匡介 | URL | 2008/11/12(水) 04:47 [EDIT]
>ミーコ
ちょっと作品に向かう熱が足りなかったです。
意外と苦戦して、まぁ いっか、みたいになりました(笑)
ちょっと作品に向かう熱が足りなかったです。
意外と苦戦して、まぁ いっか、みたいになりました(笑)
●
匡介 | URL | 2008/11/12(水) 04:56 [EDIT]
匡介 | URL | 2008/11/12(水) 04:56 [EDIT]
>めたふぁーさん
ありがとうございます♪
やはりイメージは鼻セレブですか(笑) みんなそう思うんだろうなって思いながら予想を裏切ってエリエールのローションティシューです(確かエリエールだったはず)。めっちゃ気持ちいい肌ざわりの一品です。
この作品は好評なので、逆により面白い(この場合はあたたかい)モノを作らなきゃ! って思います。
これからも、人気のときこそ上を狙え!のハングリー精神で頑張りますねー。
応援よろしくお願いします♪
ありがとうございます♪
やはりイメージは鼻セレブですか(笑) みんなそう思うんだろうなって思いながら予想を裏切ってエリエールのローションティシューです(確かエリエールだったはず)。めっちゃ気持ちいい肌ざわりの一品です。
この作品は好評なので、逆により面白い(この場合はあたたかい)モノを作らなきゃ! って思います。
これからも、人気のときこそ上を狙え!のハングリー精神で頑張りますねー。
応援よろしくお願いします♪
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